2.棺桶
お題『雑誌』『網』『油性マジック』
お題提供:http://sendai.cool.ne.jp/suminowo/vol2.htm
前回に引き続き、感謝です!
サイコロなどの小さいものを積み上げて巨大な建造物を作るという遊戯がある。代表的なのはトランプタワーだろうか。
たとえ高く積み上げたとしても得られるものはちっぽけな名誉だけ。だが、それにもかかわらず、ついついやってしまうのである。つまりは日常生活において意味のないことほど、趣味としては優良なのである。
しかし、彼女の行っている作業は趣味という段階をすでに超越していた。
彼女がいるのは小さなアパートの一室だが、そこに積み上げられた油性マジックはもはや彼女が部屋に入るのを拒絶するほどに大きく育っている。小さな通路を一つ残して、アパートのその部屋は完全に色とりどりの油性マジックで埋め尽くされているのだ。積み上げられたマジックは規則正しく、自重に耐えうるほどの強度を持っていた。天井にぐいぐいと押し付けられるマジックたちは、たとえ地震が起こったとしても部屋が無事ならば耐えられるだろう。
一部は網のようなもので固定されてはいるが、それ以外の部屋中を埋め尽くしたそれは毒々しく完成されている。あと少し並べれば、この部屋は完全にマジックに取り囲まれてしまうだろう。
彼女はふんふんと鼻歌を歌いながら室内に入ると、ビニールから一冊の雑誌と数十本はあるだろうマジックを取り出した。
「ふんふ、ふんふ、ふんふふん」
彼女は雑誌に掲載されている漫画をじっくりと、穴でも開けるほどの眼力をこめて読んでいく。時折つまらなさげに手を動かしては、無造作に油性マジックを掴んで網の部分にはめていく。寸分の狂いなくびっちりと。
彼女が漫画を読むスピードはお世辞にも速いとは言えなかった。しかし、遅いとも言えなかった。ただじっくりと読んでいるだけ、どちらかというとマジックタワーを作り上げることの方が重要なことであるかのように感じられる。網を少しだけはがして、マジックを押し込み、ねじ込み・重ねた。
雑誌をほとんど読み終わった頃には、彼女の手元から油性マジックは全て消えうせていた。
「……あ。この漫画終わっちゃったんだ……」
結構好きだったんだけどなぁ……、と彼女は口の中だけで呟く。
「まぁでも……」
彼女が部屋の中を見渡す。色とりどりの、見事な箱が出来上がっていた。
「私も終わったし、いっか」
巨大な檻を揺り篭に彼女はとろんと眠りについた。
私にはあんな細かい作業は無理です。残念。
次回のお題は『あんこ』『携帯電話』『パイプベッド』ですね。




