第6話「初恋」
「ここはどこなんだ‥‥。」
暗い森の中をさまよう一人の若い男。彼は、道に迷ってしまい途方に暮れていた。
「クソ、調子に乗って遠くに来すぎたな。」
男がそんなことをぶつぶつと呟きながら歩いていると突然、大きな叫び声が聞こえた。
「キャー!助けて!」
悲鳴だ。助けてと言っているのだからきっとただ事ではない。助けなければ。男は悲鳴が聞こえた方へと走る。
「ヘッヘッへ‥‥、良い女だな、おい。」
「ああ、まったくだぜ。ヒヒヒ‥‥。」
悲鳴のしたほうへ駆けつけると、少女が二人の男に襲われていた。二人の男は、濃い髭にボロボロな服。いかにも山賊といった格好をしている。一方、少女の方は服は貧そうだが、なかなか可愛い。
「ああ?なんだてめぇは‥‥。」
気づかれた。仕方がないので姿を見せる。
「その娘を離せ。俺は武田家の者だからな。武田の領地で好き勝手する外道を許すわけにはいかない。」
「なんだてめぇ、武田の侍か。ハン、偉そうに!殺してやる!」
山賊たちが男に斬りかかる。しかし、男はヒラリと軽やかな身のこなしで山賊二人の攻撃をいとも簡単によけた。
「な、はええ‥‥!」
二人がかりの攻撃をこうも簡単によけられるなんて。きっとこの男は凄い猛将に違いない。だとしたら分が悪い。そう悟った山賊達は逃げていった。
「助けていただきありがとうございます。助かりました。ぜひお礼をさせてください。」
「いえいえ、礼なんて。俺は、当然のことをしたまで。いや〜、無事で良かった。では。」
男はそう言うと足早に去って行った。
っと思ったら戻って来た。
「えっと、あのさ‥‥。躑躅ヶ崎への道教えて。道に迷っちゃって‥‥。」
「若、探しましたぞ!どこでなにしておられたのです!」
「いや、ちょっと人助けを‥‥。いや〜、あの娘綺麗だったな。また会えるかなぁ。」
脳裏にあの少女の顔が浮かぶ。
「若、なにブツブツ言ってるんですか。さ、早く館の中へ。」
四郎12歳。これが彼の初恋だった。