未来の話をしようよ 2
『未来の話をしようよ 2』
「勇太~、お前は何になりたいんだ?」
「・・・・・・えっとね、ヒーローのレッド!」
「そうか、じゃあ、いっぱい食べて大きくなれよ」
「うんっ!」
「父さんは楽しみにしてるからな!」
父さんの笑顔。優しい笑顔。大好きな笑顔。その笑顔に励まされた少年時代。
なあんて、振り返ってみるけど父さんはまだ現役サラリーマンだ。死んだ、とかいう訳じゃない。
ただの考え事。隣にいる恋人の恭子はいつものようにテレビを見て笑っている。
俺は結局、ヒーローにはなれなかった。ただ恭子と入れて幸せである。
「私このコンビ好き。他とは違う面白さに惹かれるわァ」
「そうか? 俺は2つ前のモノマネ芸人が好きだな。ただモノマネするだけじゃなくてちゃんと面白いから」
「う~ん、確かに。優勝はどっちかかもね。あ、次のも面白い人たちっ」
地元のお笑い芸人が競う番組を見てそんな会話を交わす。
「ところで、もうすぐ今年も終わるだろ?」
「はは、勇太ったらオカシイよ。クリスマスが先でしょ。恋人たちの一大イベントじゃないの」
「あ~、違くて」
少し恥ずかしくて頭を掻く。
言えない。まだ。言葉を出すのに戸惑う。それじゃダメだ。
覚悟がいるんだ
「間違えた、そうそうクリスマス。何が欲しい?」
「うーん、プレゼントよりどこに行くか話したいなっ」
甘い恭子の声には付き合って3年も経つ今でもドキっとする。
「そうか、どこ行きたい?」
「そうだなァ。寒いし、家で小さなツリー見ながら恭子特製グラタンってのはどうかな?」
「どこにも行かないのかよ」
ハハハと笑いそうしようと答える。
「最高だな、それ」
「ふふふ」
2人で笑い合う、これって幸せ。
恭子は何が欲しいんだろうか、そういう幸せかな。
-☆-☆-☆-
タタタタ、急いでアパートの階段を駆け上がる。
遅れた、遅れた。
6時に終わる仕事だったけど6時半に終わると伝えたのは遅れないためだったのに。
「た、ただいまっ!」
「お、そ、い!」
恭子が大声でお出迎え。
「せっかくのクリスマス、私はいつもより早く仕事終わらせてグラタンまで作ったっていうのに」
顔は怒っているが言葉は柔らかい。
「いやはや、スンマセン」
ヘコヘコと頭を下げてクリスマス仕様のリビングに入る。
壁に百円ショップで買った一袋分の風船、テーブルには500円くらいで買ったツリーがちょこんと乗っている。
「ささ、グラタンどうぞ。上手く出来たよ」
花柄のミトンを使って容器を運ぶ。
「恭子は料理上手だよなァ」
椅子に座りながらこんがり焼きあがったグラタンにヨダレを垂らす。
「でしょうでしょう」
ニッコリと笑う恭子。やっぱり可愛い。
「私ね、勇太のために一生懸命作ったの! うふふ」
「あ、あのさ!」
「ん、なに?」
ああ、ダメだまだ言えない。
「ほ、本当に家で良かった? こんな安物ツリーで・・・・・・」
ただの誤魔化しだったけど、恭子は嬉しい言葉で返してくれた。
「綺麗なツリーも良いけどそれってやっぱ他の人もいるじゃない? ここで勇太と2人、いつもより少し特別な気分で食事するのが私の、私たちだけの幸せなの」
そうか・・・・・・。
マニュアル通りデートして終わりじゃないんだ。それだけが付き合ってる2人の幸せじゃないんだ。
「そうかあ、恭子は深いなあ」
「ふふふ、イイコト言ったった!」
「調子乗りすぎだって」
2人で交わす言葉は全然クリスマスっぽくないけどそれでも笑って楽しんだ。
体を寄せて、目を合わせた。
安物のツリーを見ながら安物のワインでしんみりした雰囲気を味わう。『大人のふり』なんて言って。
「なんて、なんて安上がりなクリスマスデートなんだ」
「安くても楽しかったよ」
「そうだね」
「また、こんな事したいね」
「また・・・・・・」
そう、また。
「恭子、クリスマスプレゼントあるよ」
「ええ、別にいいのに」
「未来の話、していい?」
「え~、どういうこと?」
「また、来年もこうして居て。隣で、笑ってさあ」
「来年まで付き合ってるかな?」
恭子は半分真面目にジョーダンを言った。まるで、独り言のように。
「未来の話、しようよ。これからのこと、話そうよ。来年の誕生日プレゼントとか、いつ式を挙げるとか、子供の名前とか、をさ」
「え?」
恭子の声はフワッとしていて気持ちよさそうだ。ワインか、雰囲気に少し酔っている。
「俺からのクリスマスプレゼントは、『未来の幸せ』でどうよ」
軽く言う。今なら言えるから。自然と。
俺はハンガーに掛かっているコートのポケットから黒い小さな箱を出した。
「貰って、くれますか?」
「ダイヤの指輪ですか?」
「小さいけど」
「幸せは小さくてもいいんですよ。貰います、『未来の幸せ』。未来の話、しましょう」
恭子は照れて顔を赤くする。
「えっと・・・・・・遅れた言い訳です」
「許しちゃうよ」
恭子はコテン俺の方に凭れる。
「私からはプレゼント無いよ。どうする?」
「・・・・・・恭子がいないとこの幸せはないんだよ。それだけで十分」
「・・・・・・大人になってる。ぷっ」
「わ、笑うこと無いだろっ」
「だって自分で言って照れてるんだもんっ。恥ずかしー!」
「わ、悪かったな!」
「真っ赤だよ、真っ赤! あっははははーっ」
「笑いすぎだろ、おい、もっと恥ずかしいって、うわ」
「もっとスマートに言わなきゃっ。『次』は失敗するんじゃないよ?」
意地悪な笑顔だったけど、『次』というのが嬉しかった。
「チャンス、あるんだな」
「当たり前でしょ、貰ったんだから」
恭子は俺の目の前に自分の婚約指輪をはめた手を出した。
「幸せな未来を――」
ありがとう。
幸せな話でした! クリスマスの物語を書くのは初めてで上手く書けたかは自分でも分かんないんですが(笑) 一応頑張りましたよ。
最後まで読んでくださりありがとうございました!