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見える僕と見えない君  作者: ちび太
第2章

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22/25

「影を踏む子」

読んでいただけると幸いです

午後の校庭は、光だけが取り残されたみたいに明るかった。

人の声はあるのに、どこか遠い。


恒一は校舎へ戻る途中、足を止めた。


自分の影が――少し遅れて動いた。


気のせいだと分かっている。

分かっているのに、見なかったことができない。


一歩、踏み出す。

影も動く。

半拍遅れて。


「……」


恒一は、わざと影を踏んだ。


その瞬間、影がふっと逃げるように揺れた。


避けた。


生き物みたいに。


「やっぱり、見えてるな」


フェンスの向こうから、ヒナトの声がした。


振り返ると、いつもの場所に立っている。

誰にも見られないまま、ここに“いる”存在。


「影に寄る妖怪だ」


ヒナトは淡々と言う。


「害は少ない。今のところは」


「……今は、ですか」


「情が移ると、変わる」


その言葉だけが、妙に重かった。



昼休み。

恒一は一人で中庭に立っていた。


足元の影が、いつもより濃い。


しゃがみ込むと、影は逃げなかった。

むしろ、少し近づいてくる。


小さな子どもが、人の影に隠れるみたいに。


「……ひとりなの?」


声に出すと、影がわずかに揺れた。


返事はない。

でも、拒まれていないのは分かる。


恒一は、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。


「ここにいていいよ」


その言葉が、するりと口をついて出た。


影は、嬉しそうに足元に重なった。


遠くで、ヒナトがそれを見ていた。


「やめておけ」


静かな声。


「そいつは、居場所を覚える」


恒一は立ち上がり、影を見下ろす。


「……それって、悪いことですか」


ヒナトは答えなかった。


答えられなかった。



放課後。

昇降口で靴を履き替えていると、颯太が声をかけてきた。


「恒一、帰ろうぜ」


「うん」


歩き出すと、影が少し遅れてついてくる。


颯太は気づかない。


「今日さ」


颯太は前を向いたまま言った。


「なんか、雰囲気違った」


「え……」


「悪い意味じゃない」


少し照れたように、続ける。


「ちゃんと、ここにいる感じ」


恒一は言葉に詰まった。


――ここにいる。


それは、自分がずっと欲しかった感覚だった。


校門を出ると、夕日が道を赤く染めていた。

影は長く伸び、重なり合う。


ふと、足元の影が小さく揺れる。


「……一緒に、帰る?」


答えはない。


でも影は、離れなかった。


少し後ろで、ヒナトが立ち止まる。


「覚えておけ」


低く、抑えた声。


「優しさは、縛りにもなる」


恒一は振り返らなかった。


影がいることが、

今は――ただ、救いだったから。


夕暮れの道に、三つの影が並ぶ。


そのさらに外側で、

誰かが“数を数える”気配がした。


クロギはまだ姿を見せない。


ただ、影が増えたことを――

面白そうに、眺めていた。


影は、少しずつ重くなっていった。


最初は足元に寄り添うだけだったそれが、

次の日には、恒一の動きにぴたりと重なるようになった。


昼休みの廊下。

窓から差す光の中で、影だけが濃く沈んでいる。


「……今日も、いるんだね」


影は返事をしない。

けれど、恒一が立ち止まると、同じように止まった。


誰かに必要とされている。

その感覚が、胸の奥を静かに満たしていく。


ヒナトは距離を取っていた。


「そろそろだ」


短く、それだけ言う。


「何がですか」


「限界」


恒一は影を見下ろした。


「この子、何もしないですよ」


「今はな」


ヒナトの声は低い。


「でも、居場所を覚えた妖怪は、人の“外”を嫌う」


その言葉の意味を、恒一はその日の午後に思い知る。



階段の踊り場。

人の流れが途切れた一瞬。


恒一の影が、急に足を引いた。


「……?」


体が傾く。

視界が揺れる。


その瞬間、影が伸びた。


伸びて、絡みついて――

恒一の足を、強く止めた。


「っ……!」


転倒は免れた。

だが、足首に鋭い痛みが走る。


遠くで、誰かが「大丈夫か」と声を上げた。


影は、離れなかった。


むしろ、抱きしめるみたいに、濃く重なってくる。


「……あ」


分かってしまった。


このままだと、

この影は恒一を“外に出さない”。


「離れて……」


影は揺れた。


悲しそうに。


ヒナトが、もう一歩前に出た。


「ここまでだ」


その声に、空気が変わる。


ヒナトの影が、異様に大きく膨らんだ。


一瞬だけ、

人の形から逸れた“何か”が滲む。


角の気配。

圧倒的な存在感。


鬼。


影の妖怪が、びくりと震えた。


逃げようとして、逃げられない。


「やめて……!」


恒一の声が、震える。


「この子、悪気は……!」


「分かってる」


ヒナトは目を伏せる。


「だから、今切る」


鬼の気配が、影を包んだ。


壊すほど強くない。

ただ、縁をほどく力。


影が、するりと剥がれる。


恒一の足元から、少しずつ遠ざかっていく。


影は、最後に一度だけ振り返った。


言葉はない。


けれど、

「一緒にいられて、嬉しかった」と

はっきり伝わってきた。


「……ありがとう」


恒一は、小さくそう言った。


影は、光の中に溶けて消えた。



放課後。


保健室で簡単な手当てを受けたあと、

恒一は校門の外で立ち止まっていた。


足元には、もう影しかない。


「……寂しいです」


ぽつりと漏らす。


ヒナトは隣に立った。


「それでいい」


「え?」


「寂しいまま、歩け」


珍しく、優しい声だった。


「それが、人間側だ」


恒一は、夕焼けの道を見る。


少し痛む足。

でも、前に出せる。


「……また、会えますか」


ヒナトは答えなかった。


答えの代わりに、

そっと視線を逸らした。


夕暮れに、二つの影が伸びる。


一つは人間。

一つは、人のふりをした妖怪。


失ったものは、確かにあった。


でも――

恒一の足は、止まっていなかった。

ん〜設定がだんだんブレてるような気が…

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