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「じゃあ、ジョシュア君は飲み物、何がいいかな? 蜂蜜酒が駄目なら、薔薇酒やワインなんかどうだい?」
「せっかくお薦めして頂いて申し訳ないのですが、アイスティーをお願いしてもよろしいでしょうか? ご無理ならば水で」
「アイスティーか。ハーブティーだけどかまわないかな?」
「もちろんです」
オベールさんは兄さんのときのように指示を出した。出されたハーブティーはすっきりした味で、どの料理ともよく合う代物だ。僕たちは談笑しながら、心の尽くされたフランス料理を味わった。
*
朝は寒いと僕は思った。フランスは北欧――スウェーデンやノルウェー、フィンランドが近いせいか夏でも寒くなることがある。
寝台から起きて、カーテンを開け、窓から外を見る。朝だからか、霧はまだ昨日のように濃い。その中を門番か森番かはわからないが、人が行き来している。僕はカーテンを閉めて寝台に座り、懐中時計を見た。時間は七時を過ぎている。今は時間を気にする必要などないのに、癖のように見てしまうことがおかしく思える。
懐中時計をサイドテーブルに置いた僕は寝台の上にあるベルを鳴らした。しばらくすると、紅茶道具一式をトレイにのせた従僕が部屋をノックして入って来た。
「おはようございます。ポズウェル様」
「おはようございます」
「紅茶はイリスのセレナーデをご用意しました。これでよろしいでしょうか?」
「ええ」
僕は言った。
「かしこまりました。本日、ご主人様は仕事で外出なさいます。お帰りは何時になられるかわからないと仰っておられました。あと、ご主人様の甥のマクシム・カルサティ様が近日見えられるとのことです」
「そうですか……」
僕は答えて、紅茶を用意する従僕の顔を見た。この城に仕える従僕は、すべてがハンサムもしくは美しい顔をしているらしい。
「お着替えは手伝わなくともよろしいですか?」
「はい」
「それでは後ほどトレイを取りにまいります。失礼いたします」