我が姉、登場
この話は龍炎流巳が性転換するようになって数週間後の話です。
「はぁあ。」
「ルミィ、如何したの?」
「いや、昨日のあれの疲れが抜けないから。」
昨日の夜、ドクターの失敗作の化け物に夜中追い掛け回されていた。
「あれは最悪だったよね。」
「…弥美は僕を囮にしてぐっすり寝てたけどな。」
「アハハハハ」
言い返せないので笑う弥美。
「でも、何で逃げ切れたの?あれって一度目を付けられたら一生追い掛け回されるんじゃないの。」
「ん?取り敢えず隠れてたら、発作起きて気がついたら戻っててさ、まぁ、見つかったには見つかったけど見た目違うから違うとこ探しに行こうとしたあいつらを後ろからボコして捕まえた。」
発作というのは性転換時に感じる、大きな鼓動音とそれによる気絶である
「うわぁ、凄いね。」
「あれ、感触が気持ち悪いから二度と触りたくないな。」
感覚的に言えばスライムぐらいの硬さの形のあるアメーバである。
「よぉ、リュウ、昨日は大変だったな。いや、今日でもあるか。」
寝不足であろう芳賀の目の下にはクマがあった。
「あぁ、まぁ、何とか捕獲には成功したけどな。」
「後で何かおごってやるよ。」
「あぁ、じゃあ、コーヒー、一本頼む。」
それだけ頼み、机に突っ伏した。
その後、四時限の終わりまで何も心配なく穏やかに過ごしていく僕…その穏やかさは通話一回で崩れ去ってしまうとも知れずに。
ヴー、ヴー、ヴー
昼休み時、携帯が鳴り出した。
「…はぁい。もしもぉし。」
『……』
「?もしもぉし、誰ですか?」
『リュウ?今すぐ帰って、玄関の扉を開けなさい。さもなくば、貴方の指が変な方向に曲がっちゃうわよ。』
「……」
僕の目の前は一瞬で白くなった。
「あれ?ルミィ如何したの?」
『リュウ♪早く帰ってきなさい♪』
「……」
『ヘタレリュウ!!!さっさと家に戻ってきなさい!!!!』
クラス中に響くようなあの悪魔のような声が携帯から響いた。
「はいぃぃ!!!」
その後の行動は覚えていない、気がつくと家の近くに居り、玄関の前にはご立腹の茶髪女性が居た。
「姉様、只今来ました。」
「遅い!!電話してから三十分も経ってるじゃない!!」
「すいません。ところで、姉様、一体何故いきなり帰ってこられたのですか?」
「ん?単なる暇つぶしよ。仕事も区切りついたし二日間お休み貰ったから暇つぶしついでに。我が弟の姿でも見ようかなと。」
「……え?二日間?!その、えっと、ここに?」
「そうに決まってるじゃない。我が家なんだし。」
二日間、地獄と化すか、不幸の少年と化すか…
「取り敢えず早くあけてくれないかな?」
「はい、畏まりました。」
鍵を開け、家の中に入れる。
「へぇ、案外綺麗じゃない。」
姉様と違うんですよ。姉様と。
「何か言った?」
「いえ、何も言っておりませんよ。」
「そう?取り敢えず、昼食作って。どうせなら中華で。」
「じゃぁ、ラーメンで良いですか?」
「チャーシュー多めでね。即席は無しだよ。」
「分ってます。」
そう言い、昨日の残りの麺を取り出す。
「あれ?昨日何か祝日だったけ?」
「単にパーティみたいなものですよ。」
そう良い、冷蔵室からチャーシューを取り出す。
鍋に、鶏がらと色々と投入しスープを作る。
「ん?ねえ、何で、椅子のクッション二つも出てるの?」
「あれ?母さんから何も聞いてないんですか?」
「だって、家出てから話した事無いし。」
「一年に一回くらいは電話してくださいよ。たまに電話すると姉様から電話が無くて寂しいよとか言ってましたよ。」
「そうなの?ところで、話戻すけど何でクッション二つ出てるの?」
「同学年の居候が一緒に住んでるんです。」
「へえ。え?やっちゃったの?」
「何で、誰もがそんな事聞くんですか?してませんよ。」
「もう、ヘタレなんだから。」
関係ないでしょ。
ダシをとり終え、麺を湯切りし盛り付けダシをかけ、チャーシューその他の具も載せた。
「姉様、出来ましたよ。」
そう言い、姉様の前に料理を出す。
「ふむ、いただきまぁす。」
先ず先にスープを飲み次に麺を食べた。
「ふむ、リュウ。」
「はい、何でしょうか?」
「腕上げたね!合格。」
「ありがとうございます。では、僕はこれで。」
「ん?何処に行くの?」
「学校に戻るに決まってるじゃないですか。いきなり呼び出されたんで荷物そのまま置いてきてしまいましたし。」
それだけ言い、ダシを他の容器に移し、他のダシ取りに使った物は使えそうな物のみ冷凍庫で凍らす事にした。
使った道具などを洗い学校に戻る事にした。
「姉様、食べ終わったら台所の方に出しておいてください。それと、姉様の部屋はその居候の人が使っていますので仕方ないので兄貴の部屋か、母さんの部屋を使ってください、姉様の部屋の道具の大半は物置の前の方にありますので分ると思います。」
「はぁい、畏まりました。」
「あ、あと、勝手に部屋の中に入らないで下さい。色々と仕掛けてありますので。」
「ん?何でまた。」
「諸事情です。」
それだけ言い学校に戻った。
「はぁあ、地獄だぁ。」
戻ってきて直ぐに机に突っ伏す僕。
「ルミィ、誰からの電話だったの。」
「姉様。」
「姉様?」
「…姉貴。」
「あぁ、お姉さんね。でもなんで地獄なの?」
「後々分るよ。」
「…でさ、足大丈夫?」
…足?
「何の事だ?」
「いや、だって電話切るなり窓から飛び降りたから。」
「…覚えてない。何も考えずに走ったから。」
「な、何も考えずに。」
「何か考えて走れば…命の危険になるかもしれないから。」
放課後
真っ直ぐに家に帰った。
「姉様、只今帰りましたよ。」
「ん~、おかえりぃ。」
その声と共にキセルを咥える姉様が顔を出した。
「…ルミちゃんにそっくり。」
「ん?そっちの女の子誰?」
「さっき言いました、居候です。」
「ふ~ん、案外可愛いじゃない。」
骨董品でも見定めるかのように弥美を嘗め回す姉。
「こんにちわ。えっと…」
「四義だよ。」
「四義さんですか。えっと、家を貸してもらってありがとうございます。」
「良いの良いの気にしないで。母さんの決めた事なら逆らわないしね。ところで、リュウお腹空いたぁ。バウムクーヘン作って。」
「幾ら僕でもそれは作れませんよ。カステラで良いですか?」
「じゃぁ、それで手作りね。」
「はい、畏まりました。」
「ルミが料理得意な理由やっと分った。」
数時間後
「出来ましたよ。」
「うん、これこれ。どれどれ…」
そう言い、一口食べる。
「ん~、ちょっと甘すぎるかな?」
「そうですか?姉様甘い物好きだった筈なので砂糖ではなく蜂蜜を使用したんですけど。」
「…まぁ、これはこれで美味しいわ。」
「で、姉様、夕食の方は如何しますか?」
「ん~、甘い物食べた後だから辛い物が良いなぁ。少し辛めのカレーをヨロシク。」
「はい、畏まりました。あ、それと何時もの事ですけど朝食のほうは此方で決めさせていただきますから。」
「分ってるよ。」
さて、今日は何事も無く過ぎていった。
目覚ましが鳴り、布団から出る。
ピョオン、ピョオン、ユサッ、ユサッ
確認終了。ルミ化を確認。
いつも通り下着を交換し、不快感解消。ヘアゴムを使いポニテにする。
いつも通り、下に降り、料理を作る。
ペタ、ペタ
「ふわぁ、おはよう。」
「おはようございます。」
姉様はそのままソファに腰を下ろしテレビを見始める。
「……ん?」
姉様の何やら疑問の声が聞こえるも、その後の言葉聞こえなかったので何も反応せずに料理を続けた。
トテトテ
「ふわぁ、おはよう。」
欠伸をしながら降りてくる弥美。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
「ちょうどよく朝食できたから食べるよ。」
「…ん?…ねえ、アンタ誰?」
「反応、遅いですね。姉様。」
内面で苦笑しながら言う。
「あ、姉様、ってまさか。…リュウ?」
「諸事情でこうなっちゃいました。」
そう説明するも驚きの表情を隠せない姉様。
「…か」
「か?」
首をかしげると、姉様の姿が消え、後ろから抱きつかれた。
「可愛い♪♪」
え?ええええええええ!!!!???
「リュウ、何でこんなに可愛くなっちゃってるの?!ムッ、私より胸大きいなんて、もう苛めてやるぅ!!」
そう言うと、姉様は、ボクの胸を弄くり出した。
「フワアッ。」
姉様の腕を払おうとするも、耳カプをされ、力が出なくなってしまい、姉様の為されるがままになってしまった。
この日、姉様の苛めのせいで体力が激減し、魂は少し抜けかけたため、学校を休まずに居られなくなってしまった。
姉様はルンルン気分、「近い内にまたきちゃうよぉ♪」と言う言葉を残しお昼前に家を出て行った。
「アハハハ、姉様、あんなになるんだ。」
その姿を思い出し、少し笑う僕の姿はパジャマはシワだらけになり、ボタンは外され、上の方の下着は外され、椅子にぼぉっと座っているという何かマニアが喜びそうな状態である。
「…ルミの魂が抜けてる。」
と言う、弥美の呟きが聞こえてきたが聞き逃しておいた。