1.ようこそギャンブルの国へ!
目の前に広がるのは、派手な黄金の装飾で飾られた円形の会場。
照明は最小限。
薄暗く会場を照らす。
そして鳴り止まぬ歓声が渦を巻く。
溢れかえる酒の匂い、熱気。
誰もが宝石の指輪、金細工のネックレスなどで身を飾り、酒杯を掲げながら観客席より今か今かと試合が始まるのを待っている。
誰もが笑っていた。
誰かの破滅を心から楽しみにして。
対照的に私の隣の二人は震えていた。
1人は30代くらいだろうか。
汚れてはいるが明らかに仕立ての良い白い服を着ている。
彼は鞄を抱きしめ声も出さずに涙を流していた。
これから何が起きるのか、きっとこの男は知ってるのだろう。
だが一切逃げようとする気配はない。
自分の運命を受け入れている....いや、受け入れざる終えないかのような表情だ。
そしてもう1人....幼い少女だ、10歳いくかどうかくらいの。
髪色は薄いピンク色、左右で結んだおさげが少し乱れていている。
服は薄汚れところどころが擦り切れており、お世辞にも良い生活を送っているとは思えない見た目だ。
大きな瞳を震わせ周囲を見回している。
きっと状況がよくわかっていないのだろう。
私も同じだ。
一体なぜ、私はこんなところにいるのだろうか.....。
「早く始めろォォォォ!!!」
「ギャンブルをさせろっ!!!」
「破滅しろーー!!!」
「最高のショーを見せてくれよ〜!!!」
罵声と歓声が天井に反響し飛ぶ。
まるで見せ物だ。
これから始まる、人生を賭けた勝負の。
◆
私の名前は成田 金夏、18歳。
青龍高校に通う、少し家が貧乏ではあるがごく普通の女子高生。
好きな事は美味しい物をたくさん食べること。
嫌いなことは陽キャ特有のノリ。
私自身あまり明るいキャラではなく、教室では常に本を読んで1人の世界に浸っているような静かな人間。
そのため彼らのノリは私には少しキツく正直苦手です。
ただ、そんな私には一つだけ普通の人とは違う点がある。
それは幼少期『力』に目覚めたこと。
『食堂』と名付けた私の『力』。
能力は、どんな料理でも食卓に瞬時に出すことができる。
食費が浮くのでとても便利な『力』。
けど当然、この『力』のことは両親以外には秘密にしているので、私の友達も....親友だって知らない。
もし私が『力』に目覚めた者...通称“覚醒者”であると国に知られればどうなるか、日々流れている覚醒者による犯罪のニュースを見ればわかる。
......そんな私だけど。
まず誰でもいいから聞きたいことがあります。
ここは何処?
見渡す限りの黄金都市。
ほぼ全ての建物が金ピカに輝き、目に厳しい眩しい光を浴びせてくる。
すれ違う人々は皆、思わず見惚れてしまうほど綺麗な宝石類のアクセサリーをこれ見よがしに身に着けていた。
銀座や港区辺りの最高級三つ星レストランで食事をする社長クラスの富裕層しか見当たらない。
学生服を着て学生鞄を持つ貧乏な空気が漂う私の場違い感が半端ない。
どうして私がこんな場所にいるのか。
結論から言うと私にもよくわからない。
私は下校中、信号を渡っていた。
眩しいヘッドライト。
クラクション。
死ぬ......と、思った瞬間。
次に目を開けた時、私は何もない真っ白な空間に寝転がっていた。
数時間くらいその空間を彷徨っていると、女神を名乗る....どちらかと言えば見た目が天使っぽい女性が現れ。
「貴方は異世界への転生の権利を得ました!」
と言ってきて、怖いので断りたかったけど上手く喋れず、流されるままに承諾してしまい.......そして気付けばここに。
やっぱ勇気出してちゃんと断っておくんだった。
本当ここ何処.....?
多分...と言うか絶対日本じゃない。
いや、そもそも地球ですらない。
街に見える看板にはどこの国の言語でもない、全く見たことのない文字が書かれている。
さらに、空を見れば月と共に大きい星がもう一つ浮かんでいる。
星明かりとでも言うのか、月と共に夜空を美しく照らしている。
信じられないけど、どうやら私は本当に元いた世界とは別の世界に来てしまったらしい。
あの女神様、マジもんの女神様だったんだ....。
(....で、どうやって家に帰ればいいのこれ.....?)
私は目立たないよう道の端をちょびちょびと歩きつつ、悩んでいた。
いきなり別の世界に投げ捨てられ、周囲に女神様の姿はない。
別世界に私1人を飛ばしておきながら一切のサポートなしって.....あの女神様は本当に私に何をさせたいのか......。
そういえば、断ろうと必死に頭で考えてる時に魔王がなんだと言っていた気がする。
あまり聞いてなくて覚えてないけど。
「きゃっ!」
そう頭を悩ませていると正面から誰かとぶつかり、尻もちをついてしまう。
考えるのに集中しすぎて前方への注意がおろそかになってしまっていた。
「あ....す、すみません.......」
私は相手に聞こえるかわからないほど小さい声で謝罪しながら立ち上がる。
そして、相手の顔を見ないよう地面を見つめながらすぐに立ち去ろうと歩き出す。
「....ちょっと待ってお姉さん」
心臓が跳ねる。
(あ....やばい.....怒らせちゃった......?どうしよどうしよ....!)
「ごめんね、少し考え事してて気付かなかった。怪我はないかい?」
男は優しく私に声を掛けてきた。
「あ...いえ......私の方こそよそ見してました.....すみません.....」
私は頭を下げつつ、そそくさとその場を去ろうと動く。
「あ、ちょっと待って」
男は再度、声で私を呼び止める。
「ぶつかったお詫びに、君のこと占わせてくれないかい?僕、実は占い師でさ」
そう言うと同時に男は、手にパッと数十枚のカードを広げて出した。
(手品....?初めて生で見た.....)
「い...いえ、大丈夫ですので....」
「いいからいいから!さ、この中から好きなカードを引いてみて?」
「は....はぁ....?」
面倒くさそうな人とぶつかってしまった。
そう内心で思いながら恐る恐るカードを1枚、私は引いた。
「....joker?」
引いたのはごく普通のカード、トランプのjokerのカードだった。
「へぇ....そうだったんだ」
「え?」
妙な言葉に私は思わず、チラッと男の顔を見た。
男は少し長めの紫の髪に黒い瞳。
よく見れば服装は、日本でよく見る一般人が着るような黒いコート。
すれ違う外国人風の人達とは違う。
間違いなく日本人の面影を持っている。
そして、男は私を見つめながら薄く笑みを浮かべている。
少し不気味だ。
「君も、“転生者”だったんだね」
「....へ?」
男の口から出たその言葉は、私に衝撃を与えた。
それを知っているということはこの男も私と同じ、女神様によってこの世界に送られた現代の人。
「あの....君もってことは、貴方も....?」
「この運命的な出会いに感謝して、このカードを君にあげておこう。エース。この世界ではまだ最強のトランプカードだ。きっと君の役に立つ」
男は私に1枚、ハートのエース?と書かれてるらしいトランプカードを渡すと、何処かへと走っていった。
「え、あの!ちょっと待って...「待ちやがれッッ!!!!」
すぐに追いかけようと足を動かそうとした瞬間、背後から怒号が響く。
私は思わずビクっ!と体を揺らした。
「え?」
続けて誰かが走ってくる音が聞こえ振り返ろうとしたその時、男に肩を掴まれた。
私は心臓を鳴らしながら、私の肩を掴む人物を見る。
黒のスーツ姿にサングラスをかけた、見るからにボディーガードか警備員らしき巨漢の男。
男の目は見えないが、明らかに怒っている様子。
「お前!!さっきの奴の知り合いかッ!!?」
「えっ、あ、いえ私は...「ちょっとこっち来いッッ!!!」
問答無用。
私は引き摺られるように男に連行される。
その後、豪華なカジノらしき店の奥に入り、着いたのは事務所のような場所だった。
黒いソファが二つ、金の縁取りが施された机を挟むように向かい合って置かれている。
そして、ソファに座らされた私は、巨漢の男達に囲まれていた。
全員が無言で鬼の形相。
私を睨みつけており、生きた心地がしない。
(ミジンコになりたい.....)
「ご苦労、そいつか」
私が縮こまっていると事務所の扉が開く。
入ってきたのは、葉巻を咥えた男だ。
年齢は40歳くらいだろうか。
白と黒のツートンカラースーツを着ており、靴は鏡のようにピカピカに磨き上げられている。
見るからにギャングというかマフィアというか、関わっちゃいけない世界の方だ。
(帰りたい.....)
「よぉ嬢ちゃん。なんでここにいんのかわからねぇって面だな?」
まさにその通り。
なんで私が今こんな目に遭ってるのだろうか。
「は.....はい....」
声が恐怖で震える。
男は葉巻を灰皿に押し付け、ゆっくり向かい側のソファに腰を下ろした。
「お前さんの知り合い....彼氏か知らねぇが、あの男がよぉ.....ウチのシマで技ぁ働きやがったんだよ....おい」
「被害額はおよそ2億です」
「.......男は逃げちまったからなぁ....代わりに嬢ちゃんに“オトシマエ”....つけてもらおうか.....」
何言ってるのか全くわからない。
サマって何?
そもそも私、あの男の人とは無関係なんですけど.....。
「あ、あの.....私....あの人の事...本当知らな....「しらばっくれてんじゃねぇぞッッッッ!!!!!!!」
事務所に男の怒号が響き渡り、心臓が止まりかける。
怖い、それだけで私は何も言えなくなった。
「見たところ嬢ちゃん....あの男と同じ、外から来た人間だな。薄汚ぇなりだ、インガ王国あたりか。当然2億なんて金持ってるわけねぇよなぁ.....?」
(インガ王国.....?当然だけど聞いたことない国名.....)
その聞き覚えのない国の名に、改めてここが異世界であることを再認識する。
「けど体は.....まだガキだがまぁいいだろう」
その言葉に背筋が凍る。
(まさか....風俗で2億稼げって言われるんじゃ......)
「嬢ちゃん.....運は持ってるか?」
「........え?」
◆
そして気が付けば私はこの会場にいた。
なんでも、カジノ名物の“人生を賭けたギャンブル”をやるらしく、上手くいけば2億を簡単に稼げるらしい。
この勝負に勝ち、2億を返せば私は解放されるとのことだが.......。
「早くしろーーー!!!」
「見ろよあいつら!震えてんぞ!!ギャハハハハハッ!!!」
「まま〜なんであの人たちあそこに立ってるの?」
「あれはね、私たちとは違いお金にも運にも恵まれなかった哀れな負け犬よ。あれを見てここに座る者の愉悦、特権をしっかり味わうのよ」
「はーい!」
地獄かな?
まるで大昔のコロッセオで行われたとされる見世物。
観客は私たちが勝つ事ではなく、負けて破滅する事を期待している。
『さぁ、大変長らくお待たせ致しました、紳士淑女の皆様!!』
会場内にアナウンスの声が響き、観客たちの歓声がさらに高まり拍手が鳴り響く。
『今宵はようこそ、カジノ『ドリーム』へ!!本日もやってまいりました、敗者達の人生を賭けたギャンブル...『セカンドライフ・オア・デット』!!!』
歓声が爆発する。
うるさくて耳が痛くなってきた。
『それでは本日の挑戦者の紹介といきましょう!』
会場の天井より光が灯り、私の隣に立つ男を照らす。
いわゆるライトアップというもの。
(.....ずっと気になってたいたけど....この世界には電気がすでに普及してるのかな?)
私の勝手な異世界のイメージだけど、電気ではなく魔力で現代とは違う発展をしてると思ってた。
それとも私のイメージする剣と魔法の異世界系ゲームとは根本的に違う世界なのかな?
『まず1人目、この男は元この国の富豪!しかし、ギャンブルに大敗し一夜でその築き上げた地位、富、家族...全てを失い、今や哀れな借金持ちのゴミ!!借金額はおよそ1億3000万キャメルッ!!!』
(キャメル.....この国の通貨の名称かな.....?)
『果たして彼は再び、勝利者となれるだけの運を持ち合わせているのだろうか!?さぁ...お次はこちら、2人目!』
ライトが動き、今度は私を照らした。
『若きお嬢さん!こちらはこともあろうに、このカジノ『ドリーム』にてイカサマ行為を働いた男の女!!その被害額はおよそ2億キャメル!!!この女は彼氏の代わりに、このギャンブルで見事勝ち残り、2億を無事返済できるのか!!?』
だから違うって....と言いたいけど、怖くて何も言えない。
『そして最後はこちら!!』
ライトは再び移動し、私の左隣に立つ子を照らす。
女の子も小刻みに体が震えており、まるで助けを求めて親を探すように視線を彷徨わせた。
『なんと悲しきことか.....こちらの幼き少女、両親がギャンブルで莫大な借金を残し自殺。結果、およそ4000万の借金を引き継ぎ、ここに立つこととなった....!!』
私に人の心配をしている余裕はないのはわかってる。
けど、なんて可哀想な子なのだろう。
無事生き残ってくれるといいんだけど。
『彼女は果たして、クズ共の残した借金を返済し、人生を始めることができるのか!!?』
紹介が終わるとライトは会場中央のテーブルを照らす。
椅子が4つ。
半円状のテーブルに、3つの席が1つの席と向かい合う形で設置されている。
さらに、各席の隣には小さなテーブルが置かれていた。
飲み物置き場だろうか?
『それでは挑戦者の方々!お座りください!!』
アナウンスに従い、私たちは席に着く。
男が右、私が真ん中、女の子が左の席に。
『...さぁ、挑戦者の準備は整いました。それでは入場していただきましょう!!本日、この挑戦者たちを迎え討つのは....この方だぁぁぁッ!!!』
カラフルなライトが会場を照らし、まるでアイドルのステージかのような演出が始まる。
光は私の正面、入場口を強く照らした。
やがて重々しい音とともに扉が開き、中から男が1人ゆっくりと姿を現す。
派手な色付きサングラスに、高価そうな真っ白なスーツ。
短い金髪に、これでもかと宝石を身にまとっている。
いかにも金持ちですよと見せびらかすような格好をしている30代くらいの男。
『アメリア王国でその名を知らぬ者はいない!店側がどれだけの名高きディーラー、ギャンブラーを用意しようと、平然と勝って勝って勝ち続けてしまう男!!この男の運は底なしか!!?』
男は震える私たちとは対照的に、明らかな余裕の笑みを浮かべながらテーブルへと歩いてくる。
まるでそれが日常であるかのように。
毎日通る道を歩くかのように。
『現在、全カジノから出禁を言い渡されている5人のギャンブラーに唯一届くと噂され、遂に世界一のカジノ『ワールド』のオーナーとのギャンブル勝負が先日決定!!!今この国で最も絶好調な男!!!』
歓声がさらに大きくなる。
『本日はその勝負の準備運動....いや、本人曰く、ただの小遣い稼ぎに来たとのこと!!!」
アナウンスに観客たちの笑い声が重なる。
気づけば男はテーブルに到着し、優雅に椅子に腰掛けていた。
『その名は『ゴール・ドンペリ』!!!!その、相手の運を食うかのようなギャンブルから、別名『運喰いのゴール』!!!!』
名前が紹介されると歓声が爆発する。
ゴールはゆっくりとサングラスを外し、テーブルの隅に置いた。
現れたのは水色の瞳。
その目が順番に私たちを見つめる。
「今日はよろしく頼むよ。挑戦者諸君」
柔らかく、愛想のいい声。
だが、恐怖に飲まれている私たちの誰1人その言葉に返事をする者はいない。
『では皆様....こちらのテーブルに、今回の勝負に使う資産をどうぞ!』
小型のライトが、それぞれの席の隣に備え付けられているテーブルを照らした。
ここに勝負に使う金を置けということなのだろうか。
私と女の子が止まっていると、挑戦者の男とゴールが先に動き出す。
男は大事そうに抱えていた鞄から、この国の紙幣と思われる紙の束を五つテーブルに置いた。
ゴールは自身の指にはめていた宝石付きの指輪を10個、さらに同じく宝石の付いたネックレスを外して並べる。
『まずは挑戦者の男!出したのは5000万キャメル!!!調べたところ、どうやらあれが彼の最後の命綱のようだ!!!』
5000万という額。
現代の通貨と同じ価値か分からないけど最初からとんでもない金額だ。
そう私が思っていると。
「....ぷっ!」
「すくねぇな〜!!」
観客席から嘲笑が飛ぶ。
『チップは一つ100万キャメル!よって挑戦者の男には50枚のチップが渡されます!』
男の背後に、いつの間にか黒いスーツに仮面を付けた女性が立っていた。
彼女は無言のまま、50枚のチップが入った箱を男に差し出す。
『では続いてゴール様!』
視線が一斉にゴールさんへ向くと、入場口から60代ほどの男が三人現れた。
彼らはゴールの席へ歩み寄り、置かれた指輪とイヤリングを白い手袋越しに丁寧に調べ始める。
『出したのは見るからに高価な指輪とネックレス!!果たして額は!!?』
どうやら鑑定士らしい。
会場がしばしそれを見守ると。
『どうやら価値が決まったそうです!!指輪とネックレス....合わせてなんと!!4億キャメルッッッッ!!!!!!』
その結果と同時に、観客の拍手と歓声が爆発する。
『4億ですので、ゴール様のチップは400枚スタートになります!!!』
さっきの5000万で驚いた私だ。
(4億って....勝てるわけない.....)
ここで、ようやく理解した。
この試合はただの公開処刑だ。
最初から挑戦者側に勝算のない相手をぶつけ、必死に醜く抗う姿を見せる。
それを肴に富豪たちが愉悦に浸る。
そのための舞台。
『いきなりの結構な差のあるスタートとなりました....!!では残るお二人もどうぞ!!』
というか、資産どうのこうのって.....私この国のお金1円も持ってないんだけど。
それに、高価な価値ある物も.....。
「あ、あの......手元にお金になりそうなものがない場合はどうすれば.....?」
私は近くに立っていた店の男に尋ねた。
「ん?いま手元になくても家や土地、価値のある物を所有しているなら、それを譲渡する契約書を書けばそれ相応の金額を得られる。それすらないなら....手でも置くんだな」
(手......?)
よくわからないがとりあえず、ダメ元で学生鞄を置いてみる。
『おっと!?挑戦者の女が置いたのは......見たことのない鞄だ!鑑定士達が鑑定に向かいます!!』
鑑定士達は私の鞄をまじまじと見つめた後、中身を取り出していく。
財布や教科書、お菓子。
それらを細かく確認していく鑑定士たちは、驚きの表情を常に見せていた。
『.....これは....どうしたのでしょうか?鑑定士の方々の表情が.....?』
(あ、ポケットの中にスマホと...さっきの男から貰ったカードが入ってたんだった。入れとけばよかったかな....)
鑑定はゴールさんの時よりも遥かに長引いた。
およそ20分。
いつまでも続く沈黙に、観客席からは次第にブーイングが飛び始める。
『......お!!どうやら鑑定が終わったようです!!えー結果は........い、1億5000万キャメル!!?』
アナウンスの動揺した声が響き、観客達からは「「おおぉ〜」」と、どよめきが聞こえた。
だが、1番驚いたのは当然.....。
(1億っ!!!!???え!?な、なんでそんなに!!??)
鞄の中に宝石や1億相当の物など入っていない。
どう考えても間違いとしか思えない。
「えー、代表して私が....」
私が内心で混乱していると、鑑定士の一人が前に出た。
「彼女の鞄...そしてその中身には、どこで手に入れたのか....不明な材質、人の手で作られたとは思えないほど精密な金属物、古代文字か...未確認の文字が細かく記載された書物など。価値の付けどころが非常に難しい物ばかりのため、ひとまず審議の結果....1億5000万キャメルという評価になりました」
(あ、そうか。現代の物だからこの世界じゃ珍しいのか.....)
とはいえ流石に1億は高すぎでは?
と思ったけど私にとっては好都合。
差はまだ圧倒的だけど、それでも少しだけ希望が湧いてきた。
「へ〜、ほんの少しだけ面白くなってきたな」
ゴールさんが興味深そうにぼそりと呟いた。
『で、では1億5000万キャメルですので、挑戦者の女には計150枚のチップが渡されます!』
背後から女性が現れ、150枚入りのチップの箱を私に差し出した。
この150枚が私の生命線。
これが0枚になった時.....私はどうなるのだろう。
『さぁ最後!挑戦者の少女は果たして何を乗せるのか!?』
いよいよあの子の番だ。
彼女は私たちと違い完全に手ぶら、何も持っていない。
一体どうするんだろう....。
私が不安げな視線を向けていると、女の子は戸惑いながら腕をゆっくりと持ち上げ。
『おっと!!!出ました人生ベットッッッ!!!!!』
自分の手を、テーブルの上に置いた。
その瞬間、会場が爆発したように沸き上がる。
『初めての方にもわかるよう説明しておきましょう!人生ベットとは一切の資産を持たぬ者が行う、自分自身を金に変える.....まさに最後の手段!!!これを行えばその人物の人権および所有権を、一時的に資産に変える店側が持つため、この勝負に負け自分を買い戻せなかった場合....下位奴隷化は避けられない!!!』
その説明に背筋が凍った。
10歳ほどにしか見えない幼い子が、自分の人生を賭ける。
それを見世物として煽る店側。
歓声を上げる観客。
(全員狂ってる......頭おかしいよ......)
どんな勝負かはわからない。
けど、普通に考えてあんな子供がギャンブルで勝てるわけがない。
このままだと奴隷になる事は避けられない、なのに.....。
(何で.....誰1人として止めようとする人がいないの........)
この空間の異様さに吐き気が込み上げる。
『さぁ....挑戦者の少女、その価値は.....!!!2000万だぁぁぁ!!!!!』
「「おおおお!!!」」
2000万....それがあの子の価値。
挑戦者の男も私も、まだ人生ベットをしてないのに誰よりも最低のスタートだ。
『それでは挑戦者の少女には20枚のチップをお渡しします!!終了までに20枚以上手元になければ....その時は.....!!!』
自分を買えず、店側が奴隷として売る....本当に気持ち悪い。
『ではこれにて、全員のチップが出揃いましたので......早速始めていきましょう!!!!今回のゲームは....『ブラック・フェイト・ジャック』だァァァァァァ!!!!!!』




