蝶はどこへ飛ぶ?
真っ白な会議室に、黒スーツが五人。
皆重たい頭が床に吸い込まれているような姿勢である。
傍から見るとその情景は、五人全員うんざりしていたり、ひどく疲れているように見える。
三田村のみ、無言で端末のキーボードを叩いている。
「奥多摩町。東京の西のはずれですね。
花の都、帝都東京も西側三分の一は実は山でして、その山の中でも一番西の山奥です」
三田村の言葉を、誰もかれも聞いているのか聞いていないのか、反応を示す人間がいない。
「東京でも有数の、野鳥と野生動物の生息地ですね。
登山客も多く、紅葉を見に海外からも人が集まる場所です」
中でも中条は、ヤニが切れて貧乏ゆすりをはじめている。
機嫌の悪さがあからさまである。
「よかったですね。沖縄、金沢に続いて観光地が続いて」
「よかあねえよ」
不機嫌の渦中にいる中条が、不機嫌な声を出した。
「その金沢から、たった今帰ってきたばっかだっつうの」
「連続勤務ご苦労様ですが、我々の任務の重要性を考えればご足労をおかけするのも仕方のないことではないでしょうか?」
「そうなんだろうけどよ。
……いや、やっぱりわからねえ。今すぐにやらなきゃならない事なのか!? これが」
中条が手元の資料を机に叩きつける。
「これの何が重要な任務なんだ!?」
最初こそ、新入りの藤田に対してこの任務の重要さを説いていた中条も、三度同じようなことが続くと流石に疲弊していた。
責任感と、地味に労力を使う仕事の割に、見返りも達成感もない。
中条が叩きつけた資料には、外国人の写真が貼ってあった。
次の『対象』である。
アルフレッド・マーカス。横田基地付きの軍関係者だ。
年齢も若く、比較的最近日本にやってきた。
モンタナ州出身で、家族も軍人の一家だ。
学生時代はアメフトの選手で、家族愛の強い真面目で文武両道を重んじる青年ということである。
そんな彼に、日本の、『奥多摩』という場所を……
「『刷り込む』のがなんでそんなに重要なんだ!?」
中条の苛立ちは高まり、資料の紙を小さく折っている。
「私に聞かれても。とにかく、彼に、東京の西部、奥多摩に興味を持たせること。
これが我々に与えられた次の課題です」
「……そいつは、山に興味があるのか?」
「ありませんね。モンタナというと田舎の州ですし、そこで生まれ育った子が……
東京のモンタナ州みたいな場所に敢えて興味を持つ……なんてことは、ないとは言いませんけど、あまりないのでは……?」
「あっそ。じゃあ、大変じゃねえか」
「はい。我々の工夫が必要です」
中条の貧乏ゆすりが強くなっていく。
「これ、パスしたらどうなる?」
「パス!?」
「仮にだよ! 仮に! パスして他の重要そうな任務を優先させたらどうなるって聞いてるんだ。
流石にわからねえよ。なんでこんなことをしなければならないのか」
「パスはないです。あり得ません。強いていうなら、
パスしたら待っているのは、泥沼の消耗戦です」
「わかったわかった。悪かった! 聞いてみたくなったんだよ!!
……
(大きなため息)じゃあ、このアメリカ人に、奥多摩を植え付ける作戦を立てよう。
……
……一服してからな」




