白い煙の中で
目が覚めた。
轟音と、強い光の中に居る。
息を吸わなければという自分の本能と反して、喉を閉じてしまう。
息苦しい。まるで、窒息しているようだ。
目からは涙が滲む。そして……ゆっくりと目を開いた……。
Aチームの大男、『コング』は、拘束されて、轟音の響く……何かの乗り物の中に居る。
両側から眩しい光。おそらくこれは窓だ。
思わず目を閉じる。音のうるささに目を回してしまいそうになる……ここは……
最悪だ! ここは飛行機の中だ!!
「よう、お目覚めかい大男くん」
操縦席から聞こえる声に、コングは覚えがあった。こいつは確かCチームの……。
「中条だ。今はキャプテン中条と呼んでくれ」
「おろせええ!!!」
「じっとしてろよ。舌噛むぞ。
あと、俺とお前は『同じCチームの仲間』で、……これから、うん十年と一緒にいないといけない付き合いになる。できるだけ仲良くしようや。なあ。コングくん」
コングは、身を捩って暴れるが、拘束具を外すことができない。
轟音と、気持ちの悪い浮遊間。とても耐えられない。
「おっかない男だよ藤田は。お前のことが邪魔なんだと。
だからAチームの他のやつと同じように、更迭されたままにしとけばいいのに……。お前みたいなのを放っておくと、後々に面倒臭いことになると思ったんだと。だからウチで預かることにした。
Cチームにおけるお前さんの任務は、『お上』にプロジェクトタナトスが滞りなく進行しているのを、『定時連絡』してもらうことだ。お前が気を失ってる時に『体を借りて』こっちでやっておくから、安心して寝ててくれ」
「があああああ!!!!」
「どうした。お前の優秀すぎる三半規管じゃ、空の楽しさが伝わらないかね。
……考えてみれば、ヒントはずっと与えられてたんだよな。
『Aチーム』そして……メンバーが『ハンニバル』と『フェイス』と『モンキー』と『コング』
どう考えたって『あのチーム』じゃないか。なあ?
そして『そのチーム』におけるコングって名前のやつは往々にして……飛行機が駄目なんだよな」
「やめろおおおお!!」
「ああ。やめてやるよ。五十年くらい経ったらな。
お前さんにはこれから、半世紀近く空の上にいてもらう。
途中何度か機体を変えながら……離陸と着陸と給油を何度も何度も繰り返す孤独な幽霊船になるんだよ。お前の気が狂うのと、三半規管がバカになるのと……どっちが先かな?
しかしお前が同業者で助かったよ。人間だったら飯とかトイレとか……色々と気を遣ってやらなければならないもんなあ。
その点俺らは黒スーツ。存分に、楽しさを感じられるぞ。ははは。なあ!空って、楽しいなあ!!……ん? 静かになったか」
するとコングがゆっくりと起き上がる。
「この悲鳴と飛行機の音を……五十年聞き続けるわけですか……私たちは」
「お、山田か? 快適な空の旅にようこそ!」
「藤田くんも……とんでもない計画を立てるわ。全く……
楽しそうですね中条さんは。さっきからタバコも吸ってない」
「当たり前だろ。天職だからな!」
「はあ……五十年か……」
「多分、あっという間だよ。だから楽しもうぜ。せっかく羽が生えてるんだからさ」
* * * * *
……目が覚めた。
轟音と、強い光の中に居る。
息を吸わなければという自分の本能と反して、喉を閉じてしまう。
息苦しい。まるで、窒息しているようだ。
目からは涙が滲む。そして……窒息を跳ね返すように大声で泣いた。
優しいあの人に、抱き抱えられている。
その目には、自分と同じような涙が溜まっている。
『ずっと側にいる』
そんな約束をだいぶ前にしたと思うけれど、こんな形で果たすことになるとは思わなかった。
思わず目を閉じる。世界は、とんでもない情報の渦で窒息してしまいそうだ。
……この瞬間も、世界中で、誰かが何かを思いつく。
それは、言葉だったり、物語だったり、音楽だったり。
それらが誰に対する、何のヒントになるのかは分からない。けれど……無意味な物など、何一つとしてない。
幾千、幾万の『誰か』の意思と決断が伴って、その人に降りてきたものだ。
怖がることはない。
これから、二回目の人生が始まる。気の遠くなるような任務も始まる。
でも怖がることはない。一人じゃないから。
ああ、涙が止まらない。
愛する世界で、流れる涙が波の一部になる。
とめられない。
貴方は気がつくだろうか? 気がついてくれるだろうか?
その全ては……
貴方のためだということに。
さあ、始めよう。
林太郎は、ゆっくり目を開けて、美代子を見た。
黒スーツと二酸化炭素 了




