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マイ・レボリューション  作者: 過酸化水素水子
一章
3/10

2: 少年とアタシ

 

「はぁはぁ……死ぬかと思ったわ……」

 

 あれから、少年がこの大蛇の飼い主であるという事が分かり、離してくれるように懇願する事で、アタシは大蛇の魔の手……もとい魔の身体から、逃れる事が出来た。

 ああ……生きてるって素晴らしい。


「はははっ」

 少年は何がおかしいのか、朗らかに笑っている。


「……いつまでにやけてんのっ! 死にかけたのよコッチはっ!!」

 地面に四つんばいになった体勢で、腹の底から指摘してやる。

 もちろん、不法侵入しているのはアタシだという事実は、脇に放っていた。


「はははっ……ごめんね。でも、ナーちゃんに巻かれていた時のキミの顔が面白くって……」

 少年は小癪にも再び、クスクスと笑う。

 そして、ナーちゃんはただじゃれていただけだよ、と弁解すると――――再び笑った。


 間違いなくアタシの顔は、今どす黒く変色している事だろう。

 こいつ……一体どうしてくれようか!!


 それより、この大蛇。ナーちゃんという名前らしい。

 ペットになんて名前をつけようと構わないけど、似合わなすぎよっ!!

 こんな危険な大蛇は、ウロボロスとかでも付けときなさい。


 アタシは噴水の中でとぐろを巻いている大蛇に視線を送る。


 それにさっきのあれが、じゃれついていただけだって?

 アタシは間違いなく死を予感したんだけど?

 もしコイツが来なかったら、アタシは今頃腹の中だったかもしれない――――


 そんなアタシの視線に気付いたのか。

 『ナーちゃん』こと白大蛇は、シャアアと、長い舌を出した。


 …………間違いない。


「ふふっ。ナーちゃん遊んでもらえて嬉しかったみたい。ボクからも礼を言うよ。ありがとう」


 少年はパッと見だと十四、五歳くらいに見える。

 大体百六十センチくらいかな?

 アタシより身長が低い。加えて、とても童顔だった。


 サラサラの金髪はとても綺麗で、整った顔立ちをしている。

 客観的に見たら、美少年である事に疑う余地はない。

 まあ、年下はアタシの趣味じゃないけれど。


 着ている服は見るからに高級そうなもので、いかにも御曹司然とした格好である。


「……で、アンタ何なのよ。ここの子?」

「う~~~ん。そうだね……。ここの子供……と言えば、そうなのかも」

 少年は何か勿体つけたような言い方をする。

 

 あーー。イライラする。

 アタシはこういうハッキリしない奴は嫌いだ。

 今の問いの解答としては、そう、か、違う、しかないじゃない。


 内心アタシが憤っていると、

「それより、キミは誰?」

 少年は不思議そうな顔で尋ねてきた。


 ちっ。

 人に名を尋ねる時は、先ず自分から名乗るのが礼儀だって、教わってないのか!

 と、叫びたかったけど、何とかそれを抑えてアタシは答えてやる。


「……アタシは、マイカよ。森で迷っちゃって、辿り着いた場所がここだったの」

 とりあえず、それだけを説明する。

 必ずしも真実って訳じゃないけど、まあそれは気にしないでおく。


 少年はアタシの言葉に表情を曇らせ、 

「それは大変だったね……。それなら家で休んでいってよ。ああ、大丈夫。空いてる部屋は一杯あるんだ」

 後半は再び朗らかな笑みを貼り付けて言った。


 よっし!!

 その言葉が欲しかった!

 アタシは心の中で喝采を上げる。


「そう? そうしてくれると助かるわ」

 でも、表面上はそれを表さず平静を装った。

 このご時世、嘗められたら負けなんだ。


「じゃあ、案内するよ。一緒に付いて来て」

 少年はにこやかに微笑むと、アタシの返事も聞かない内に、遥か遠くに見える屋敷に向かって歩き始めた。

 その様子からは、警戒心とかはまるで感じられない。


 アタシは今日始めて会ったばかりの、しかも招かれてもいない客なのよ?

 何でそんなに無防備なの!!

 と、説教してやりたくなったけど――――


 まあ、アタシには都合が良いから何も言わないでおいた。

 こんな大邸宅に住む子供だ。

 さぞかし純粋培養で、親に甘やかされて育っているんだろう。


 アタシは少年の後に続こうとして、

「あ、そう言えば、あんたの名前は?」

 その事を思い出して尋ねた。

 少年、でも別に不自由しないけど、何か気持ち悪いしね。


「え? ああ……。そうだね。そうだよね! 人に会ったら教えるのが普通だよね! そっかぁ……」

 少年は立ち止まると、何か嬉しそうに考え込む。


 イライラする。

「で、名前は!!」

 なので再度促してやる。


「ああ、ごめん。そうだね。えっと、ボクの名前は……アルフ……。そう、アルフって言うんだ」

 アルフは振り返りながら、そう言った。


「そう。分かったわ。……あ、ついでに聞くけど、あんた歳は?」

「ボク? ボクは十七歳だよ」


 うへっ!?

 アタシと一つしか違わないじゃない。


 まじまじとアルフを見つめてみる。

 そんなアタシの視線に気付いたのか、アルフはクリクリした青い瞳をこちらに向けてくる。

 やはり十七には見えない。


「キミは? ボクより年上に見えるけど」

「アタシは今年で十八よ」

「へーー。意外と若いんだねぇ……」


 何やらアタシを見て驚いているけど――――お前にだけは言われたくない。

 それに、"意外と"って何よ!

 もっと歳食ってるように見えるわけ!? と、怒鳴りたいけど…………見えるんだろうなぁ。


 アタシは人に数歳年上に見られることは少なくなかった。

 慣れたくはないけど、既に慣れっこな台詞だった。


「……余計な事言ってないで、さっさと案内なさい!」

「あ、うん。そうだね。付いて来て!」

 我ながら偉そうだとは思ったけど、アルフは嫌な顔をするどころか、再び嬉しそうに先を歩いていった。

 何かいきなり疲れたけど、アタシは何も言わずに後を追った。

 何気なく振り返ると、大蛇が噴水の中でまるでアタシ達を見送るように、尾を振っていた。



***



「はぁはぁ……」

 大豪邸の前に着いた頃には、アタシは既にグロッキーだった。


「遠すぎよ!! 何でこんなに庭が広いのよ!!」


 あの大蛇が住まう噴水を第一地点とすると、ここまで等間隔で第二、第三と噴水が続いていき――――

 それぞれの間隔は大体三百メートルくらいか。

 それが十以上あったので、少なくとも三キロは歩いた事になる。


 遠くにあるとは思っていたけど、これほど遠いなんて……正直目測を見誤っていた。

 それもこれも、辿り着いた館が、異常に大きい所為だ。

 洋館風の作りの大豪邸の端はどこまでも続いていて、端が見えない。

 屋根だって高い。

 三階くらいはあるんじゃないだろうか。

 

 まあともかく、そんな長い道のりを、アルフは平然と踏破していた。

 見かけによらず、体力はあるらしい。


「ほら、こっちだよ」

 アルフが洋館の中央にあるデカイ扉の前で、アタシを手招きしている。

 何が楽しいのか、常に笑顔のままだ。


 ここまで来るまでに、その表情であれこれアタシに質問してきた。

 お座なりに対応していたにもかかわらず、少年の笑顔が曇る事は一度もなかった。


「はぁ……」

 十七にしては幼すぎない?

 まるで八歳くらいの子供を相手にしてるようで、とても疲れる。


 ――――けど、アタシには付いて行く他ない。

 ぐしゃぐしゃと、ショートの髪を掻き毟りながら、アルフの下に向かった。


+++


 館の中は外装とは異なり、薄汚れていた――――なんて事はなく。

 外装から予想されたような、物凄い内装だった。


 正面扉から入ると、まずは広いホールに出た。

 遥か上の天井に、幾らするのかアタシには想像もつかない豪華なシャンデリアが吊られている。

 周囲の壁も染み一つ無く、まるで新築のように真っ白なままだった。

 床には汚れた靴で上がるのは躊躇われるような、真っ赤な絨毯が一面に敷かれている。

 

 所かしこに置かれている装飾品は、恐らくどれをとっても、アタシが十年働いても返せない額のものに違いない。

 それらは、まだ昼過ぎなのに明々と付けられているシャンデリアの光に照らされて、鋭い輝きを放っていた。


 ホールの両脇からは、どこまでも廊下が続いている。

 部屋も当然あるけど、一体何部屋あるのか、数えるのもしんどい。


「はぁ……有る所には有るもんねえ……」

 呆れる視線を周囲にやりながら、アタシは呟く。

 もちろん、お金の話だ。


「こっちだよ。あ、先に部屋に行く? それとも食事にする? お腹減ってない?」

「へ? あーーー何かご馳走してくれるなら、食事を先にしてくれる? 朝から何にも食べてないの」

「そうなんだ。じゃあ先に食事にするね」

 そう言って、アルフはホールの左に伸びている廊下に入る。


 食堂にでも連れて行くつもりなのかしら?

 何となく違和感を覚えながらも、それが何か分からないまま、アタシは後に続いた。


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