20
呼びに来た従僕とともに食堂へ入ると、食欲をそそるような匂いが漂ってきた。
「ジョージ君、ジョシュア君。彼がさきほど言った執事のアルベリックだよ」
「初めまして。ポズウェル様」
老齢を感じさせないような物腰で執事は挨拶をした。皺一つない服に僕は、彼の執事としての誇りを感じた。
「初めまして」
「僕がいない時は、彼を頼るといいよ」
「はい。ありがとうございます」
僕たちは交互に返事をした。
「では、食事にしようか。今日は君たちのために、オリオ・スープを作らせたんだ。さあ、席へ行こう」
「はい」
後をついて行くと、彼はロング・テーブルの上座ではなく僕たちの席の前に着いた。
「不思議そうな顔をしているね。なに、僕は王候貴族じゃないし、上座と下座では声が聴こえないからね」
「何だかお気を使わせたようで……」
兄さんは申し訳なさそうに言った。
「いやいや。食事は顔を合わせながらするものさ。そうだろう?」
「ええ」
僕はそう短く答えた。話しが終わるのを見計らって、従僕たちがオリオ・スープの皿を僕たちの前に静かに置いた。
オリオ・スープとは、あのマリア・テレジア女大公が飲んでいたものだ。たくさんの材料を使い、作られたスープは彼女の活力源となり、数々の仕事をこなしたと聞く。僕は澄んだ茶色の液体をスプーンですくい、口にした。芳醇な味わいだ。
「美味しいかい?」
「はい! こんな美味しいスープは初めて飲みました」
「とても芳しいですね」
兄さんのあとに続き、僕は言った。
「喜んでもらえて嬉しい限りだよ。そうだ。君たち、お酒はどうだい? 自家製のイロドメル(蜂蜜酒)があるんだが」
「僕は遠慮しておきます」
「あ、僕は頂きます」
兄さんは笑顔で言った。
「アルベリック。ジョージ君に用意してくれるか」
「かしこまりました」
アルベリックさんが返事をすると、僕たちを案内した従僕とは違う、ハンサムというよりは美しい顔をした別の従僕がなれた手つきで蜂蜜酒をグラスに注ぎ、兄さんの前に置いた。
「ありがとう」
「もったいないお言葉でございます」
兄さんの笑みに対して、その表情を崩すことなく従僕は答え、再びワゴンの横へ下がった。