ルミでの登校
「はぁ、此処まで学校に行く気が起きなくなるのは初めての事だなぁ。」
姿見に映る自分は我が高校のセーター服に身を包んでいた。
「なんかヤダなぁ。」
溜息を付き、ベッドに突っ伏した。
さて、その後ボクはそのまま自分の部屋に閉じこもっていようと思っていたのだが、弥美の侵入、強行により、学校に行く事になった。
…はぁ。
視線が痛い。ボクを見るなり、生徒達は固まり、ボクが通り過ぎるのを黙って鑑賞していた。
「はぁ。」
…もう、嫌だ。
さて、教室に入ってからもボクの憂鬱気分は増すばかりであった。
名前も覚えていない女子生徒にキャッキャと玩ばれたり、傍から見れば羨ましいだろう光景だったであろうが、ボクにとってはテンションがいきなりエンジンの止まった飛行機並の憂鬱への急転直下状態である。
「皆、席に着け。」
救いの声にも聞こえた先生の搭乗の声が響いた。
「おっ、龍炎、来たのか。気分は如何?」
「早く早退したい気分です。」
「アハハハ、それは無理って物だね。」
「ですよねー。」
棒読み同然で言う。
「まぁ、そういう事だから龍炎が登校拒否になんない程度に遊べよ。」
『はーい。』
遊ばれたくないです。
昼休み時
「はぁ。」
「ホント、大変だね。リュウ君。」
昼食は弥美を含めた五人で食べる事にしている。勿論、武井を掃除用具入れに閉じ込めて。
「アハハハハ、まあねぇ。」
「まぁ、一週間ぐらいで飽きると思うし、それまで我慢してれば大丈夫だと思うよ。…武井を除いてね。」
「つうか、アイツ、如何したんだろうな?我が高の三大女子生徒には見向きもしないのに。」
「…ねえ、何となく思うんだけど。ルミってそれ以上の美的ランクじゃない?」
「ん~、言われてみれば確かにそうかもしれないね。」
「やめてくれ、ボクの何かがはじけ飛ぶそんな事になったら。」
「確かに、男がそんな事になったらプライドっぽいのが吹き飛ぶな。」
「そういう物なの?」
「普通そうじゃね?女子の場合、同姓にカッコいいって言われたら凹まないか?」
「…言われてみれば。」
「それと似たようなもの。」
「……ホモって最悪だよな。」
「リュウ、いきなり何を言いだすんだ?」
「いや、地獄に堕ちて欲しい人間の顔が一瞬浮かんだから。」
「それ、誰?」
「ガチホモ兄貴。」
「「「……え?」」」
それだけ言い昼食を続行した。
「…あ、そういえば。リュウ君、体育どうするの?」
「……あ。」
「え?何の事?」
「着替え。」
「…あぁ、成る程。」
ウチの学校、体育は合同なのである。男子は奇数クラス、女子は偶数クラスで着替えをするのである。
…では、ボクは何処で着替えれば良いのだろ?
「女子生徒が全員着替え終わってからじゃダメなのか?」
「絶対間に合わないわよ。」
「それと、あの掃除用具入れの化け物の存在。」
右を見ると飛び跳ねながら徐々にこっちに接近してきていた。
「確かに。この男の存在だな。」
「取り敢えず着替え終わったら縛っておいてくれないか?」
「でもコイツなら関節外してでも行きそうだぞ。」
「…じゃあ無理だね。」
それだけ言い、その化け物の方に向かい元の指定位置に押し戻した。
「…あ、良い解決法見つけた。」
「ん?何だ?」
「ばっくれれば良いんだよ。」
「それはダメだと思うよ。」
「……もう、いっその事一緒に着替えれば良いんじゃない?」
「いや、それはちょっとボクの意識が途切れる可能性が…」
「じゃぁ、もう無いよ。」
「やっぱすっぽかすしかないな。」
が、その後直ぐに冴島先生がやってきた。
「龍炎さん。ちょっと、一緒に来てくれるかな?」
「良いですよ。」
それだけ答え、先生の後をついていく。
連れて来られた場所はそれほど離れてない場所にある物置用の小部屋であった。
「何ですか此処?」
「文化祭の時に荷物置き場にする物置、それとはいこれ。」
そう言って小さな鍵を渡した。
「?」
「とりあえず、着替えの場所として貸すんだから変な事に使わないでよ。」
「はぁ、分りました。…ありがとうございます。」
そう言い鍵を受け取る。
「へぇ、良かったじゃない。」
「まぁ、良かったには良かったけど。」
…なんでそこまで親切にしてくれるんだろ?
等と言う謎の抱えたまま午後の授業となった。
「ん?武井は如何した。」
五時限の授業の教師がそう言う。
「「「「「……あ。」」」」」
五人が一瞬にして後ろ振り向き、掃除用具入れを見る。
「ん?どうかしたのか?」
「あ、いえ、何でもないです。」
ボクが取り敢えずそ知らぬ顔で言う。
「ふむ、なら武井は無断欠席と。」
ガタガタ
全員して後ろの掃除用具入れを見る。
その後、勇気ある男子生徒により掃除用具入れからガムテープやロープでグルグル巻きにされた武井の救出に成功した。武井の意識はまるで二週間閉じ込められていたかのように朦朧としていた。
「ルミちゃん、何であそこまでなってたのかな?」
「あれじゃね?女子を見る事出来なくて禁断症状みたいになったとか。」
「…ないない♪いくらエロ馬鹿でもそこまで行かないでしょ♪」
「だよねー。」
こうしてルミとしての登校第一回は恙無く終了した。