第15話「川中島の戦い ~後編~」
鬼小島弥太郎と飯富源四郎、二人の猛将が激突した。
「おりゃあああああああ!!!」
「うおおおおおおおおお!!!」
交わる刃と刃。両者の力は互角であった。
「ふん、やるな・・・!」
弥太郎は笑みを浮かべた。まるで源四郎との勝負を楽しんでいるようだった。
「貴殿こそ。」
一方、源四郎の方も笑みを浮かべている。源四郎もまた、弥太郎との一騎打ちを楽しんでいたのだ。
「せいやっ!!」
「どりゃっ!!」
再び両者は激突する。しかし、またも決着は着かず。その後、何度も何度も刃を交えるがお互い致命傷を与えることはできず、気がつけば一騎打ちを始めてからかなりの時間が経過していた。
「そろそろ決着をつけさせていただく・・・。これで終わりだ!どりゃぁぁぁ!」
源四郎が弥太郎に向かって槍を振るう。もうこれで何度目の激突だろうか。
「ムッ・・・!?」
弥太郎は今までと同じように迎え撃つ。しかし、弥太郎は気づいた。源四郎の攻撃が最初に比べ変化していることに。
(今までのに比べ、攻撃が稚拙だな・・・。疲れがでてきたのか・・・?いや、違う・・・!)
「おりゃああああ!!!」
「うぐっ!」
長きにわたった一騎打ちの決着が今、ついた。弥太郎の刃が源四郎の体を深く傷つけたのだ。源四郎はその場にうずくまる。しかし、とっさに避けたため致命傷にはなっていない。
「さすが天下無双の鬼小島・・・!お見事・・・!」
源四郎は弥太郎の武を褒め称えた。しかし、弥太郎は一切喜びを見せず、無表情で源四郎に問いを投げかけた。
「最後の貴様の攻撃、焦っているように感じた。そのために隙が生まれ、俺の刃が貴様に届いた。貴様は一体なにを急いでいたのだ?」
いままで冷静だった源四郎が突然焦った。その理由を弥太郎は知りたかった。
「義信様を救援せねばと・・・。」
源四郎は弥太郎の問いに答えた。
一騎打ちの途中、源四郎は義信が敵に飲み込まれたのを見てしまい、心に焦りが生じてしまったのだった。他の将ならばそこまで焦らなかっただろう。しかし義信は信玄の嫡男だ。しかもまだ若く未熟。放っておくわけにはいかなかった。
「そうか・・・。」
それを聞いた弥太郎は槍の穂先を下に向けると、予想外の一言を放った。
「早く救援に行かれよ。」
「な、よろしいのか・・・。」
驚きを隠せない源四郎。弥太郎は大声で叫んだ。
「はやく行けぇい!勝負は一旦お預けだ。また会ったとき、決着をつけようぞ・・・!」
源四郎は弥太郎の厚意に涙した。
一方、1000ばかりの兵を連れ、出撃した上杉政虎は武田本陣の手前まで来ていた。
「信玄の首は目前ぞ・・・!」
憎き宿敵の首をもうすぐでとれる。それを思うと政虎は笑みが止まらなかった。
しかし、武田本陣まであと少しというところで予想外の事態が起きた。
「今じゃ!かかれぇ-!!!」
武田の伏兵である。数は300。指揮を執っているのは軍師・山本勘助であった。
(政虎の性格からして、必ずや自ら本陣を攻めてくると思っておったぞ・・・!)
策の成功に勘助は思わず笑みを浮かべる。
側面を突かれた形となった上杉軍は動揺、本陣の手前で動きを止めた。
「慌てるな!数では我らの方が有利だ!冷静に対応すれば押し返せる!」
このまま山本隊に押しつぶされるかに思えた上杉軍だったが、この政虎の一喝により冷静さを取り戻した。これにより、乱戦状態になった。
「ちっ、さすがは政虎・・・!だが、別働隊が来るまでなんとしてでも持ちこたえてみせるわい!」
だが、勘助も一歩も引かない。刀を抜き、多くの敵兵を斬っていった。
正午、ある軍団が八幡原に姿を現した。それは武田の将兵の誰もが待ちわびていたものだった。
「上杉本陣の伏兵に少々手間取ったが、何とか間に合ったな。」
軍団の先頭に立つのは高坂昌信。その軍団は武田の別働隊であった。
「行くぞ!敵兵を蹴散らし、本隊を救うのだ!」
別働隊の到着により、武田軍の士気は上昇。次第に上杉軍を押し返していった。
本隊と別働隊に挟まれる形となった政虎はすぐさま撤退を開始、善光寺の兵と合流したのち、越後へと引き返した。
こうして、川中島の戦いは終わりを告げた。
この戦で信玄は、武田信繁、両角豊後守、初鹿野忠次、油川彦三郎、安間三右衛門ら多くの重臣達に加え、軍師・山本勘助を失った。