君が眠る日に。
エロ皆無ですgdgdです(大事なことなので二回)
全く物語が浮かんで来ないので気分転換にでも、と。
軽い気持ちで読んでくだされば嬉しいです
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ガタンゴトン、揺れる汽車の中で。
窓から見える空は青く澄み、ゆっくりと雲が流れていく。
「おい見ろよ、綺麗だぞ。」
そう言えばうつらうつらしたお前が雲のように白い肌をゆっくりと上に上げ、空を見て小さく口角をあげた。
そしてまたゆっくりと。俺を見て微笑む。
「ほんと、綺麗だな」
笑ったあと、グシャグシャと俺の髪を撫でて。
なんだか一人興奮してる自分が恥ずかしくなり、下を向く。
と、クスリ、小さく笑う声がして。 バッと顔を上げれば目の前の席に座った老夫婦が俺たちを見て笑っていた。
「仲が良いのねぇ」
「俺たちも負けとらんだろ」
フン、と鼻息を荒くしてお婆さんの手をギュッと握ったお爺さん。 ああ、俺も、そんな風になりたいなぁ、なんて叶いそうにない願いを考えた。
そんなお爺さんにクスクスと柔らかく笑ったお婆さんを見て、先程の言葉に無性に恥ずかしくなった。
「そ、そうですよ!俺たちなんか全然!なぁ!? って、寝るなばか!」
「あらあらお爺さんったら。 ふふ、そっちの子は疲れてるのかしら?」
「あ、えっと、そう、です」
しどろもどろに答えた俺に、眉を寄せたお爺さんとは正反対にお婆さんは先程の優しい笑みを続行中だ。
目尻に皺を寄せ、微笑んでいる。
別にコイツの病気を説明する理由もない。
言ってもどうせ同情されるだけだと知っているから。言ってもどうせ治らないことなんて分かってるから。
何か変わるのかも知れないけど。 変わっているのならこんなとこになんて来てないさ。こんな覚悟なんてする必要もない。
窓の外に走らせた視線。 空から降る光に反射してキラキラと光る湖。風に仲良く揺れる木々。
「おい起きろって!すげぇ綺麗!」
「………ん、わ、綺麗だな……」
「だろ!」
ニコニコ笑う俺、無表情なお前。
いつも通りだ。さっきみたいにお前が笑うのなんか殆どない。 だからこそ、お前が笑ってくれるだけで幸せだったんだ。
───────まだ旅は始ったばかり。
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「なんだと!?アイツ等が消えた!?」
「ええ、ええ。そうなの、朝起こしに行ったら何処にも居なくて………」
「チッ! 心当たりはないのか?」
「あるわけないじゃないっ!だってあの子たちは“外の世界”ことを何も知らないのよ!?」
慌しく動く二人の男女。
男は何処かに電話を掛け始め、女は泣きながらそんな男を見つめていた。
そして電話が切れれば舌打ちを零し、携帯を壁に向かって投げ付ける。 そんな男を見て何かハッとした女は駆け足で階段を駆け上がった。
──────そんなこと、ないわよね?
夏、だが暑いという程ではない家の中。 女のこめかみから一筋の汗が流れた。
音を立てて開いたドア。震えた手で電気を点ける。 眩しくて一度閉じた瞼を上げて見えてくるのは整えられた部屋の中。
先程は焦ってよく確認していなかった。でも……
「ああ、ああ………」
“どうして…?”
たった四文字の言葉が喉を通り抜けることはなく。 ふらりとソレを手に取り、そのまま女は膝から崩れ落ちた。
「どうした!?何か見つけたか!?」
物音を聞いた男が階段を駆け上がり、倒れる女を見つけその肩を抱いた。
そんな男に女は顔を上げ───────涙で濡れた顔をまた歪ませた。
「あなた……あの子、忘れて行ったわ………」
「っ、まさか…!?」
大事に、守るように。 女が両の拳の中にしまったソレを男はこの瞳で確認した。
ソレは彼を守るためのもので。これがなくては彼はきっと四日も経たずこの世から消えてしまうだろう。
彼は……いや彼等は帰って来てくれるだろうか。この家に、居場所に。
そう女は心の中で問い掛けた。だが、今此処に彼等が居ないことが答えだろう。
彼等は鳥だ。だが周りと違うのは飛べないこと、片翼しかないことだ。周りとは違う、不完全な鳥たち。
でもその鳥たちは手と手を取り合い、二人で足りない翼を補いながら空へと羽ばたいたのだ、鳥籠の世界から青く澄み渡る大空へと。
──────帰って来ない。もう、二度と―――………
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「見ろよ、すっげぇ綺麗。」
「………わ、マジだ」
キラキラと太陽の光が水に反射して輝く。海を更に綺麗にみせて。 写真の中でしか、テレビの中でしか見たことのなかった光景が目の前にある。
握った手の温かさが、この外の暖かさが現実だと教えてくれる。
「少し歩くか」
「…でもお前、」
「大丈夫だから、折角だしさ」
「……そうだな」
──────家を出よう、どちらが先にその言葉を出したのだろうか。 だけどどちらもずっと前から、昔から思っていた。口には出さないだけで。
息苦しかった、生きにくかった。 この世界は俺達にとってとても生き辛い場所だと知ったのはいつだっただろうか。
誰もがみんな普通を好み、異端を嫌うと知ったのは、いつのことだっただろう。
俺たちは異端だ。異端だからこそ皆が離れていく。 だけどお前は、俺と同じ異端のお前はずっと傍に居てくれて―――
白い砂浜の上を二人で歩けば足跡が着いてくる。 四つの足跡、この時間だからかあまり人は少ない。
「……また、来れたら、っン」
叶わない願いをお前が口にする前に、その唇を塞いだ。言わないでくれよ、だって、それは―――
唇から離せば銀色の糸が二人を繋いで、俺はまた、キスを落とした。
「………好きだよ」
ごめんな、義母さん、義父さん。
大事に育ててくれたのにごめん。此処まで育ててくれたのに、ごめん。
だけど後悔はしてないんだ。例えコイツと繋がることすら出来なくても、後悔なんて、してないよ。
だってとても、すごく。俺は幸せだったから―――
「……お、俺、も…」
少し、疲れた。息が苦しい気がして。
ただ歩くだけ、キスするだけ。そんな簡単なことすら、俺の身体は拒絶する。 疲れたとすぐに根をあげる。
……くそ、
「……どうした?顔色が悪いけど、」
「なんも、ねぇ」
俺は笑った。
「……そ、」
気にしてないフリをしながら俺に背を向けたお前。その背がもう帰ろうと俺に訴えて来て。
「すぐ行く」
そう言って遠くなるお前の背中を見ながら胸元をくしゃりと握った。 ―――タイムオーバーは、もうすぐだろう。
もうすぐ、あと少ししたら終わりを告げる早鐘が鳴る。その時、俺自身の身体は訴えるだろう。 もう無理だって。
─────神様。
あと少し、もう少しだけで良いんです。俺に、俺たち時間を下さい。 そしたら今度こそ諦めるから、だから。
お願いです、その時はどうか―――
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「―――い、おい、おいってば!!」
「ん…?あぁ、どうした?」
「……お前、寝てないのか?」
「なんだよ、心配してくれてんのか?」
「っ、当たり前だろ!……だってお前、凄い隈が……」
「……馬鹿、人の心配してないで自分の心配しろ。 怒んなっていつも言ってるだろ?もし俺が居なくなった時―――」
「………んだよそれ、」
「……………」
「なんだよそれって聞い、て……っ、」
「馬鹿、だから怒んなって言ってるだろーが」
「寝とけ、」倒れかけた背中に手を当ててゆっくりとベッドに寝かせる。 すぐに聞こえて来た寝息。
一瞬俺も寝そうになり―――すぐに頬を叩いて起き上がる。 そうだな、久々に料理を作ってやりたい気分だけど、此処にそんな場所はない。
何か買って来よう、どうせすぐに起きるだろうから。
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「っ、」
目が覚めたら、アイツは隣に居なくて。
そこで気付く、嗚呼俺はまた、眠ってしまったんだろう。
なんでだか凄く怖いんだ、アイツが消えてしまいそうな気がして。
だって俺がいつも自分の感情で眠って起きた時、傍に居てくれるのが当たり前だったから。 目が覚めた時にいつも居たのはアイツだったから。
「……お、い」
返事は無かった。
「…おい」
今度はもっとハッキリとした声で。
…返事はなかった。
「おい!っ────「どうした!?何かあったのか?」
「……っ、べつに、何も…」
此処でお前が居なかったから、なんて言っても意味はないだろう。
どうせお前には伝わってるんだろうから。
手に持ったコンビニの袋、きっと朝ご飯を買って来てくれたんだろう。 言ってくれれば作るのに、そこまで考えて今居る場所を思い出した。
ああ、そうだ。そうだった。
俺たちは苦しくて、息が出来なくて。 逃げ出したんだ、あの世界から―――
握られた手の温かさに、小さく笑ってまた、俺は浅くて深い、眠りにつく。
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あの頃、世界は三人だけで完結していた。
真っ暗な世界、その場所で自分が生きづらいことを悟ったのはいつだったか。
自分は他人とは違う。普通とは程遠い異端だと気付いたのはいつだっただろうか。
あの頃、世界は三人だけで完結していた。
そんな世界に光が舞い込んだのはいつだっただろうか。 こいつが家族になったのは、一体いつ、だっただろう。
───面倒なモノを送り付けられた、と父は言った。 新たに面倒が増える、と母は言った。
その時初めて、自分が両親からどのような目で見られていたのかを漸く理解した。
目の前で同じ言葉を口にされてもお前は何も言わず、ただ困ったように笑うだけで。 だけどそれさえも、俺は羨ましかったんだ。
───お前はきっと神様からの贈り物で。
たった一人の異端だった俺を神様が哀れんでお前を俺にくれたんだろう。
お前が来たその日、お前は―――俺のモノになった。
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目が覚めて周りを見る。そうすれば俺の手を握りながら下を向くお前。
なんだかまた、怖くなって。
「おい、なぁ……起きろよ、」
肩を掴み揺らした。頼むから起きてくれよ、俺を安心させてくれ。
───そして、そこで初めて、俺は違和感に気付いた。
どうして、寝てる?なんで何もせず、寝てるんだ。 お前が一番自分のこと分かってる筈なのに、そんなの、自殺行為じゃないか……
気付いた瞬間、俺は跳ねるように起き上がって。
「おい!寝んな!!おいってば!!!」
そうか、だからお前は―――
寝てなかった理由も、眠たそうにしていた理由も。 全部はこのせいだったんだな。
ああ、駄目だ怒っちゃいけないのに。ダメだと言われたばかりだろ、なんで言うこと聞けねぇんだ。
「っ、起きて、くれよ」
「…泣くなよ、ばか」
「っっ、お前…! ………いや、いい。」
怒鳴り散らしてでも怒ってやりたかったけど、お前が起きたから。 俺の隣に居てくれるから。もう問題はないだろう。
───俺は、俺たちは逃げたかった。息苦しい世界から逃げる為に此処までやって来た。 だけど俺は気付いたんだ。
どんなに楽になれたとしても。 お前が隣に居なければ意味が無い。
どんなに幸せになれたとしても。 お前が隣に居なければ苦しいだ。
「……帰ろう」
そう言えばお前は小さく笑って。
「お前が幸せなら俺はそれでいいよ。帰ろうか、居場所に。」
誰のとは言えなかった。だってあまりにもお前が悲しそうに笑うもんだから。
───そして俺たちは四日目の朝、電車からバスへと乗り継ぎ、小さな小さな逃亡劇は終わる―――――筈、だった。
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キラキラと光り輝く星が空の上から俺たちを照らす。小さいのに頑張って、気付いてと言うかのように光る。
「……見ろ、海だ」
「…わ、ほんとだ」
夜の海は初めてで。
昼の海とは違った綺麗さがある。
海面に映る月の光が反射して、太陽とはまた違った光景を演出する。
先程まで重かった筈の瞼をあげて、思わず魅入った。
───世界はずっと、一人だけで完結していた。
中々帰って来ない両親が向こうの国で事故に合ったと聞いた時、さして悲しくもなかった。
全くと言っていいほど会ったことなどないはずの人が、両親の遺影を見て泣く姿に疑問を覚えた。 何が悲しいのだろうかと、何故俺は泣けないんだろうかと。
───世界はずっと、独りだけで完結していた。
そんな俺の世界に舞い込んで来た希望の光。 大切にしようと思った、大事にしようと思った。今度こそ置いて行かれないように。
そして俺は気付いた。やっと自分の感情に。
決して悲しくない訳じゃなかった。ただ一人にされたくなくて現実をみようとしなかっただけ。 向き合おうとしなかったのは両親じゃない、向き合うことをはなから諦めた俺だったんだ。
その瞬間、やっと涙が零れて。
二人になると同時に、俺は鳥籠に居れられた。
守ろうとしてくれていることは分かった。だけど凄く苦しかった。こんな苦しい場所でお前は―――
「……流れ星だ、」
「…流れ終わる前に三回、願い事を唱えれば願いは叶うらしいぞ」
「…そっか、それなら───」
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「おい見ろ、水田がある」
「…綺麗、だな。」
目に映るもの全てが綺麗に思えた。見たことないもの全てに衝撃を受けた。
写真やテレビでしか見たことのないものが、今目の前に。俺の瞳に映ってるなんて。
うつらうつらするお前を必死で起こそうと、わざわざ大きな声で呼び掛ける。
周りの人は迷惑だろうが、どうか今だけ、許して欲しい。
電車から降りて、最終バスに乗り込んだ。
そこは普通の人なら見慣れた景色。だけど俺たちにとって見慣れていない。
外に出なくなったのはいつからだろう、いつ、外に出るのを止められるようになったのだろう。
「もうすぐ着く、だからそれまで―――」
「あい、してる」
「っ、」
「そんな変な顔すんなよ、馬鹿」
「なっ!?お前だってなんでそんな…」
突然のキスに、思わず俺は距離を取る。同じ座席に座っているから取ったとしても言うほどなんだけど。
周りを見渡せばいつの間にか誰も居なくなっていて。 小さく運転手の欠伸の声まで聞こえてくる。おいやめろ危ない。
「、なんだよ、急に…」
「誰も居ない車とかの中で、お前とキスするのが夢だったんだよ。」
「はっ、意味わかんねー………ぁ、嘘、だろ…っ、待て、嫌だ」
笑ってしまった、気を付けようと思っていたのに。 嗚呼、どうして俺は―――
「………ごめんな」
泣きそうな笑顔で、震えた声で。お前がそう呟いたのを遠くなる意識の中、聞いた気がした。
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「───ん、お客さん!」
「……へ、ぇ?」
「もう終点だよ」
「…しゅ、てん…?……っ、」
目が覚めて勢い良く身体を起こそうとすれば目を閉じて眠るお前が居て。
身体の奥が一気に冷えていく気さえした。
「……なぁ、起きろよ。…なぁってば!!」
じわり、じわりと浮かんで来る涙。 それは視界を歪ませ、お前の寝顔すらも歪んだ。そしてその歪みにお前が消えて無くなってしまいそうで。 慌てて手を伸ばしたんだ。
肩を揺らす、運転手の顔なんで見なかった。時間なんて気にしなかった。
ただお前が起きてくれればそれで―――
「……あ、り…がとう」
────良かったんだ。
その手は俺の瞳の端に溜まった涙を拭い取る。 そしてお前はいつかの俺が羨ましがった笑顔で笑う。
…ポロリ、折角お前が拭ってくれたのに落ちた涙。それと同じくしてお前の手も力なく落ちた。
その手を掴めば冷たくて。
「、好き、だ……」
温もりを忘れた手を頬に当てればお前がまた笑ってくれた気がして。
俺はその笑顔に───笑い返した。
沈んでく、深い闇の中へと。
もう二度と上がることは出来ないよ。…嗚呼、それでいい。それがいい。
お前の居ない世界なんて、ただ虚しいだけだろうから。 だからお願いだ、―――誰か俺を───……
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『息子さんはまだこの世界で何とか生きて行くことは出来ますが、彼の方は…… 運動や睡眠などに一々気を使っていては彼も貴方がたも疲れてしまう。』
『なので私は入院をお勧めします。』
『治る可能性もありますので……ええ、明日にでも』
聞きたくなかった、そんな言葉。
走ってドアを開ければ採血をしているお前が居て。
焦る気持ちを抑え終わるのを待てば、お前は俺の手を引いて病院の外へと連れて行ってくれて。 何を考えてるのかなんて分からなかった。
『どうした?酷い顔してんぞ』
『……よう』
『ん?』
『…逃げよう』
震えてた、自分の声は。
そんな俺に何も聞くことなく、
『そうだな、逃げよう』
お前は笑ってそう言った。
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あの時からお前はこうなる覚悟をしていたのか、なんて。 呼吸器を持って来ていないことが全てを教えてくれているのに。
◇◆◇◆
─────神様。
あと少し、もう少しだけで良いんです。俺に、俺たち時間を下さい。 そしたら今度こそ諦めるから、だから。
お願いです、その時はどうか―――
───どうか海を幸せにしてやってください。
海が辛い時、悲しい時、そして、嬉しい時。その時は流れ星を見せてやってください。―――どうか。
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「301号室の患者さん居るでしょ?」
「ああ、あのスパゲッティ症候群の………」
「そう!その患者さんが―――」
《今夜、各地で流星群が流れるそうです。これは実に六年ぶりで―――》
「………星、」
「お兄ちゃんは何願うのー?」
「……そうだな、俺は─────…」
先天性中枢性肺胞低換気症候群(せんてんせいちゅうすいせいはいほうていかんきしょうこうぐん)別名、“オンディーヌの呪い”と、“ナルコレプシー”という病気の義兄弟のお話です。
あまり知識はないので病状に間違いがあり、不快に思われた方は申し訳ありません
オンディーヌの呪いは基本的に睡眠時に無意識のうちに呼吸が止まってしまう病気です。 また、日常生活で運動などをしても呼吸がしにくくなる人もいるそうです
その為、呼吸器が無ければ寝ている間に死んでしまいます。
ナルコレプシーは笑う、びっくりするなど感情の大きな変化があればその場で眠ってしまう病気です。その睡魔は二日間眠らなかった時と同じだとか。
長文、お目汚し失礼致しました!