「見えないものは、見ないほうがいい」
読んでいただけると幸いです
夜の神社は、昼とは別の顔をしていた。
参道の入り口にある街灯は、途中で力尽きたみたいに光が弱い。
石段の上は暗く、木々の影が重なって、どこまで続いているのか分からない。
真壁恒一は、スマホをポケットにしまって立ち止まった。
時刻は二十二時を少し過ぎている。
家に帰りたくないわけじゃない。
学校で嫌なことがあったわけでもない。
ただ、誰にも会わずにいられる場所が、ここしかなかった。
石段を上り、拝殿の前に立つ。
賽銭箱は空っぽで、鈴も鳴らさない。
恒一は習慣のように軽く頭を下げた。
そのとき、背後で小さな音がした。
――カサ。
落ち葉を踏んだような音。
振り返ると、そこに誰かが立っていた。
同じくらいの年齢に見える、少年。
古い服を着ていて、夜なのに不思議と輪郭がはっきりしている。
「……誰ですか」
思わず声が出た。
人に話しかけるのは久しぶりで、喉が少し痛む。
少年は驚いたように目を見開き、それからすぐ、困ったように眉を下げた。
「……あー」
しばらく考える素振りをしてから、ため息をつく。
「君、見えちゃってる?」
その言い方が、妙にやさしかった。
「見える……?」
恒一が聞き返すと、少年はゆっくりうなずいた。
「そっか。なら、ちゃんと話しといたほうがいいな」
怒るでも、脅すでもない。
むしろ、面倒ごとを避けたい人の声だった。
「俺はヒナト。この神社の……まあ、守りみたいなもの」
月明かりに照らされた横顔で、
恒一は初めて“おかしなところ”に気づく。
――角だ。
小さく欠けた角が、髪の間からのぞいている。
背筋がひやりとした。
「……人じゃ、ないですよね」
正直に言うと、ヒナトは少しだけ安心したように笑った。
「うん。だからさ」
一歩下がり、距離を取る。
「ここには、もう来ないほうがいい」
言い方は静かで、命令でも忠告でもない。
本当に、心配しているみたいだった。
「俺たちは、普通の人には見えない。
見えたってことは……君、結構疲れてる」
胸の奥を、指で押された気がした。
「ここに通うと、楽になるかもしれない。
でも、その分――人のほうから、離れやすくなる」
ヒナトは視線を逸らし、闇に沈む森を見る。
「それは、君のためにならない」
恒一は何も言えなかった。
反論できるほど、自分のことを分かっていなかった。
「だから今日は帰って。
この先は、知らないほうがいい」
ヒナトはそう言って、少しだけ柔らかく微笑んだ。
「じゃあね」
気づけば、そこにはもう誰もいなかった。
風が吹いて、木々がざわめくだけ。
恒一はしばらく立ち尽くし、
言われた通り、神社を後にした。
――その夜は、それで終わるはずだった。
けれど。
次の日。
放課後、気づけば足が同じ方向を向いていた。
「……一回くらい、いいよな」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いて。
恒一は、また神社の石段を上っていた。
新しい話を考えてみました
ラストはまだ考えてないですけど、良かったら読んでください




