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見える僕と見えない君  作者: ちび太
第2章

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24/25

「危ない方へ」

読んでいただけると幸いです

夕方の神社は、昼とは別の顔をしていた。

影が長くなり、鳥居の朱が暗く沈む。


恒一は境内の掃き掃除をしていた。

祖母に頼まれたわけでもない。

ただ、ここに来ると落ち着くから。


「……」


風もないのに、背中がぞわりとした。


誰かに、見られている。


「気づくの、遅いね」


背後から、低く笑う声。


振り返ると、そこにいた。


人の形をしている。

けれど、影が妙に濃い。


身体よりも、影のほうが存在感を主張している。


「……クロギ」


名前を呼ぶと、そいつは満足そうに口角を上げた。


「正解」


クロギは、楽しそうだった。

ヒナトとは違う。

安心させる気も、守る気もない目。


「今日はいけると思ったんだけどなあ。

 もう少し、フラフラしてくれるかと思って」


「……何を、させたいんですか」


敬語が抜けない。


クロギはそれを聞いて、肩をすくめた。


「別に?

 ちょっと危ない目に遭ってほしいだけ」


「……」


「死なない程度にね」


冗談みたいに言う。


でも、冗談じゃないのが分かる。


「ワスレガミ、いい仕事してたよ。

 君、ずいぶん楽そうだった」


恒一の胸が、きゅっと縮む。


「……もう、いません」


「知ってる」


即答だった。


「だから、今度は“逆”を見せてあげようと思って」


クロギの影が、地面を這うように伸びる。


石段の縁。

足を踏み外せば、確実に怪我をする位置。


「ねえ」


声が、やけに優しい。


「君さ、寂しさが戻っただろ?」


「……はい」


「それ、嫌?」


恒一は、少し考えた。


ワスレガミと別れてから、

胸は痛む。

夜は少し、眠りづらい。


でも――


「……嫌じゃ、ないです」


正直な答えだった。


クロギは、目を細めた。


「へえ」


一瞬、興味が失せたような顔。


「つまんないな」


影が、さらに濃くなる。


その瞬間。


「――下がれ」


低い声が割り込んだ。


恒一の横に、ヒナトが立つ。


普段より、明らかに雰囲気が違う。


角が、わずかに浮かび上がり、

空気がぴり、と張りつめる。


「人間側に戻れって、何度も言っただろ」


「だってさあ」


クロギは笑う。


「この子、嬉しそうなんだよ。

 妖怪に好かれるの」


ヒナトは、何も言わなかった。


ただ、恒一を一瞥する。


「……帰れ」


短い言葉。


「今は、だ」


クロギは、肩をすくめた。


「はいはい。

 今日はここまでにしとく」


影が、すっと薄れる。


消え際に、クロギは言った。


「でもね、恒一」


名前を呼ばれて、胸が跳ねる。


「君が嬉しそうなの、

 僕は好きだよ」


それだけ残して、完全に消えた。



「……大丈夫か」


ヒナトが聞く。


「はい」


少し、震えていたけど。


「……ああいうのに、近づくな」


「……分かってます」


でも、完全には否定できなかった。


妖怪に好かれることが、

確かに嬉しい自分がいる。


ヒナトは、苦しそうに視線を逸らした。


「……お前は、人間側だ」


言い聞かせるように。


それが、自分にも向けた言葉みたいで。



帰り道。


恒一の頭に、クロギの言葉が残る。

それは誘惑だった。


そして同時に、

この世界の“もう一つの入り口”でもあった。


恒一は、まだ知らない。


この選択が、

少しずつ日常を歪ませていくことを。


ちょっと停滞気味な感じがするなー

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