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「別に怒ってはないよ。ねえ、それよりジョシュア。マルセイユ港に着いたらどうする?」
「僕は宿で本を読むよ。兄さんは?」
フォークを置いて僕は言った。
「決まってるよ。まず、マルセイユ石鹸を買ってからブイヤベースを食べるんだ」
嬉しそうに兄さんは息巻いて言う。
「楽しみだね。ところで、兄さんって欲しい物はないの?」
「欲しい物? うーん……そういうのは、父さんに頼めば買ってもらえるしね。だから今のところはないかなあ」
「個人的に兄さんへ何かを贈りたいんだよ。ダイヤのタイピンかカフスボタンとかどう? 来年は二十歳になるし」
「ジョシュが買ってくれるっていうなら……でも悪趣味じゃないかなあ?」
「そんなに大きくしなければいいんだよ」
「そうだね……じゃあさ、それはジョシュの初任給で買って欲しい」
「オーケー」
「うん。ねえ、ジョシュアも一緒に行ってくれるよね? マルセイユ観光に」
「兄さんが願うならどこへなりとも付いて行くよ。決まってるじゃないか」
「ありがとう。ジョシュア」
兄さんは微笑みながら言った。