「クロギは夜に立つ」
読んでいただけると幸いです
夜の田んぼは、
昼とはまるで別の場所だった。
水面は黒く、
空を映さない。
風が吹くたび、
稲が擦れ合い、
低い音を立てる。
その中に、
クロギは立っていた。
姿は人に近い。
だが、輪郭ははっきりしない。
闇が、
無理やり形を取ったような存在。
「……来ないな」
誰に言うでもなく、
呟く。
返事はない。
クロギは、
神社の方を見る。
あの場所。
光が集まり、
守られている場所。
「……また、
邪魔が入った」
悔しさは、
なかった。
怒りも、
ない。
ただ、
当然の結果だと理解している。
クロギは、
元々ここにいたわけじゃない。
人の暮らしが、
この土地を覆う前。
境界が、
もっと曖昧だった頃。
「……変わったな」
夜道を歩く人間の姿が、
遠くに見える。
スマートフォンの光。
笑い声。
クロギは、
それを見つめる。
近づきたいわけじゃない。
ただ――
触れたくなる。
「……見えるやつが、
減った」
かつては、
人も妖怪も、
同じ夜を歩いていた。
今は違う。
見えないものは、
存在しないことにされる。
クロギは、
一歩、前に出る。
境界線。
踏み越えれば、
人の世界に触れられる。
「……少し、
借りるだけだ」
命を奪うつもりはない。
ただ、
寄り添うだけ。
それが、
なぜ拒まれるのか。
「……守る、か」
神社の屋根。
イエモリの気配。
ヒナトの影。
そして――
恒一。
「……あの子は、
見ている」
羨ましさが、
胸をかすめる。
だが、
それもすぐに消える。
クロギは、
人に近づきすぎる妖怪ではない。
「……次は、
違う場所だな」
田んぼの水面に、
自分の影が映る。
歪んで、
揺れている。
クロギは、
それを踏み消すように歩き出す。
夜に溶ける。
誰にも見られず。
誰にも、
理解されず。
それでも。
「……まだ、
終わらない」
そう呟いて。
風が止み、
田んぼは再び静かになる。
ちょいちょい出て来てた影の妖怪がクロギです
これからどう関わってくるんですかね?




