3.最高のショー
(......あれ、また負けた)
一戦目、そして二戦目。
子は誰1人親に勝てず、チップを奪われていた。
三戦目。
私の手札は10とナイトの計20。
男は10と3、ヒット一回でクイーンを出し計23でバースト。
女の子はクイーンと8、計18。
そして、ゴールさんの手札は3と5。
追加をし4、次に2、そして最後に7を引き計21。
またも子は全員負けた。
一周目の全勝で運を使い切ったのかと思えるほど、誰1人として突然勝てなくなった。
「悪いね、どうやらツキが私に巡ってきたようだ」
ゴールさんはそう呟きながら、カードを配る。
四戦目。
それぞれチップを1枚ずつ賭け、カードを開く。
私の手札はキングと9の計19。
男の手札は10と6、計16。
女の子の手札は7と4、計11。
この手なら私はヒットしない方が良いだろう。
男は....微妙だ。
女の子は確実にヒットが必要になる。
もし10か絵札が出れば21、勝てるかもしれない。
(.....ん?ゴールさん.....なんでカード伏せたまま?)
自分と子のカードを見終えた私は、親の見せ札を見ようと視線を動かすがなぜか2枚とも伏せたままだった。
ゴールさんは自身のカードをじっと見つめたまま捲ろうとしない。
「おい!!いつまでトロトロやってんだよ!!もっと派手に賭けろよ腰抜け共!!!」
その時、観客席から1人の男の野次が飛んできた。
それに同調し、「そうだそうだ!!」「俺らを楽しませろ!!!」と、声が次々と上がる。
会場は一瞬にしてブーイングに包まれた。
(そんな簡単に大博打できる訳ないでしょ.....つまらないんだったら帰ってよ......)
パンッ!
そんな中、ゴールさんは高く掲げた両手を打ち鳴らし、一瞬の静寂を作り出す。
「オーケーオーディエンス!ツキは私に向いている....なら、ここから最高のショーにしていこうじゃないか!」
そのゴールさんの言葉に観客席から、待ってましたと言わんばかりの歓声が起こる。
(最高のショー......?)
私がそれに疑問を思う中、ゴールさんは挑戦者の男を指差した。
男の肩がビクッと跳ね、明らかな動揺を見せる。
「始めよう。『フェイトジャック』だ!!」
宣言と同時に会場が揺れた。
低く唸るような地響き。
天井のライトが一斉に明滅し、何色もの光がフロアを激しく照らす。
(フェイトジャック!!?確かにゴールさんのカードはまだ二枚とも裏向き.....宣言できるけど.....)
フェイトジャックは宣言者がカードをオープンする前に宣言できるルール。
自分の手札が見えない状態で大金を賭ける、イカれた宣言だ。
(ただツキが回ってるってだけで.....こんな突然.....)
『さぁ出ましたフェイトジャック!!!』
アナウンスの声が再び会場に響く。
『宣言者は我らがゴール様!!!そしてその対象者は.....挑戦者の男だぁぁぁぁぁ!!!!!』
スポットライトが二人を射抜く。
不敵に笑うゴールさんに対し、男の呼吸が離れていてもわかるほど乱れていた。
汗も異常に掻き、平常心を保てていない。
『フェイトジャックのルールを再度説明しておきましょう!まず宣言者、そしてその対象者以外の参加者はこのゲームには参加できません!よって、他のお二人には降りていただきます!!』
この場合....私と女の子が対象外だからこのゲームは観戦者になる、ということね....。
『そして対象となった方と親、それぞれの総資産を確かめ、どちらかの上限いっぱいまで資産を賭けあって頂きます!!』
男はすでに、5000万が最後の命綱と説明されていた。
つまり....現在のチップ52枚=5200万が男の総資産、それを強制的に賭けさせられる。
男の今の心情が想像に難くない。
『挑戦者の男の現在の総資産は5200万キャメル.....そして、残るは自分自身の価値600万キャメルのみ。対してゴール様はチップ含め15億!!よってこの勝負....5800万キャメル、58枚のチップを賭けて頂きます!!!!』
(.....は?)
そのアナウンスの決定に再度歓声が巻き起こる。
誰1人として、今の説明に疑問を持っていない。
(総資産って......自分自身も含めて.....!?)
私の中で、フェイトジャックの恐ろしさの認識が一段上がる。
負ければお金が消えるなんて甘い話じゃない。
失うのは人権、残るのは奴隷の道だけ......。
「ふ.....ふざけるなっ!!そんな勝負...できる訳ないだろっっ!!!?」
男は椅子から立ち上がり叫んだ。
(当然よね......こんな勝負受けれるわけない.....)
完全な運任せで人生を賭けるなんて正気の沙汰じゃない。
「だったらサレンダーしろ」
優しめな口調だったゴールさんの声が、突然氷のように冷たくなった。
その眼は、呆れているのか....情けない人でも見るかのような眼を男に向けていた。
「ここはアメリア王国のカジノ。自分の運も信じられない雑魚が座る場じゃない。元富豪のくせに情けない.....だからお前は転落したんだ、身の丈にあった立場にまで」
「うっ......」
男の口が開かなくなる。
何も言い返せないのだろうか。
『えー、フェイトジャックが一度宣言されればキャンセル...取り消しは不可能です。もしサレンダーなさるのであれば、5800万キャメルの半分....つまり2900万キャメルがゴール様に渡りますが?』
(酷い....そんなの選択肢にならない)
負けて人生が完全に終わるよりマシとは言え、総資産の半分を持っていかれる.....サレンダーなんてできるわけがない。
(逃げ道なんて....最初から用意されてないんだ.......)
『10秒以内にお決めください。受けるか、サレンダーかを』
カウントが始まり、男は泣き始める。
今にも血反吐を吐き出しそうなほど、苦悶の表情を浮かべて。
『7.....8.....9....じゅ...「受けるっっ!!!受ければいいんだろ....!!?」
悲鳴にも聞こえる叫び声で男は宣言を受けた。
男の勇気ある決断にか、会場に拍手と口笛が飛ぶ。
『では....フェイトジャックを始めますッ!!!まず挑戦者の男!!ヒットかスタンドか....お選びください!!!』
フェイトジャックが始まった。
男の手札は10と6の計16.....人生を賭けるにはあまりに不安で微妙な手札だ。
私ならヒットしたい.....でも6以上のカードが出れば即バースト。
フェイトジャックではお互いバーストした際引き分けと言っていたけど......子が先にバーストしたのなら、親は何もせず2枚のままスタンドすれば勝利。
思えば....子がオープンしてから親は宣言できるのだから、相手の手札が微妙な時にフェイトジャックを仕掛ければ勝率は確実に上がる。
それに、親の見せ札が見れないので子側は情報が完全に0。
普段よりもヒットすべきかどうかの選択がしづらい。
言うなれば、子は何も見えない暗闇空間での行動を強いられている。
その先にあるのが触れれば即起爆する爆弾か、空間を照らすライトか。
(このフェイトジャック....明らかに親側が有利に作られてる......)
「っ......!ひ......ヒ.....ヒッ......ッ!!」
ヒットと言おうとしてるのだろうけど、おそらく恐怖が邪魔をして言えないんだ。
その気持ちはわかる、けど16では負ける可能性が高い。
(頑張って......)
私は心中で祈った。
男が無事、この勝負を乗り越えられることを。
『残り5秒です....!』
「ひ.....ひっ........」
最後まで男はヒットと、喉の奥底から捻り出そうとしていたが。
『......時間切れになります。挑戦者の男は16で勝負だァァァァァ!!!!』
結局、男は言えなかった。
あとは男も祈ることしかできない。
親が16以下かバーストしてくれることを。
『さぁゴール様!ヒットしますか?それとも....』
「私はこのままで勝負しよう。スタンドだ!」
次にゴールさんのターン、まさかの即答だった。
ゴールさんはゴールさんで、自身の手札が1枚も見れないので今の手札が17以上かどうかがわからないはずだ。
もしかすれば、すでに10が2枚で計20の可能性もある。
そうであるならヒットしてエースカード以外が出れば即バースト。
(親が有利ではあるけど、それでも長考は必須........だと思ってたのに)
さっき言っていた己の運を信じているゆえか、その瞳には一切の迷い....恐れが見えない。
(いや....ゴールさんの総資産15億が本当なら、たとえこの勝負に負けて5800万奪われようと対して痛くないから......?)
その瞳に何か違和感を感じたけど何もわからない。
嫌な予感だけが胸の内に膨らんでいく。
『さぁ!両者手札が揃いました!!!ではゴール様、カードをオープンしてください!!!』
アナウンスの言葉に、ゴールさんはゆっくりと一枚目をオープンする。
『ゴール様!!1枚目はスペードのキングだぁぁぁぁぁ!!!!』
最悪、絶望的な1枚目だ。
もし2〜5のカードが出てくれれば、その時点で男の勝利が確定したのに、よりによって絵札....つまり10。
これで親の勝率は一気に跳ね上がってしまった。
『ゴール様、では2枚目をどうぞ!!』
ゴールさんはゆっくりと二枚目へ手を伸ばす。
口元には不気味な笑み。
気付けば、さきほどまで熱狂していた会場が嘘のように静まり返っていた。
誰もが息を止めこの一瞬を見守っている。
指先がカードを掴む。
そして.....オープンした。
「......悪いね」
見えたのは.....ハートのエース。
「ブラックジャック.......!」
思わず声が漏れた。
この一大勝負でゴールさんが出したのは、絵札とエースのブラックジャック。
これに勝てるのはダブルエースのみ。
運の圧勝。
ゴールさんは男に対して、圧倒的な運の力を見せつけ勝利した。
『なんとゴール様....!!!まさかのブラックジャックだァァァァァ!!!!!!』
絶叫のような実況に再び歓声が爆発する。
その中心で、挑戦者の男は糸が切れた人形のように.....後ろへ倒れた。
受け身を一切取らず、目を見開いたまま意識を失うように。
『ゴール様!!!圧勝ッッ!!!!運喰いのゴールここにあり!!!!』
観客達がゴールさんへ勝利の祝辞のような叫びを送っている。
「いやはや、運の無駄遣いをしてしまったよ。ここでブラックジャックを出したところで1.5倍は意味がない。なんせ彼の総資産は既に空っぽ。もう奪えるものは何一つ無いのだから」
そのゴールさんの声色は不気味なほど穏やかだった。
フェイトジャックという極限の勝負でブラックジャックを出しておきながら。
本来なら興奮や高揚が滲むはずなのに何もない。
驚きも震えも達成感すら。
ただ“当然”の結果だという顔。
『これで挑戦者の男の総チップに加え総資産、計5800万=58枚のチップがゴール様に送られます!!!!そして.....!』
全員の視線が一斉に動いた。
絶望を絵に描いたような酷い顔を浮かべながら痙攣し倒れている男に。
『男はこれで総資産....0ッ!!!さらに自身の権利すらも売却したため、もはや勝負の続行は不可能!!!!よって、ゲームから脱落となります!!!!!』
スーツ姿の屈強な男が二人、倒れている男に歩み寄る。
「あっ.....い.....嫌だァァァァァ!!!!下位奴隷になるのは嫌だ!!!!亜人に売らないでくれェェェェェ!!!!」
思わず耳を塞いでしまう痛々しい悲鳴。
男は左右から腕を掴まれ床を引き摺られる。
男は弱々しく体を動かして抵抗するも無意味に終わり、私の背後にある扉の向こうへと消えた。
『さぁ1人脱落ということで、残る挑戦者は2人....!!果たしてどのような戦いを見せてくれるのか!!!では第五戦目、スタートしてください!!!!』
アナウンスの声が再び消える。
何事もなかったかのように、ゴールさんは淡々と使用したトランプを集めてデッキの下に加える。
(気持ち悪い......なんでそんな平然としてられるの........あなたの手で今、1人の人の人生を終わらせたんだよ......?)
私は込み上げる吐き気に耐えながら、ゲームを続けた。
けど第五戦目も私と女の子はゴールさんに敗北した。
2週目終了、現在のチップ数。
ゴール:455枚
金夏:151枚
女の子:19枚




