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見える僕と見えない君  作者: ちび太
第2章

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23/25

「忘れられるための距離」

読んでいただけると幸いです

昼休みの校舎裏は、風の音だけが響いていた。

フェンスの向こうで稲が揺れ、その影が地面に流れる。


恒一は、そこに立つ存在に気づいた。


人の形をしている。

けれど、輪郭が曖昧で、目を凝らすほどに実在感が薄れる。


学生服のようで、そうでもない服。

年代が噛み合わない違和感。


「……こんにちは」


声をかけると、少し遅れて顔が向く。


白く濁った目が、恒一を見る。


「……ああ」


それだけだった。


会話は続かない。

なのに、恒一は立ち去らなかった。


静かだった。

胸の奥が、ひどく穏やかだった。



次の日も、その次の日も。

ワスレガミは同じ場所にいた。


……いや、同じ“ようで違う”。


髪の長さが微妙に変わり、

制服のボタンの数が合っていない。


「昨日も、ここにいましたよね」


「……そうだったかもしれない」


曖昧な返事。


それでも恒一は、不安にならなかった。


教室で一人でも、

昼を一人で食べても、

胸を刺していた感覚が、どこか遠い。


「……変だな」


寂しいはずなのに、

寂しいと思えない。


その感覚が、少し怖くて、

少し――楽だった。


「それ、楽だろ」


背後から、ヒナトの声がした。


振り返ると、いつもの距離感で立っている。


「……はい」


否定できなかった。


ヒナトはワスレガミを見て、短く言う。


「長居するな」


それだけで、理由は言わない。



三日目。


恒一は、はっきり気づいた。


――自分が楽になっている理由を。


「……あなたが、やってるんですか」


問いかけると、ワスレガミは少しだけ視線を落とした。


「……薄くしている」


静かな声。


「君の中の、寂しさを」


胸が、きゅっと締まる。


「どうして……」


「寂しさが強すぎると、人は壊れる」


淡々とした口調。


「でも、薄くしすぎると……動かなくなる」


恒一は、その言葉よりも――

ワスレガミの表情が気になった。


感情が乏しいはずなのに、

どこか、ひどく寂しそうに見えた。


「……あなたは」


言葉を選びながら、続ける。


「一人で、平気なんですか」


ワスレガミは、少しだけ間を置いた。


「慣れている」


それが、答えだった。


恒一は、迷った。


自分のために離れるなら、まだ分かる。

でも――


「……僕が離れたら」


喉が詰まる。


「あなた、もっと……」


“一人になる”

その言葉が、言えなかった。


ワスレガミは、静かに首を振った。


「それでいい」


「君がここにいるほど、

君の世界が薄くなる」


恒一の胸に、痛みが戻ってきた。


でもそれは、

逃げたい痛みじゃなかった。


「……分かりました」


声が、少し震える。


「戻ります」


ワスレガミは、頷いた。


「ありがとう」


その言葉が、どちらに向けられたものか、

恒一には分からなかった。



風が吹く。


ワスレガミの輪郭が、景色に溶けていく。


「……さよなら」


返事はない。


でも最後に、

ほんの一瞬だけ――

微笑んだように見えた。



放課後。


昇降口で靴を履き替えていると、声がした。


「恒一」


颯太だった。


「一緒に帰ろうぜ」


「……うん」


歩き出すと、胸の奥が、少しだけ痛む。


でも、その痛みは、

誰かと歩くための感覚だった。


校門の外で、ヒナトが並ぶ。


「選んだな」


低い声。


「……はい」


夕暮れの道に、二つの影が伸びる。


寂しさは戻ってきていた。


でもそれは、

誰かを大切に思える証だった。


恒一は、前を向いて歩いた。


1話完結にしてるけど読みにくくないかな?

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