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マイ・レボリューション  作者: 過酸化水素水子
一章
4/10

3: 館の使用人

2010/10/23 主人公の名前が『アイカ』になっていたのを修正。正しくは『マイカ』です。失礼しました。

 

 二百メートルほど歩いて、アタシ達は食堂に辿り着く。

 分かってたけど、広い。

 まさか家の中のダイニングに行くのに、二分近くも掛かるような家が存在しているとは思わなかった。


 食堂は一度に三百人はのびのびと食事できるんじゃないか、というほど広かった。

 ただ、中央に机が一列並べられているだけで、他はまるで無駄なスペースになっている。


「あ、ここに座ってて。直ぐに食事を用意するから」

 アルフは長々と続く机の端っこに置かれている椅子を引いて、アタシに座るように促すと、食堂の奥にある別室に向かった。

 そこが厨房なのかな。

 

 アタシはとりあえず、示された椅子に座る。

 そして何となく周囲を見回して――――ふと、気付いた。


「そういえば……人が、全く居ないわね」


 この広い大邸宅の敷地に入って以来、見かけたのはあの大蛇と、アルフだけだった。

 もっとメイドとか、執事とか、居てもいいんじゃないだろうか。

 それに、アルフの口ぶりからすると、彼はここの御曹司か何かだと言うのは分かる。


 なのにもかかわらず、そんな人物が自分で客の食事を取りに行ったりする?

 普通はメイドとかに、チリチリンって鈴でも鳴らして用意させるものじゃないのかな?

 まあアタシはこんな大豪邸に入った事なんて無いから、ハッキリした事は言えないけど……。


 そんな事を考え込んでいると、アルフは料理が載せられた台車を押しながら、戻ってきた。

「ごめんね。冷えたのしかないんだけど……」

「へ? あ、ああ。そんなのは全然構わないわよ」

「良かった。じゃあ、今用意するね」


 アルフは嬉しそうに微笑むと、台車の上の料理を次々とアタシの前に置いていった。

「…………」

「はい、これと……。あ、飲み物もいるよね。ちょっと待ってて、直ぐに取って来るよ」

 台車の料理を全てテーブルに載せ終えると、アルフは思い出したように声を上げて、再び厨房? に歩いていく。

 アタシはそのアルフの後姿を呆然と見送った後、再び目の前の料理に視線を移した。

 

 こんな大豪邸の料理である。

 正直、アタシは期待していた。

 ロブスターとか、高級な肉とか、新鮮なフルーツとか。

 アタシが食べたことも、見たこともない。

 そんな一般人ではお目にかかれないような料理が出てくるものだと、思うじゃない?


 ただ目の前に広げられている料理は――――

 一般人でもよく見かける……そんな料理だった。

 

 ご飯に、目玉焼きに、焼き魚、そして味噌汁。

 それで全部だった。

 一般人の朝食か、と言うような献立だ。


 あまり歓迎されていないって事なのかな?

 そんな事を勘ぐってしまう。


 でも――――再び右手にコップを、左手に水入れを持って、嬉しそうに近づいてくるアルフを見ると、とてもそうは思えなかった。

 

「お待たせ……あれ? 全然食べてないね……。もしかして嫌いだった?」

 アタシが料理に手をつけていないのを、そんな風に判断したアルフが、不安そうに表情を曇らせる。


「あ、いや。そうじゃないわ。ちょっと意外だっただけで……。頂くわよ」

 そう言って、アタシは料理にバクバクと手を付けていく。

 庶民的な献立で、冷めていたけど、味は悪くなかった。

 

+++


 綺麗に全部食べ尽くすと、アルフは嬉しそうに目を細めた。

「ごちそうさま。美味しかったわ」

 アルフが汲んでくれた水を飲んで、一息吐く。


「良かった」

 まさかアルフ自身が作った訳ではないだろうけど、アルフはニッコリと微笑んだ。

 

 やっぱり、ちょっと聞いてみようか。

 アタシはさっき考えたことを尋ねてみる事にした。

「ねえ。メイドとかの姿を全く見ないんだけど、どこ行ってるの?」


 すると、アルフは一体何を言ってるんだろう、というような顔をする。

「メイド? そんなのいないよ」

 あっけらかんと告げてくる。


「は? そんな訳がないでしょう。こんなに広い館にメイドがいないなんて。まさかあんたの家族だけで住んでるって訳じゃないんでしょ?」

「うん。違うよ」

「? よく分からないけど……で、メイドはどこに行ってるの?」

「だからいないよ。メイドなんて」

「……なら執事は? 庭師とかは? あんな広い庭なんて、庭師がいないと整えられないでしょ?」


 アタシの言葉に、アルフは何かに思い至ったような顔をする。

「執事……。よく分からないけど、爺ならいるよ」


「爺? 執事ってこと? 他には? その人だけってことは無いんでしょ?」

「ああ。友達ならいるよ。さっきのナーちゃんとか……」


 続いて、何かの名前を挙げ続けるアルフだったけど、アタシはそれを止める。

「……それって、人の名前?」

「え? ううん。違うよ」

「人間の使用人を聞いてるの! ペットなんてどうでもいいから、他に使用人とか、メイドとか、お手伝いさんとか……。そんな人が居るでしょ? その爺って人以外にも!」

「へ? どうして? 爺だけだよ?」

「はあ?」

「え?」


 アタシ達は、互いに見詰め合う。

 アタシはさっぱり意味が分からない。

 ただ、アルフも不思議そうに首を傾げている。


 彼の言葉を信じるなら、ここにはアルフの家族の他は爺って人だけしかいない事になる。 

 でも、そんな事はありえないでしょう。

 だって、こんなに広い館よ?

 常識的に考えたら、使用人が百人、いや千人くらい居ても不思議じゃない。


「……もう一度だけ聞くわよ?」

「うん」

「あんたの家族以外の人間で、爺って人以外の人達は、どこに行ったの?」

「だから、爺しかいないよ」

 再び場が沈黙する。


 少し抜けているとは感じていたけど、これは重傷ね……。

 なんて、考えていると――――


「――――何やら騒々しいですな……」


 そんな渋い声が、アタシ達の間に割り込んできた。

 慌ててアタシが声の方向に視線をやると――――。


「…………一体、どなたですかな?」

 白髪で、ちょび髭で、長身で、着ている執事服の上からでも分かる筋骨隆々な身体の、老齢の執事が、食堂の戸口に立っていた。

 人も殺せそうな程鋭い眼光がアタシを捉えている。

 

「あ、い、いえ……」

 その刺すような視線を向けられて、アタシは思わず口ごもってしまう。

 この威圧感のある視線は、アタシが最も苦手とする類のものだったからだ。


「あ、爺。そんなに睨んじゃ駄目だよ。マイカが怖がってるよ」

 アルフは咎めているようだけど、口調は優しい。


 でも、助かった。

 主人に言われたら、執事は大人しくならざるを得ないでしょう。


「坊ちゃま。見知らぬ人間を、勝手に館に入れてはいけないと、何度言わせれば気が済むのです!!」


 ――――寧ろ、怒りは増していた。


 物凄いプレッシャーが、執事からアルフに放たれている。

 アタシは余波を受けるだけで、呼吸すら困難になった気がしていた。 


 そんな中でもアルフは涼しい顔をしたままだった。

「でも、困ってたんだよ」

 などと、執事を宥めている。


 執事は、はぁ、と長い溜息を吐くと、アタシに視線を向けてきた。

 怖いから、こっち見ないで。


「マイカさん、と申しましたか。貴女は何用でここを訪れられた?」

 低い声で執事がアタシに尋ねてくる。


「あ、い、いえ、その……ア、アタシは」

「爺。マイカは森で迷ったらしいんだ」


 何て答えようか迷っていると、アルフが助け舟を出してくれた。

 でも、執事の追及は終わらない。 

「森で? ……何の為にあのような深い森に入られた?」


 やばい。どうしよう。

 あの目は迷ったって話を、全く信じていない。

 このままじゃ追い出される! 

 そう思ったアタシは、必死に何かないか記憶を巡らせて――――咄嗟に口から吐きだした。


「あ、あーーと。それは、その、ア、アタシは、森林清掃が趣味で……」


 し、しまったあああああぁぁ。

 もっとマシな理由があったでしょ!? 

 こんな話、子供でも信じないわよっ!!


「…………」

「…………」


 ああ、やっぱり。

 二人の沈黙が重い!

 こ、こうなったら口八丁で、あることない事言い続けるしか――――


「そうだったんだ! 偉いねマイカ!!」


 信じたしっ!!

 なんだ、この頭の悪い子供は!


「ふむ……。それは中々感心な心掛けですな」


 アンタもかよ!

 っていうか、信じるなよっ!!


 何か…………色々心配になる二人だ。

 でもまあそのお陰で、アタシはこの筋骨執事に、滞在を許されたのだった。

 何だかなぁ……。


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