5.完全試合《パーフェクトゲーム》
『ゴール様!!!お次は挑戦者の女に対し『フェイトジャック』を宣言したァァァァァァ!!!!!』
「流れは完全に僕に来ている。逆にそっちは....言っちゃ悪いが完全に運は尽きた。こんな絶好の機会見逃すわけにはいかないよな?」
ゴールが不気味に口角を上げる。
(このタイミングで......完全に私を終わらせようと......)
呼吸がさらに乱れる。
自分でも、今の自分には運が向いていない事を理解している。
この状況で『フェイトジャック』など受けれるはずがない。
けど。
『挑戦者の女の総資産は現在1億2000万キャメル......さらに自分自身の価値....出ました6000万キャメル!!!これをここに付け加えると.....1億8000万キャメル!!!!もしサレンダーを希望する場合はこの半分、9000万キャメルがゴール様に渡されます!!!!」
サレンダーなんてできるわけがない。
例え、どれだけ流れが悪くても9000万という大金を黙って渡せるはずがない。
『.....何も言わないのであれば、宣言を受けると取りますが!!?』
「いや、もう少し考える時間を...」
「受けます.....」
「.....ん?」
ゴールさんの言葉を遮り私は声を出す。
喉の奥底から、なんとか絞り出した声を。
「宣言を受けます.....!!」
その瞬間、会場に拍手喝采が飛ぶ。
ただこれは明らかに祝福ではない。
処刑台に上がる人を見て興奮する群衆の声だ。
「......本気か?」
「私が受けたら何か不都合でもあるんですか?」
「....いや、まぁいいだろう。では勝負を始めようか」
女の子がゲームから除外され、私とゴールさん.....いや。
私の“人生”を賭けた一戦が始まった。
『さぁ『フェイトジャック』!!既にオープンしている挑戦者の女の手札は....19!!これはもうスタンドと宣言するしかないのか〜〜!!?』
アナウンスの声が私を煽る。
けど実際そうだ、普通19でヒットなんてしない。
エースと2のカード以外が出ればバーストするから。
(けど.....この勝負で20を超えてない手札は痛い.......ゴールさんの手札が何かわからないけど、あの伏せているカード2枚が絵札2枚の可能性は高い。そうなるとたった1足りず私の敗北.....)
かといってヒットは自殺行為。
けどヒットしなければ負ける確率も高い。
(どうすれば.....私は.....ここで.....)
その時。
(『ギャンブルにおいて必要なのは...... ギャンブルでやっちゃいけない事は......』)
ミユウ.......。
幻聴だろうけど、確かに今...耳元にミユウの声が聞こえた。
(勇気......恐怖に打ち勝つ心...........焦るな.....)
怖い。
全身から冷たい汗が止まらない。
指先が震え、視界が定まらない。
けど、その声が私の内に熱を灯したのを感じた。
少しだけ震えも、視界も落ち着き始める。
ミユウの声が私を確かに支えた。
「その手ならスタンドかな?なら私のヒ....「ヒットッッッ!!!!」
思わず会場全体に響くほど、大声で言ってしまった。
ゴールの肩がビクッと跳ね、手に持つデッキの1番上...カードがぽろっとテーブルへ落ちる。
「あ.....」
「っ....ちっ....」
表になり落ちたカードは......。
スペードのエース、1のカード。
私はギリギリでバーストせず、計20の手札となった。
「はぁぁぁ.........」
肺の奥に溜め込んでいた何かを全部吐き出し、テーブルに額を置く。
生まれて初めてかもしれない。
ここまで大きく息を吐き、そしてここまで安堵に包まれたのは。
同時に、全身から力が一気に抜けていくのを感じた。
まるで空気が一気に抜けていく風船のような気分だ。
『な!なんと!!挑戦者の女が引いたのはスペードのエース!!!!なんという運ッッ!!!合計20の手札を作り上げたァァァァ!!!!』
「「「おおおおおおおおッッッ!!!!!」」」
歓声が会場全体に轟く。
(20.....まだ絶対に勝てる手札ではない......けどこれ以上のヒットはできない....。既にエースカードはこの周回で3枚出ている。ここで残り1枚のエースカードを狙ってヒットは、勇気でもなんでもない.....)
私はゆっくりと顔を上げ。
「スタンド.....!」
『挑戦者の女!ここでスタンドを選択!!!2度目の奇跡は起こさないようだ!!!!』
あとは、自分の運を信じる。
もう神様に....他人に祈らない......!
「.......っ......」
ゴールさんの顔を睨みつけていると、その表情に薄っすらと戸惑いが見えた。
手に持つデッキをじっと見つめ、固まっている。
流石に1億を超える大勝負、ゴールさんもヒットかスタンドかの選択で迷っているのだろう。
私がスタンドを宣言してから10秒後、ゴールさんはようやく動き出す。
デッキから1枚、カードを無言で自身の手札に追加。
これで3枚、裏向きのためまだ合計がいくつかはわからない。
(見えないのにヒット......間は空いてたけど追加するのに躊躇は見えなかった。凄い精神力ね.....)
そしてカードを一気に3枚、オープンする。
5と5.....そして、キング。
計20。
『ゴール様の手札は計20......!!!という事は......!!!』
私と同じ....20.......!!
『引き分けですッ!!!!この勝負、引き分けとなりました!!!!』
その言葉に私は再び、糸が切れたようにテーブルに勢いよく額をぶつける。
生き残った安堵、乗り越えられた悦び。
額に広がる痛みは気にもならない。
「よかったぁ........」
勝ったわけではないのでお金は入らない。
けどそれでも十分すぎるほど、幸福を感じる。
「....ネクストゲームだ」
そんな私を気にする事なく、ゴールさんはトランプを回収し始めた。
私は顔を上げ、自身の手札を見つめながら決心する。
(......力...借りるよ、ミユウ)
その後....第五戦、第六戦は一度勝ち一度負けた。
そして、デッキが空になり4周目。
最後のターンが始まる。
3周目終了時点でのチップ数。
ゴール:496枚
金夏:120枚
女の子:9枚
◆
(ちっ......手元を狂わされた......)
ゴールは内心で挑戦者の女を睨みつけていた。
本来であれば、先の『フェイトジャック』で完全に潰せたものを、誤って落としたスペードのエースにより引き分けに持ち込まれてしまったからだ。
(いや....その前の予想外のダブルダウンで調子が狂ったってのもあるか......男はともかく、女2人はギャンブルのド素人の初心者.....使うはずがないと踏んでたってのに)
ゴールは集め終えたトランプをテーブルに開示する。
1周目から3周目までと同様に、挑戦者に見えるように。
(しかし馬鹿な奴らだ。あの様子じゃ私がなぜ勝てているのか全くわかっていないな。ギャンブルは運頼り?アホか。生憎だが私はこの国の生まれじゃない。運に頼った戦いなんてするか。やるなら完全試合.....端からこのゲームは私が完全に支配している)
ゴールがいちいちデックを開示する理由。
それはイカサマの防止....などでは当然ない。
ゴールは自称、世界一のイカサマギャンブラー。
開示していたのはカードの並びを一目で記憶するためだ。
その後、あたかも無造作に切っているシャッフルだが実は違う。
『パーフェクトシャッフル』
一枚違わずカードの並びを仕組んでいた。
さらに、『セカンドディール(デックの1番上ではなく2番目のカードを配るイカサマ)』、『サードディール(上から3番目のカードを配るイカサマ)』等を含むプロの目をも欺けるほどの高い技術、練度のあらゆるフォールスディールを巧みに使い、ゴールは試合の流れ....この会場を完全に支配していた。
「では、4周目。最後のターンを始めようか」
ゴールはカードを配り始める。
当然、自分が確実に勝てるカードを。
(俺の手札は2と10の計12....だがそんなの関係なく.....)
子の2人がカードをオープンする。
片方はクイーンと3の計13。
もう片方が3と9の計12。
(そんで.....当然するよなぁ?ヒット)
「ヒット.....!」
ゴールはカードを1枚渡す。
そのカードは。
「っ.....!?」
キング、計23となりバースト。
「ヒ....ヒット.....」
そしてもう1人、渡したカードは。
「あ.....」
クイーン、計22でバースト。
子の2人がバーストしたことにより親の勝利が確定する。
(はいお疲れ〜。良い絶望顔だね〜)
ゴールは内心でほくそ笑む。
そして賭けられたチップ、5枚と3枚を奪う。
続く第二戦もゴールは勝利した。
当然の結果、予定通りの勝利。
(そろそろいいか.....)
ゴールは誰にも気づかれぬ角度を取り、デックから使用済みのデックの1番上へ2枚のカードを加える。
ダイヤとハートのエースカードだ。
(さっきのような事故、アクシデントが万が一にも起きないとも限らない。普通のブラック・ジャックでもそうだがエースカードは強力....念のため2枚消しておくべきだ)
そして、平然とカードを配る前の僅かな瞬間。
(さて......)
ゴールは今後の試合の流れを考え始める。
(俺の今のチップ数は512....112枚のプラスで1億1200万.....十分な収穫だな)
1億、ゴールにとってはそれで満足いく儲けだった。
(ガキは残り2枚....女は110枚.....あれを潰すにはこっちもまた1億賭ける必要がある.....そんな僅かではあるが余計な損失を生むかもしれない賭け、する必要はない)
彼は冷静に、挑戦者の女を相手にしないことに決める。
(となればあれは無視。残りのデック数からしてあと3戦、ガキを潰すことに集中しようか)
ゴールは挑戦者の女の子をチラッと見る。
残りチップ2枚、例えるなら既に消えかけている僅かな命の炎。
あれが消えた時の女の子の顔、その表情がどんなものになるかゴールは脳内で描く。
泣くか、崩れるか、それとも絶望のあまり固まるか。
観客はそのショーを望んでいることを知っている。
(客を喜ばせるのも俺がギャンブラーとして名が売れた理由。あのガキが破滅した瞬間、客どもは俺を大いに讃え、俺がこの国一のギャンブラーであると確信するはずだ)
ゴールは思案の末、女の子に狙いを定めカードを配り始める。
第3戦目が始まった。
(大勝負はせずガキを殺す。となれば、面倒なエースカードはいよいよいらないな)
ゴールはスペードのエースを挑戦者の女に配る。
(そして、俺にもエースカード.....上から3番目のクローバーのエースを)
女の子に6のカードを渡し、セカンドディールを使い自身にクローバーのエースカードを配る。
そしてもう一周、女に5のカード、女の子に2のカードを配り...そして。
(俺にはスペードのキングだ.....!)
自分へキングを配る。
これで手札にはブラックジャックの役が完成した。
(笑えるな.....あの顔、良いカードが来てくれますようにって必死に祈ってやがる......)
女の子の賭けたチップは1枚。
ここで負ければ残りは1枚。
いよいよ後がない状況だ。
(バァ〜カ。この期に及んで運なんてもんを信じるな。そもそもお前に運があればこんなところに来てねぇだろうがよぉ〜)
心中で舌を出し、女の子を嘲笑う。
ゴールの手がブラックジャックである事が確定しているため、どれだけ祈ろうと勝敗は既に決まっている。
祈りなど無駄な行為でしかない。
(ここに来る奴らの最期は大抵がああやって神頼み。滑稽すぎて笑うのを我慢するこっちの身にもなってくれよ本当)
「なんとも思わないの......?」
「......へ?」
挑戦者の女が突然口を開いた。
「あの子は残りチップ2枚、ここで負けたら次で終わるかもしれない。終われば女の子の人生も終わる....なのに、あなたは何とも思わないの?」
突然何言ってんだこいつ....と、ゴールは鼻で笑った。
「いや....私も非常に悲しいと思ってるさ。けどこれも勝負。この席に座った以上、私は誰が相手であろうと一切手を抜かずに倒す。それが私のギャンブラーとしてのモットーなんでね」
「そう......」
そう答えると女は顔を伏せた。
(ふん、あのガキにくだらない情でも湧いてんのかこいつ?今回は潰せなかったが次回....どうせお前は参加する。その時こそお前の番だ)
「じゃあ.....よかった」
「.....よかった?」
「それなら私も.....心置きなくあなたを倒せる」
「は?」
(.....なんだ?空気が変わった.......?)
女はゴールを睨み、指を差す。
そして。
「『フェイトジャック』.....!!」




