少女との出会い
松原陽佑シリーズの2です。だんだんファンタジーって言うか空想っぽくなってきます。大学生になった主人公がある日突然わけのわからない衝動に駆られ霊柩車を追いかける話
大学に入ってからも俺は相変わらずだった。
ケンカこそあまりしなくなったとはいえ、高校時代そこそこ頑張っていた勉強さえ、単位がもらえればいいやと言うような成績、その単位も進級ギリギリだった。
それどころか自分の在籍する学部の正式名称すら曖昧な状態だ。
確か「国際経営文化なんちゃら」って感じだったと思う。
国際なのか経営なのかそれとも文化を調べるのか全く持って俺には分からない。
毎日学校行って授業受けてバイト行ってたまに男とケンカしてたまに女とケンカするような決まり切った面白みのない大学生活だ。
自分が何者なのか何がしたいのかという答えも出ぬまま時間ばかりが過ぎて行った。
そんなある日、法学だか論理学だかの講義中に窓の外を眺めていた俺の目に一台の霊柩車が走って行くのが目に入った。
その瞬間俺は今までにないような感覚に襲われた。
その霊柩車を全力で追いかけなければならないと思った。
何故だかは分からない。
理由も分からず気が付いたら俺は駈け出していた。
この俺がだぜ?
小さい頃から無気力で何にも興味がなくて「嫌いな言葉は『頑張る』です」って卒アルに書いた俺が誰が乗ってるか知らねー霊柩車を追いかけている。
こんな事って信じられるか?
だけどその時の俺は一生懸命だった。
朝、30分かけてセットした髪が崩れるのも気にせず一心不乱に追いかけた。
途中で見失ったけど火葬場なんてめったにあるわけじゃない。俺は迷わずそこから近い火葬場まで走った。
俺が火葬場に着くとそこには複数の霊柩車が止まっていた。
自分が見た霊柩車はそれだろうか。
なぜだか凄い胸騒ぎがした。
そして俺は火葬を止めなければならないと俺は思った。
しかし、自分が見た車がどれなのか分からなかった。
喪服の人の中で一人だけ普段着な俺はこの上なく目立って人々から氷のような視線を浴びせられたが構っていられなかった。
火葬場の中を親族のふりをしてグルグル回っていると一つの喪服集団が目に入った。
俺はわけも分からず「そこだ!」と思った。
そして無我夢中でその集団の中にわけ入り、「燃やすのやめて下さい!お願いします!中の人まだ生きてるんです!」って叫んでいた。
どうして俺がそう叫んだのかよく分からない。
だけど身体が自然とそう叫んでいたんだ。
棺の中の人の親族であろう人々は俺の事を明らかに不審な目で見ていた。
そりゃそうだろう。
いきなり大切な人との別れの場に汗みずくの得体のしれない男が乱入してきたんだから。
俺だったらキレるね。
それでも俺は叫び続けた。「お願いしますお願いします!中を確認してください」ってね。
そしたら二人の男女が目の前に現れた。
「君は…娘の友達かい?」
棺の中の人は女だってこの時初めて知った。
目の前にいる男女はその女の両親らしい。
二人の歳からすると棺の中の人は女というより少女と言った方がよさそうな歳だと思った。
俺は無我夢中で「はい、娘さんの友達です!お願いですから中を確認してください!」と叫びまくっていた。しかも土下座付き
土下座なんて生まれて初めての事だった。
両親は俺の鬼気迫る懇願に圧倒されている様子だった。
それでも父親らしき人は「娘は死んだんだ。もう手遅れなんだよ」と言って立ち去ろうとした。
ああああどうする俺!マジ泣きそうだったね!
すると天の助けか、母親らしき人が手を差し伸べてくれたのさ。
「この子の為にここまでしてくれる人に最期のお別れをさせてあげるくらいいいじゃありませんか」
ってね!マジで菩薩に見えたから。菩薩の顔良く分かんないけど。
父親も「まあ、そうだな。それでこの子も納得いくなら…」って言ってくれた。
マジありがとう神様!俺は棺の所まで飛んで行った。
周りの人も多少気になるのか興味半分なのか棺の所に集まってきた。
そしてゆっくりと開けられた。
棺の中にいたのはまだあどけなさの残る少女だった。
その少女が花に囲まれながら横たわっていた。
大きな声をあげ泣きながら。