第8話「再会」
「母上、四郎です。」
四郎は母に会いに乾福寺を訪れていた。しかし、母・諏訪御料人はもうこの世にいない。
諏訪御料人は、弘治元年11月6日に亡くなった。長年に渡る三条の方からの嫌がらせによる心労が原因であった。
「俺、12になりました。剣術や馬術の稽古、辛いけどちゃんとやってますよ。だから心配しないで…。」
四郎は腰を下ろし、優しく墓に語りかける。そして目を閉じ、手を合わせた。
「………。」
静かだ。聞こえるのは、風で揺れる木の枝の音と鳥のさえずりのみ。きっとここなら母も安らかに眠れるだろう。
「では、母上。また…。」
四郎は帰ろうと腰をあげたそのとき、背後に人の気配を感じた。
「誰だ・・・!」
振り返るとそこには見覚えのある少女が立っていた。
「お久しぶりです。あの時は、ありがとうございました。」
「君は・・・なんでここに・・・!?その格好は・・・?」
四郎は驚きを隠せなかった。そこにいたのは山賊に襲われていたところを助けた少女。しかし、なぜか彼女は忍び装束を身に纏っていた。
「私の名は望月千代女。忍びです。」
「望月・・・?お前、あの甲賀望月氏の忍びだったのか・・・!?」
甲賀望月氏は、甲賀五十三家の筆頭である上忍の家柄だ。信濃の豪族である望月氏はその本家にあたる。そのため、甲賀望月氏と武田家は友好関係にあった。
「父上ならおそらく躑躅ヶ崎にいると思うが・・・。」
「いえ、武田晴信様には用はありません。」
千代女はそう言うと、四郎の目をじっと見つめた。そして微笑みながら思いもよらない一言を放った。
「アナタに用があるのです。四郎様。」
「え・・・?俺?」
そのころ、一人の商人が甲斐国と駿河国をつなぐ道を歩いていた。
「今日は売れた売れた~!」
その商人は、思ったよりも商品が売れ、上機嫌だった。
「ちと小便~。」
商人は用を足すため茂みに入った。
「ふんふんふ~んっと・・・。ん?うわあああああああああああ!」
商人の叫び声が響く。足下に女の死骸が横たわっていたのだ。その女の死骸は全裸であった。まだ腐敗しておらず、殺されてまもないように思われた。
「一体誰がこんなことを・・・。」
アザだらけの体、あり得ない方向に曲がった腕。まさかこの無惨な姿で転がっている彼女が忍びの名門・甲賀望月氏のくノ一だとは誰も思わないだろう。
そう、この女こそ、本物の望月千代女であった。




