旅路の果てのラスネイル
夜を飛び交うハチは群れ、明滅する黄色い街灯下に集う人々、
毒針刺しては墜ちてった、夜ごと繰り広げる風景で、
痛みにさえ慣れ、誰も彼もが夜を明かした 、
ピザ乗るトマトやハムやアンチョビ、
生地からさらってそれだけ食べるラスネール、焼けるほどのチリソース、
口のまわりの鮮やかな赤、生き血を舐めた跡みたい、
数える数百ガールフレンド、名前なんて覚えていない、
覚える気もないラスネール、だからハニーとしか呼ばない、
名前はハニーでいいって思う、
覚えているのは肌触りだけ、
覚えているのは温度だけ、
それ以外はいらないらしい、それ以外は忘れてしまいたいらしい、
一人になりたい夜は一日おきに訪れて、
ラスネールは家を持たない、
荷を降ろしたコンテナに忍び込み、ランプに燈す輪郭のない光、
照らされたピリ・レイスの世界地図、生きたい場所が見つからない、
どうやら終わりが来たみたいだって彼は思う、
別にいいって淋しげさえなく、
けれど最期に触れた温もりだけを思い出す、
薄暗い鉄のコンテナ、冷たい檻みたいに見えた、
それから温もり抱いた手の平見つめたラスネール、
目を閉じ扉を引き開ける、
群れたハチのその塊が、彼の体を覆い隠して、
ラスネールは悲鳴さえなく眠りについた、
もう孤独じゃなくなるってラスネール、
愛した名前をひとつひとつ思い出す、
ひとつひとつ思い出す、