「知らせる声」
読んでいただけると幸いです
翌日の放課後。
空は晴れているのに、
風だけが冷たかった。
恒一は、
神社の前を通り――
自然に足を止める。
境内に入った瞬間、
違和感を覚えた。
(……静かだ)
屋根の上。
イエモリがいた。
いつもなら、
じっと張りついているだけなのに、
今日は落ち着きなく動いている。
瓦の端まで行っては戻り、
尻尾が小刻みに揺れていた。
「……イエモリ?」
呼ぶと、
イエモリがこちらを見た。
黒い目が、
一瞬だけ細くなる。
「……くる」
小さな声。
それだけだった。
次の瞬間。
境内の奥、
木々の影が濃くなる。
空気が、
重く沈んだ。
「……何かいる?」
イエモリは、
返事をしない。
ただ、
瓦を強く叩いた。
ぱん、と乾いた音。
来るな、
と言われている気がした。
「下がれ」
ヒナトの声が、
背後から落ちる。
いつの間にか、
恒一の前に立っていた。
木の間から、
黒い影がにじみ出る。
人の形に近いが、
境界が曖昧だ。
――見えるのか。
歪んだ声が、
境内に響く。
ヒナトが、
一歩前に出る。
「帰れ」
短く、
それだけ。
影が揺れた。
その瞬間、
イエモリが尻尾を打つ。
ぱん。
もう一度。
影は、
霧が散るように薄れ、
やがて消えた。
***
静けさが戻る。
恒一は、
屋根を見上げる。
「……教えてくれたんだよね」
イエモリは、
答えない。
ただ、
瓦に体を押しつけ、
いつもの姿勢に戻った。
ヒナトが言う。
「無駄に喋るやつじゃない」
「……でも」
「それでいい」
それ以上、
言葉はなかった。
***
帰り道。
夕焼けが、
神社を赤く染めている。
振り返ると、
屋根の上のイエモリが
こちらを見ていた。
声はない。
でも。
尻尾が、
一度だけ、
小さく揺れた。
それで十分だった。
イエモリ喋れたんかい!




