知ってる
最近、俺の周りで不思議なことがよく起こる。
まず……あれは今年の五月のことだった。
バイト先の本屋に行った時のこと。
「こんにちはー」
いつも通り、店に入ると同時に挨拶をする。
すると、パートさんは俺をキョトンとした顔で迎えた。
「あれ、どこいってたの?」
「どこって……大学ですけど」
――パートさんは言った。
「えっ……だって今さっきバックヤード入って行ったじゃない」
……俺はその日、初めて店に入ったというのに。
「見間違いでしょう」。俺がそう言うと、「だって、ちゃんと挨拶したのよ」とパートさんは言った。
こんなこともあった。
家に帰ると、母さんがリビングで大きな饅頭を食べていた。「あ、一個ちょうだい」と言って箱に入っていた一つを掴むと、
「ちょっと! さっきアンタ一つ持ってったでしょ!」
と言われた。
「ハァ? 持って行ってないよ!」と弁明をすると母さんはムッとした顔で、
「イヤシイ奴」
と言って、俺を睨みつけた。
言われようのない非難を受けて、憤慨して自室に戻ると――
テーブルの上に、饅頭があった。
極めつけは、これだった。
ある日。大学の教室に入ると、学友が三人、一箇所に固まって居た。
「おはよう!」
挨拶をして近づくと、三人はあっけに取られたような顔をする。
俺はその日の登校時ある出来事を体験して興奮していたので、そんなことはお構いなしに話し始めた。
「聞いてくれよ。実はさ、今日学校来る途中、電車の中である人に会ったんだよ! ……誰だと思う?」
すると友人の一人が言った。
「お笑い芸人のEだろ?」
――今度は、俺が驚く番だった。
「えっ……うん……。そうなんだけど……」
(どうして知ってるんだ? まだ誰にも話してないのに……。同じ電車に、誰か知り合いが乗ってたのか……?)。俺は、混乱した。
「で、でもさ! アイドルのFと一緒にいたんだぜっ⁉︎ マスクとかサングラスしてたけど、あれは間違いなくEとFだった! ホラッ、付き合ってるんじゃねぇかって、噂になってたじゃんか!」
「うん、知ってる」
友人の一人、Gが言った。
「お前から聞いたもん」
そう、続けた。
「俺から聞いた……?」俺はGに聞いた。
「いつ?」
「今」
――。
俺の中で、仮説が確信に変わった瞬間だった。