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見える僕と見えない君  作者: ちび太
第2章

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21/25

「鳴らない鈴」

読んでいただけると幸いです

昼下がりの校舎は、妙に音が少なかった。

チャイムが鳴り、教室から生徒が流れ出ていくはずの時間なのに、廊下は静まり返っている。


恒一は、机の上の筆箱を閉じながら違和感を覚えた。


――音が、抜けてる。


足音も、話し声も、遠くで反響するはずのざわめきも、どこか薄い。


「恒一、行くぞ」


颯太が声をかける。


「……あ、うん」


返事はしたが、耳の奥がざらついていた。


教室を出た瞬間、恒一はそれを見つけた。


廊下の窓際。

逆光の中で、何かが揺れている。


小さな鈴だった。

赤い紐に通された、古びた鈴。


風が吹いているはずなのに、音がしない。


「……見えてるな」


隣に、いつの間にかヒナトが立っていた。


「安全そうですけど」


恒一は正直に言った。


鈴からは、悪意も圧も感じない。

ただ、そこに在るだけ。


「だから厄介なんだ」


ヒナトは視線を鈴に向けたまま言う。


「音を食う妖怪だ。人の気配に惹かれる」


「害は?」


「今のところはな」


颯太が振り返る。


「どうした?」


「いえ、なんでも」


恒一がそう答えると、颯太は気にせず先に歩き出した。


その背中を、鈴が追うように揺れた。


――嫌な予感がした。



放課後。

昇降口で靴を履き替えていると、急に周囲の音が消えた。


話し声が、途切れる。

下駄箱を閉める音も、遠くなる。


「……颯太」


呼んでも、返事がない。


振り向くと、颯太はその場に立ったまま、固まっていた。

眠っているようにも見える。


「近づくな」


ヒナトの声が低くなる。


鈴が、天井近くで揺れていた。

さっきより大きい。


音を失った空間で、鈴だけが“存在感”を主張している。


「吸いすぎだ」


ヒナトが一歩前に出る。


「お前は、ここまでだ」


鈴が、きしりと歪んだ。


その瞬間、空気が変わる。


ヒナトの影が、床に異様な形で伸びた。

人のものではない角の輪郭。


恒一は、息を呑む。


――これが。


ヒナトは、力を“振るう”というより、解放しただけだった。


圧が走る。


鈴は、悲鳴のような震えを残して、紐ごと床に落ちた。


次の瞬間、音が戻る。


ざわめき。

足音。

現実。


「……あれ?」


颯太が目を瞬いた。


「今、なんか静かじゃなかった?」


「気のせいだよ」


恒一は、少し早口で言った。



校門を出たあと、二人で並んで歩く。


「最近さ」


颯太が言う。


「恒一、変なとこで止まるよな」


「……そう?」


「うん。でもさ」


少し笑って続ける。


「呼んだら戻ってくるから、いいけど」


その言葉に、胸が温かくなる。


恒一は、素直に思った。


――妖怪に見つけられるのは、嬉しい。

――でも、こうして呼ばれるのも、嬉しい。


背後で、ヒナトが小さく息を吐いた。


「……だから困る」


誰にも聞こえない声で。


落ちた鈴は、もう二度と鳴らなかった。


ここからがやっと本編って感じです

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