「声をかける理由」
読んでいただけると幸いです
放課後の廊下は、少し騒がしい。
部活に向かう生徒たちの足音が響く中、
真壁恒一は、いつものように一人で歩いていた。
教室を出るとき、
後ろから声がかかる。
「……真壁」
聞き慣れない、けれど知っている声。
振り返ると、
同じクラスの颯太が立っていた。
「これ」
差し出されたのは、
授業で使ったプリント。
「落としてた」
「あ……ありがとう」
受け取ると、
それ以上、言葉が続かない。
沈黙が、廊下に落ちる。
「……部活?」
颯太が聞く。
「入ってない」
「そっか」
また、沈黙。
颯太は頭をかいて、
視線を少し泳がせた。
「俺も、今日はない」
それだけ言って、
歩き出す。
恒一は、一歩遅れて並んだ。
校門を出ると、
夕方の空が広がっている。
「……帰る方向、一緒だな」
颯太が言う。
「うん」
言葉は短いが、
並んで歩いている。
それだけで、
少し不思議な感じがした。
「……真壁ってさ」
「はい」
「放課後、どこ行ってんの?」
恒一は、少し迷った。
神社のこと。
ヒナトのこと。
妖怪たちのこと。
言えないことばかりだ。
「……寄り道」
「ふーん」
それ以上、聞いてこなかった。
「静かなとこ、好き?」
「……はい」
「俺も」
それだけで、
胸の奥が少し軽くなる。
歩いていると、
分かれ道が見えてくる。
「あ、俺こっち」
颯太が立ち止まる。
「……また明日な」
その一言が、
思ったより自然だった。
「……うん、また」
颯太は手を軽く振って、
走り去っていく。
一人になった帰り道。
恒一は、空を見上げた。
誰かと並んで歩くことが、
こんなに短くて、
それでも確かに残るものなんだと知る。
神社の方角に、
目を向ける。
今日も、あそこに誰かがいる。
でも――
人の世界にも、
少しだけ、居場所ができた気がした。
次回ちょっと不穏回です




