2.ブラック・フェイト・ジャック
(ブラック・フェイト・ジャック.....?ブラックジャックなら...ミユウとやったことあるけど.......)
一年前に亡くなった友人と中学の頃にブラックジャックで遊んだ記憶が脳裏によぎる。
ミユウはどんなゲームでも異様に強くて、私は一度も勝てなかったっけ。
『説明いたしましょう!!ブラック・フェイト・ジャックとは、基本は通常のブラック・ジャックと同じですが....そこに特殊ルールを追加したゲームとなります!!』
その後のアナウンスで説明された内容は、次の通りだった。
通常のブラックジャックと同様、親よりも手札の合計が21に近ければ勝利。
勝てば賭けたチップと同額を親から受け取り、負ければ賭けたチップはすべて没収される。
賭けの上限は親の総資産(手持ちのチップ以外も含む)で支払える額まで。
親は16以下の場合はヒット、17以上の場合はスタンドが強制。
絵札のカードであるナイト....恐らく現代で言うジャック、それにクイーンとキングは全て数字の10として扱う。
エースは1もしくは11のどちらか好きな方で扱える。
21を超えた場合はバースト。
親も子もバーストした際は子の負け。
親と子の合計数字が同数の場合、カード枚数が少ない方が勝利。
だが、枚数も同じの場合はドロー...引き分けとなる。
カードを追加するかどうかの判断の持ち時間は15秒。
ダブルダウン、インシュランス、スプリット、サレンダーが使用可能。
最初に配られたカード2枚が、絵札のカードとエースのカードであればブラックジャックが成立。
勝った場合、配当が1.5倍に。
(ダブルダウンとかインシュランスとかは....ミユウがよく使ってたっけ.....難しくてよく覚えてないけど)
『と、ここまでは通常のブラック・ジャックと同じですが、このブラック・フェイト・ジャックには多数のルールが追加されています!!』
するとテーブルがライトアップされ、バニー姿の係員らしき女性が歩み寄る。
女性はトランプを2枚ずつ2組、裏向きでテーブルの上に並べた。
女性が1組目をオープンする。
見えたのはエースとキング。
『皆様ご存知の通り、通常のブラック・ジャックでは最初に配られた2枚のカードが、エースと10....もしくは絵札のカードの場合の役、『ブラックジャック』が最強のハンド.......ですがッ!!このブラック・フェイト・ジャックではさらにもう一段!!』
アナウンスに合わせ、女性が隣の2組目を捲る。
今度は2枚ともエースだ。
『このエースが2枚揃ったハンド!!!『ダブルエース』が最強の役となりますッ!!!!』
つまり....強い順番は。
21に近い数字→同数なら枚数が少ない方→ブラックジャック→ダブルエース。
....ということかな。
『ブラックジャックは勝てば配当が1.5倍に対し、ダブルエースは....なんと2倍ッ!!!!賭けたチップ次第では大逆転も夢ではないぞッ!!!』
つまり.....もしチップを10枚賭けて戦った場合....ブラックジャックで勝てば15枚。
ダブルエースで勝てば20枚貰える.....結構大きいな.....。
さらにアナウンスは、ブラック・フェイト・ジャックの追加ルールの説明を続けた。
カードは全て裏向きで配る。
配り終えた後、オープンする前に子はチップを賭けること。
その後、子はカードを2枚ともオープンしてもよい。
親は1枚のみオープンする。
オープンする順番は子から時計回りに、最後に親。
ゲーム自体に制限時間はなし。
ただしデッキが4回切れた時、もしくは親のチップが0になった時点でゲームは終了。
『そして....ブラック・フェイト・ジャック1番の大目玉ッ!!!!特殊ルール『フェイトジャック』ッッ!!!!!』
会場がさらに一段、熱を帯びる。
『『フェイトジャック』とは....配られた2枚のカードを、どちらも裏向きのままオープンせずにいれば宣言できる特別ルールだッ!!!』
(2枚とも裏向きのままって.....それじゃ自分の手札がわからない......)
つまり完全な運任せ。
そんな状態で全財産を賭ける?
(そんなことする人、いるわけない.....)
続けてアナウンスは『フェイトジャック』の詳しいルールを説明した。
追加で配られるカードもすべて裏向き。
これを宣言した者...もしくはされた者のどちらかは、保有するチップ外も含めた全財産すべてを賭けなければならない。
全財産を賭けるのは資産合計が少ない方。
そして、それに見合った金額を相手も賭ける。
『フェイトジャック』を子が宣言した場合は親に、親が宣言した場合は対象の1名の子のみに強制的に賭けさせ勝負ができる。
親が宣言した場合、対象外の他の子はゲームから強制的に降ろされ次のゲームから再参加。
宣言した者、された者が行える行動はヒットとスタンドのみ。
子はもちろん、親もオープン前であれば特別にサレンダーが使用可能。
フェイトジャック中、親の16以下強制ヒット・17以上強制ステイのルールは一時無効。
子と親、両者がバーストした場合はフェイトジャック中に限り引き分けとなる。
この宣言は一人一度までだが、デッキが空になればリセットされ、再び使用可能となる。
『以上でルールの説明を終了.....!!!では、親であるゴール様!そして子の挑戦者の皆様!!存分に己の運を出し合い、会場を盛り上げてくれよォォォォォォ!!!!』
アナウンスが途切れる。
女性はテーブルのトランプを片付けると、新たなトランプ一式をゴールさんの前に差し出し、後方へ下がった。
「それじゃあ....改めて、私の名前はゴール・ドンペリ。今回のゲームは私が親を務めさせてもらうよ。よろしく!」
つまり、デッキが4回切れるまでに目標額を稼ぐ。
もしくは、親であるこの人を倒すことが子である私たちの目標....。
「しかし.....君たち少し緊張しすぎじゃないか?岩石みたいに固まってるぞ?そんな強張った顔をしていては運も逃げてしまう。気楽に行こう、そして良いゲームにしようじゃないか!」
晴れやかな笑顔で心底楽しんでいるような声音。
.....こっちはそんな気分じゃないことくらいわかってほしい。
「では早速始めようか」
ゴールさんはカードを私たちに見せるように、テーブルの上で扇状に広げた。
「....?」
「すまない、私は疑い深くてね。万が一にもカードに細工がないかの確認さ。お互い、安心して戦いたいからね」
そう言ってカード一瞥するとまとめ始め、流れるような手つきでシャッフルを始める。
あれが本場の人の技術なのか。
ミユウも好んでやっていた....確かショットガンシャッフルって名称だったっけ。
でも、完成度がまるで違う。
無駄のない指捌き。
ほんの数秒で、デッキを完璧に切り終えた。
「それじゃあ....ゲームスタートだ!」
宣言と同時に、手に持つデッキからカードが配られていく。
それに合わせて歓声が盛り上がる。
ついにゲームは始まった。
ゴールさんはまず挑戦者の男に一枚、次に私、そして女の子....最後に自分に裏向きで一枚ずつカードを配る。
続けて同じ順番で、もう一枚ずつ。
「さぁ、まず第一戦目....チップはいくつ賭けるかな?」
当然と言うべきか、男と女の子は一枚のチップを静かに前に出した。
そして、私も。
まずは様子見。
最初から大勝負なんて誰も仕掛けるはずがない。
「3人とも1枚か。よし、ではカードをオープンしよう!」
ゴールさんの言葉に、私たちは男から順にカードを開く。
男の手札は9と8、計17。
私の手札はナイトとクイーンの計20。
女の子の手札はクイーンと4、計14
そしてゴールさんの見せ札は2。
ブラック・ジャックでは手札が21に近いほど強い。
二枚で計20、かなり良い手札だ。
ゴールさんの見せ札は2なので、『ブラックジャック』と『ダブルエース』ではない事は確定している。
つまり、ゴールさんがここで21を出さなければ私の勝ちだ。
仮に計20を出されたとしても見せ札が2である以上、三枚以上にならなければ届かない。
二枚で20にはならないため引き分けは無い。
「おお!いきなりの絵札ニ枚とは幸先が良いね君!では、そちらの方からどうぞ」
ゴールさんが手で、挑戦者の男に行動を促す。
「ス、スタンド....!」
男がかすれた声で発し、ゴールさんは次に私を見る。
どうやら『スタンド』とは....この手札で勝負する、と言う意味らしい。
「スタンド.....」
当然、私もこれ以上引けば21を超えて『バースト』してしまうのでスタンド。
もしバーストすればその瞬間に負け、賭けたチップを奪われてしまう。
「え....あ、ヒ....ヒット......」
女の子が震える声で宣言すると、観客席から小さな嘲笑が漏れた。
ゴールさんは女の子に一枚、裏向きでカードを渡す。
『ヒット』とは、カードを一枚追加するという宣言。
今の手札では勝てるかどうかわからない...という場合に使うものである。
(女の子の手札は計14.....そりゃヒットするよね....)
ゴールさんから女の子に渡ったカードは6。
これで女の子の手札は計20、私と同じだ。
「ス....スタンド......」
(しかし....こんな小さな子供なのに、もうそんな用語覚えてるんだ.......親が普段何をしていたのか想像できてしまう......)
「では...」
ゴールさんが伏せられていた、もう一枚の自分のカードをオープンする。
現れたのは10のカード、見せ札の2と合わせて計12。
ゴールさんは無言でデッキから一枚引く。
(確か....親はカードの合計数字が16以下なら強制的にヒット.....17以上なら強制でスタンドさせられるんだっけ.....)
引いたカードは....クイーン。
これで計22、バーストだ。
「あちゃ〜バーストだ!」
親がバーストしたため、この勝負は子の勝利....つまり私たちの勝利だ。
ゴールさんはそれぞれに一枚ずつ、自身のチップを渡した。
(冷静に考えれば....これ一枚で100万。とんでもない賭け事してるんだよね....私......)
少し、背筋に冷たい風を感じた。
ゴールさんは配られたカードを全て回収すると、表向きのまま手に持つデッキの下に重ねる。
あの表向きのカードがデッキの1番上まで来たら一周目が終了。
それを4回繰り返すか、親を倒すまでゲームは終わらない。
「では第二戦目だ!」
ゴールさんがカードを配り、全員が一枚ずつチップを賭けカードをオープンする。
私の手札は6と7の計13。
男の手札は7と4、計11。
女の子の手札は10とクイーン、計20
ゴールさんの見せ札は6。
「また20かぁ〜なかなか強い子たちだなぁ」
そうゴールさんは笑みを浮かべながら喋り、先程と同じように男から行動を開始する。
「ダブルダウン.....!」
男はそう言うと、賭けていた一枚のチップの上にさらにもう一枚チップを乗せた。
(確か....『ダブルダウン』は賭けたチップを倍にできる.....けどその後、カードは1枚しか引けない....だったっけ)
ゴールさんは男に一枚カードを渡す。
そのカードは6、これで男の手札は計17。
「ヒット.....」
私の番。
6と7の計13では不安が残るため1枚追加する。
引いたのはハートのエースカード、計14。
(....あれ?このエースカード.......)
「スタンドかい?」
「あ、ヒット.....!」
また1枚、私は追加した。
引いたのは4、これで計18。
「スタンド.....」
1枚追加するたびに、破裂してしまうんじゃないか....というほどドキドキと心臓が鳴っている。
もしバーストすれば、たった1枚といえど100万を失う。
賭け事なんてしたことのない私にこの緊張感は重すぎる。
(今すぐ布団に寝っ転がって猫の事だけ考えたい.......)
「ス....スタンド」
女の子は計20の手札が揃っているのでスタンドを宣言。
ゴールさんが伏せ札をオープンする。
「ナイト、じゃあもう1枚だ!」
見えたのはナイトのカード、計16のためゴールさんはもう1枚追加する。
「.....うわっ、出だしはツキが回ってこないな〜」
出たのは9のカード。
これで計25のため、またしてもゴールさんはバースト。
子の勝利だ。
「よし....!」
男が小さくガッツポーズをした。
私と女の子は一枚ずつチップを受け取り、ダブルダウンで二枚賭けていた男は二枚....200万の勝ち。
私は心の中で、そっと男に拍手を送った。
第三戦目。
私はチップを変わらず一枚、女の子はニ枚。
そして男は四枚を賭ける。
「4枚か....!これは負けられないなぁー!」
ゴールさんはそう緊張感を顔に見せ、全員が配られたカードをオープンする。
私はダイヤのエースと8、計9か19。
(エースカードは1か11として扱う事ができる....19以上を狙ってカードを追加するのはアリだけど.......危険は犯さずここはスタンドすべきかな.....)
女の子の手札は5と3、計8。
ゴールの見せ札は8。
そして.....。
「....!」
「あらら、マジか〜あんたなかなかの運持ってるね」
男の前に並んだのは、クローバーのエースとナイト。
まさかのブラックジャックだ。
四枚賭けの勝負で1.5倍のブラックジャックに、観客席より「「おぉ.....」」という声が微かに上がった。
「や、やった!!」
男は椅子を蹴りかねない勢いで立ち上がる。
「やれやれ、運喰いの名が泣いちまうよ....ほら、4枚が1.5倍で6枚だ!」
ゴールさんは自身のチップから六枚を男に渡した。
見せ札が8である以上、引き分けのブラックジャックも、唯一勝てるダブルエースの可能性も無いため先に支払ったようだ。
男はチップ六枚を抱え込むように回収した。
その後、私はスタンド。
女の子は一度ヒットをしてナイトを引き、計18の手札。
ゴールさんの伏せ札は4、計12であるためカードを引き2のカード。
まだ16以下のためもう一度引き3のカードで計17、強制スタンド。
19と18の私たちの勝利だ。
女の子にニ枚、私に一枚の配当が渡される。
その後のゲームも私たち子は順当に勝ち続け、五戦目で一周目が終了した。
結果は、男がチップ数50から64 の+14の勝利。
女の子が20から28の+8の勝利。
ゴールさんが400から373の−27の負け。
そして私は150から155 で+5の勝利。
(+500万.....冤罪だけど2億返さないときっと私は解放されない。だから残り4500万....つまり45枚を親から奪えば実質ゲームクリア。先は長いけど運は完全にこっちに流れてる....イケる.....!!)
ゴールさんは再びデッキをテーブルに広げ、私たちに見せる。
そしてカードを集めてシャッフル。
カードを配り始めた。
2週目のスタートだ。




