第10話「桶狭間の戦い」
織田領に侵攻した今川軍は、桶狭間で休息をとっていた。
「織田は籠城の構え。ふっ、さすがの信長も我らの軍勢を見て怖じ気づいたようだ。」
「織田なんぞ我らの敵ではないわ!ガハハハハハ!」
今川家臣達は完全に油断していた。それもそのはず、もともとこの大軍は美濃の斎藤や近江の六角との戦いのために用意されたもの。織田などそもそも眼中にないのだ。
そんな中、一人油断していない人物がいた。その男の名は今川義元。この軍の総大将である。
(籠城か・・・。しかしヤツのことだ。なにか企んでるかもしれん・・・。)
義元は空を見る。曇天模様。いまにも雨が降りそうだった。
尾張・清洲城。
「殿、その格好は一体・・・!?」
勝家は、信長の格好を見て驚いた。なんと信長は甲冑を身につけていたのだ。
「見て分からぬのか。出陣だ。お主も早く支度しろ。」
まるであたりまえのことのように答える信長。
「籠城ではないのですか・・・?」
「気が変わった。今川本陣に奇襲をかけることにした。」
5000対2万5000。この兵力差で勝つには確かに奇襲しかない。しかし、相手は『海道一の弓取り』と称される今川義元。奇襲が成功する確率は限りなく低い。
「ガッハッハッハッハ!」
勝家は豪快に笑った。
「どうした権六。気でも触れたのか?」
「いえ、殿らしいなと思いまして。この柴田勝家、お供いたします!殿のご命令のままに敵を蹴散らしてご覧に入れましょうぞ!」
「ふっ、頼もしいな。それでこそ織田の筆頭家老だ。」
のちに桶狭間の戦いと呼ばれる日本最大の奇襲戦が幕を開けた。
雨が降り出した。
「この雨が馬の嘶きや足音をかき消してくれるだろう。」
信長はニヤリと笑った。
「いいか!狙うは今川義元の首ただひとつ!突撃!」
織田軍5000が今川本陣に迫る。油断しきっていた今川軍は対応が遅れた。
「な、織田軍!?いつの間に!」
狼狽する今川軍の兵士達。
「うおりゃああああ!」
勝家は雄叫びをあげながら長槍を振るう。敵兵は鮮血を噴き上げて、次々と力なく倒れていった。
「ひえええ!鬼柴田だ!鬼柴田が来たぞぉ!逃げろぉぉぉ!」
今川軍の兵士の泣き叫ぶ声が戦場に響く。
「柴田様に続け!勢いは我らにある!」
勝家の活躍は織田軍の士気を大いに高めた。数で圧倒的に劣っているはずの織田軍が今川軍を次第に飲み込んでいった。