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「仕方ないなあ。ねえ、ジョシュア。とりあえず荷物はこれくらいにしてさ、デッキにでも行こうよ」
「そうだね」
部屋から少し歩いたところにある階段を上りデッキへ出ると、身なりのいい紳士や婦人が思い思いに過ごしている。僕達はウエイターの持つトレイから好みの飲み物を取り、なるべく人の少ないところを見繕って、椅子に座った。
「うん、美味しい。海の上で飲むとまた格別だね。ジョシュア」
「そうだね。兄さん。それ、レモネード?」
「そうだよ。はあ……でも、一週間か。フランスまでは結構かかるね」
兄さんは空を見上げて言った。
「それだけど、まさかジェヴォーダンとはね」
僕はアイスティーを一口飲んで言った。
「ああ、昔、獣が人間を襲ったという事件があった地域なんだよね」
「そうだよ」
「今もまだいたりしてね。ジェヴォーダンの獣」
「そうかもしれないね」
僕は兄さんの顔を見て言った。
「もしかして、さ。ル・ガルー(人狼)だったりして。まあ、どちらにしてもいたらいたで困るけど。……さあ、この一週間なにをして過ごそうかな。誰か知り合いでもいたらいいけど、まずそれは望めないだろうし……ジョシュアの絵のモデルでもしようかな」
「構わないよ。兄さん」
僕はそう静かに答えた。