第12話「重臣二人」
地面には無数の死骸が転がっていた。脳天に矢が刺さっている者、馬に轢かれて体中アザだらけの者、首と銅が離れている者・・・。まさしく、辺り一面血の海と呼ぶのにふさわしい光景だ。
そんなむごい光景の中、二人の男が佇んでいた。一人は大柄で、まるで山賊のようなむさ苦しい髭をした男。もう一人の方は、小柄でもなく大柄でもなく、顔もこれといって特徴のない、平凡という言葉が誰よりも似合いそうな男だ。
「勝ってしまったな・・・、勝家。」
「勝ってしまったとはなんだ。嬉しくないのか、秀貞?」
親しげに語り合う二人。彼らは織田家の重臣である。髭がむさ苦しいほうを柴田勝家、顔に特徴のないほうを林秀貞という。どちらも信長からの信頼厚い、織田家には欠かせぬ男である。
「いや、まだ実感がないのだ。まさかあの今川に勝てるとは・・・。」
昨日、この地で合戦が行われた。織田軍5000対今川軍2万5000。誰もが今川が勝つと思っていた。しかし、勝ったのはたった5000の織田であった。
「まあ正直、俺もまだ実感がない・・・。だが、これだけは言える。今川を倒したとなれば多くの大名達が我らを警戒するだろう。相模の北条、美濃の斎藤、そして甲斐の武田・・・。これからはより激しい戦が増えるかもしれぬな・・・。」
「そ、そうか・・・。北条に斎藤に武田か・・・。」
名だたる大名の名を聞いて少し怖じ気づく秀貞。それを見て勝家は豪快に笑った。
「ハッハッハ!なあに、心配することはない。全部倒してしまえばいいのだ。」
今川に勝ったとはいえ、まだまだ規模の小さい織田家。全部倒すなど無理に決まっている。しかし、不思議と勝家が言うと妙な説得力があった。
「ふっ、そうだな。こちらには鬼柴田がいるものな。」
「おうよ、俺が全て蹴散らしてくれるわ!」
こうして尾張の弱小大名であった織田家が天下取りに名乗りを上げたのであった。
永禄4年、武田軍2万が北信濃へと侵攻した。総大将は晴信だが、永禄2年に出家し、現在は信玄と名乗っている。
「ふっ、尾張のうつけが今川を喰うのならば、甲斐の虎は上杉を喰ってくれようぞ・・・!」
今、甲斐の虎・武田信玄と越後の龍・上杉政虎、戦国を代表する両雄が川中島の地で激突しようとしていた。
第12話どうだったでしょうか。
これで年内の投稿はおそらく最後です。
13話は正月に投稿できればいいなと思っています。
それでは皆さん、良いお年を!