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見える僕と見えない君  作者: ちび太
第1章

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8/25

「立ち止まった場所」

読んでいただけると幸いです

朝の教室は、少しだけ眠そうだった。


チャイム前のざわめき。

窓から入る風。

誰かが椅子を引く音。


「真壁」


颯太が、机の横に立っていた。


「これ。昨日のノート」


「あ……ありがとう」


「うん」


それだけ言って、

颯太は自分の席に戻る。


ほんの一瞬のやりとりなのに、

胸の奥が軽くなった気がした。


***


放課後。


校門を出て、

いつもの分かれ道に立つ。


神社の方向。

家への道。


少し迷ってから、

恒一は坂道を上った。


夕方の空は、

雲が多い。


境内に入ると、

誰もいない。


……はずなのに。


「来たんだ」


すぐそばで、

声がした。


振り返っても、

姿は見えない。


でも、

“近い”。


「……誰ですか」


「名前なんて、

 どうでもいい」


声は穏やかで、

静かだった。


「君、

 ここに来ると落ち着くだろ」


恒一は、

答えなかった。


「無理しなくていい」


「……」


「ここにいれば、

 誰とも話さなくていい」


足元の石が、

少し冷たい。


「……それ、前にも言われました」


「そう?」


くすっと、

笑う気配。


「同じことを、

 考えるやつは多い」


境内の空気が、

じわりと重くなる。


「君は、

 向こうに戻らなくていい」


恒一は、

視線を上げた。


夕焼けが、

雲に隠れている。


「……戻る、って」


声が、

少しだけ掠れる。


「……どこですか」


沈黙。


それから、

声が低くなった。


「君が、

 ひとりになる場所」


胸の奥が、

ぎゅっと締まる。


でも。


「……それ、

 もう違います」


自分でも驚くくらい、

静かな声だった。


「……ここに来る前より」


少し、

間を置く。


「……ひとりじゃないです」


風が、

境内を抜けた。


空気が、

一瞬だけ揺れる。


「……そうか」


残念そうな、

でもどこか納得した声。


一歩、

何かが近づく。


その瞬間。


「――下がれ」


ヒナトの声がした。


振り向くと、

ヒナトが立っていた。


「……また来たな」


姿のない存在に向けて、

そう言う。


空気が、

すっと軽くなる。


「……行った?」


恒一が聞くと、

ヒナトは短くうなずいた。


「今日はな」


境内に、

静けさが戻る。


「……すみません」


「何が」


「……一人で何とかできると思って」


ヒナトは、

少し考えてから言った。


「……立ち止まっただろ」


「……はい」


「それで十分だ」


それ以上、

何も言わなかった。


夕方の風が、

二人の間を通り抜ける。


恒一は、

自分の足が

ちゃんと地面についているのを感じていた。


何かを

倒したわけでも、

打ち勝ったわけでもない。


ただ、

立ち止まった。


それだけなのに。


それが、

少しだけ誇らしかった。

次回

イエモリ回

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