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「いや、毎日というわけじゃないよ。だが、今日はいつもより濃いね」
窓の外を見ながらオベールさんは言った。
「そうですか。それを聴いて安心しました」
「そうかい? まあ、ここフランスは雨の日が多いからね。降ってもすぐに止むけれど」
「ええ」
「では、私は仕事があるから行くよ。夕食時には執事を紹介するから。それと明日は、城内を従僕に案内させよう。城内は鍵の掛かってない所なら、どこでも好きに見てもらって構わないから。ジョシュア君の好きな本がたくさんある図書室もあるからお楽しみに。それじゃあ二人とも、また後で」
そう少しばかり早口で言うと彼は食堂を後にした。
「こちらでございます」
従僕に通された客間はとても広く、有名画家の絵が壁に飾られ、美しい装飾の施された置時計や調度品が彩りを加えていた。隣とはドアで繋がっている。兄さんと僕が行き来できるように計らってくれたのだろう。
「では、夕食前に呼びに参ります」
「はい」
僕がそう答えてチップを渡そうとすると、「ポズウェル様からは戴かないようにと、主人から仰せつかっておりますので。それでは失礼致します」と言った。
僕は従僕が出て行ったあと、荷物の中から絹のシャツとブリーチズ、礼服などを出したところで、隣部屋と繋がるドアがノックされた。
「どうかしたの? 兄さん」
「今、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「ああ、やっぱりこっちの部屋もすごく広いね」
兄さんはそう言って、ベッドに座った。
「城だからね」
「うん。あー、なんか僕眠くなっちゃった。馬車の揺れで眠れなくて。少し寝てくるね。それじゃ」
「お休み。兄さん」
「お休み。ジョシュア」