はじまるよ
「じゃあ明日なー」
「おう」
「じゃあなー」
飛び交う別れの挨拶と明日の約束。そんな中で一つの謝罪が落とされた。
「わりぃ。俺明日休み」
その裏切りめいた言葉に、すんなりと別れるはずだった友達は驚いた顔をして、出入り口に行こうと向けていた背中を返す。
「えっ、明日なんか用事でもあったか!?」
問い詰めるように離れていた距離をダッとつめ、ばたんと机に手を置き顔を突き出してくる友達高野に、休み宣言をした三木はほんの少し嫌そうな顔をして距離をとるように半歩下がり、顔を横へとむけて暑苦しい視線と恨めしげな視線から逃れようとした。
「前から決まってた事だから」
休むのは決定事項と済まして言う三木に高野の不満は積もる。
「いや俺しらねーし」
「……別にお前に言うようなことじゃねぇし」
なんだよそれ。俺達だちだろうと言いたげに不満な顔をする高野に、いう事は言ったと帰り支度を終えた三木がじゃあなと出入り口に向かおうとすれば、高野に引き止められそうになる。
そんな高野に三木は現実を思い出させるように、教室の壁に掛かる時計へと視線を向けて言う。
「お前部活だろ、遅刻するぞ」
「っと!」
ホームルームが長引いて、唯でさえ遅刻しそうだと慌てていたことを思い出して高野はさらに慌てて教室を出ていく。
「三木、お前後でメールな!!」
叫び声を上げながら廊下を走る高野に、三木は溜息ついて帰途についた。
けれど結局部活の疲れと、三木との会話を忘れていた高野からその夜何の連絡も無いのをいいことにそのまま三木は次の日を休み、その次の日。
三木が教室に足を踏み入れた途端、問い詰めてきた高野に三木が零したその言葉。
「昨日は開幕戦だったから」
普段の無表情ぐあいはどこへやら、瞳にきらきらとした光を宿して語ったその内容は、まさしく高野にむけて言うようなことではなかった。
ばりばりのサッカー少年なる高野に、観賞だけのバスケ少年なる三木の言葉はどうでもいいものだったから。