第1話「誕生」
「わしは諏訪頼重の娘を側室に迎えることに致した。」
天文11年、甲斐国主・武田晴信は、信濃の雄・諏訪頼重を倒し、遂に念願の諏訪攻略を果す。そして、頼重の娘を側室として迎えようとした。しかし、これに家臣から反対の意見が出た。
「殿、敵将の娘でございまするぞ!側室に迎えるのはお考え直し下され!」
真っ先に反対したのは重臣の板垣信方であった。
「うむ。頼重を討ち、さらにその姫を力で奪ったとなれば、諏訪の民の心がますます離れかねませぬ!」
さらに、同じく重臣の飯富虎昌も信方の意見に同調する。やはり、敵将の娘を側室に迎えるというのはあまりにも聞こえが悪い。
「ならば、いったん禰津元直殿の養女とし、それから嫁がせるというのはいかがでございましょうか。」
そう提案したのは山本勘助。晴信の軍師である。
「さすがは勘助!名案じゃ!では早速そのように取りはからえ!」
「ハッ!」
重臣達の中にはまだ納得いかない者達もいたが、こうして半ば強引に諏訪御料人の輿入れは行われた。
「なに!殿が諏訪頼重の娘を側室に迎えるじゃと‥‥?」
諏訪御料人の輿入れに納得いかない者がここにも一人。晴信の正室・三条の方である。
「まあよい。その諏訪の田舎姫、妾がたっぷり可愛がってやろう‥‥。」
三条の方はニヤッと怪しい笑みを見せた。その後、輿入れしてきた諏訪御料人は、三条の方から悪質なイジメを受けることになる。
天文15年、三条の方のイジメにもめげず、諏訪御料人は元気な男の子を出産した。
「でかした!この子の名は四郎といたそう!よい名じゃろ?」
「はい。」
我が子の誕生に、普段は冷静な晴信もすっかり興奮していた。
「じつはな、元服後の名も考えたんじゃ!」
「まあ、せっかちなこと‥‥。」
諏訪御料人はすっかり呆れていたが、晴信は気にせず自信満々に考えた名前を発表した。
「勝頼。武田勝頼じゃ!」