第14話「川中島の戦い ~中編~」
「さすが武田・・・。そう簡単には崩れぬか・・・。」
政虎は焦っていた。
たしかに今は上杉の方が圧倒的に優勢である。しかし、武田には妻女山へと向かった別働隊がいる。別働隊が武田本隊に合流してしまえば戦況は一転して不利になってしまう。政虎としてはなんとしてでも武田の別働隊が戻ってくる前に決着をつけておきたかった。
そこで、政虎はある決断をした。
「定満、部隊の指揮はお前に任せる。俺は武田本陣に攻め入る。」
「ハッ!くれぐれもお気をつけて!」
本来総大将たる者本陣でドッシリと構えているべきであり、敵本陣に自ら突撃するなどもってのほかだ。しかし、定満は主を止めようとはしなかった。なぜなら止めても無駄であることを定満は知っていたからだ。
政虎は愛馬・放生月毛にまたがると、大声で叫んだ。
「これより我らは武田本陣を目指す!そして、敵総大将・信玄の首を取る!皆の者、この俺について参れ!」
決着をつけるため、政虎は雑兵を1000ほどを率いて武田本陣へと向かった。
そのころ、戦場の中央では一人の男が襲いかかる兵達を次々と薙ぎ払っていた。
「ふっ、雑魚が・・・。誰かこの俺を楽しませることのできるやつはおらんのか。」
その男は己の斬った兵の死骸の山を見て、つまらなそうにそう言い放った。
彼の名は鬼小島弥太郎。上杉一の猛将である。
彼の額には傷がある。これはかつて猛犬と戦ったときについた傷で、彼の勇猛さをよく表していた。
「どうした?かかってこんのか?情けない・・・。」
武田兵はすっかり弥太郎の迫力に怖じ気づいていた。中にはあまりの恐怖に腰を抜かす者もいた。
そんな中、一人の男が弥太郎の前に現れた。
「我が名は飯富源四郎。貴殿との一騎打ちを所望する。」
「ほう、お前なかなか強そうだな・・・。ふっ、少しは楽しめそうだ・・・。」
待ちわびた猛者の登場に弥太郎は心を躍らせた。
弥太郎と源四郎。両軍を代表する猛将同士の一騎打ちが今始まろうとしていた。