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共同作戦

 プロジェクト・タナトスの進捗状況並びに、Cチームの活動実績。

  


・ 上田美代子に、『昆虫大全』を持たせました。


・ アルフレッド・マーカスに、『奥多摩』を植え付けました。


・ 上田美代子に、『高山植物図鑑』を持たせました。


・ アルフレッド・マーカスに、『核戦争』の不合理を植え付けました。


・ 柳楽国昭に、悲惨な別れを経験させました。


・ アルフレッド・マーカスが『横浜』に興味を持ちました。


・ 上田美代子が『横浜』に興味を持ちました。


・ 国際環境シンポジウムを開催させることに成功しました。


・ 神取篤と上田美代子を恋人同士にしました。



 * * * * *


『現実時間』七月十三日。横浜みなとみらい。十八時半。



『マルゴは、今回も欠席ですか』


 無線から三田村の声が響く。声自体に恨みがこもっていないのが、逆に威圧感を感じる。


「仕方ねえよ。しばらくは使い物にならんだろう」


 中条が応えると、無線の遠くで三田村の舌打ちが聞こえた。

 

「まあ代わりに、今回は人手が足りているんだ。……余ってるくらいだぜ全く」


『それが気に入らんのです』


 三田村の声に不愉快味が増している。

 すると割り込むように……


『なんや、任務中に内輪揉めかいな。Cチームの皆はん』


 無線から聞こえてきたのは、Aチームの『モンキー』の声だ。

 今回の任務は、規模が大掛かりなので、Aチームと連携するようにというのが上からの指示である。


 任務の第一段階は既に始まっており、午前中から鮎川があたっている。


 第二段階の任務内容は、『横浜駅でシューマイ弁当をテイクアウトした神取篤と上田美代子を、時間内に臨海パークの指定のベンチに座らせる事』である。

 これには一時的に中条が、神取をジャックして座らせる事になった。

 

 それが完了したら第三段階は、マルニーの『GOサイン』をキッカケにせっかく買ったジューマイ弁当をひっくり返す事らしい。

 

 相変わらず、それ自体になんの意味があるのか、全くわからない任務だが、中条はもはや、考えることをやめていた。


 それ以外の事は手練れのAチームが面倒を見てくれるらしいのだが、向こうの細かい任務内容はCチームには聞かされていない。


 とにかく、タイミングがシビアで繊細につき、Aチーム、Cチームの連携が重要ということだ。


『こら、たのもしゅうござんすな。ロシアの時みたいな事にならんよう頼みますさかい。コッチは楽さしてもらいます』


「お互い様だぜ。まあ仲良くやろう。

 ……おっと。二人が弁当屋から出てきたぜ。

 ははは。あの帽子がお揃いだと相当マヌケに見えるな。いくつだよアイツら」


『……無線で無駄話ししないように』


「わーるかったよ。じゃあ仕事に取り掛かるぜ。以上マルヒト」






 


 * * * * *



『現実時間』七月十三日。横浜みなとみらい臨海パーク。十九時。


 公園内を、目つきの悪い柳楽国昭が歩いている。

 嫌なことがあると、いつもこの公園の決まったベンチで缶チューハイを飲む事にしている。

 ……だから最近はほぼ毎日、家から少し遠いこの公園に来ている気がする。

 

 国昭が嫌いなこと。それは、ゴミの回収中に色々話しかけられる事である。単純に気が散るからだ。


 普段無口な同僚が今日に限って色々くっちゃべってきたのだ。

 しかもよりにもよって、恋人の愚痴である。


 てめえ、幾つだよ……。国昭は露骨に嫌な顔をしたが、それでも同僚はやめなかった。

 普通は、車の両サイドについて走るのだが、その間同僚は国昭と同じサイドで喋りかけてきた。


 普段の国昭だったら、笑えたかもしれない。いつもの国昭だったら。



「仕事しろよ。なんで俺に話すんだよ」


 と言うと、


「イヤ、国ちゃん最近、彼女にフラれたって聞いたから共感してもらえると思って」


 これがいけなかった。

 ついにカッとなってしまって、同僚に手を出したところ、運転していた上司に自分が注意されたのだ。

 理不尽である。喧嘩両成敗でもない。そしてそんなことでカッとなってしまった自分が恥ずかしかった。


 とにかく、このモヤモヤで澱んだ心を、一度アルコールで洗い流す必要がある。

 海を眺めながら。


 あと数歩で、いつものベンチが見えてくる。

 今日は座れるといい。もはや、臨海パークのベンチが国昭にとっての教会。病院。ピット。

 そのような言葉で形容できる施設になっていた。

 

 もう少し。あと少し……。


 しかし、国昭が見たものは、到底許容できる範疇の現実ではなかった。


 ベンチに、幸せそうなカップルが座っている。


 片方は国昭と同世代で、相手の女はだいぶ若い。

 男の方は、どこかで見覚えがある……? 多分、関内に住んでる奴じゃないだろうか。


 腹が立つのは、二人ともロシア人が被ってるような毛皮の帽子を被っているのだ。


 いい大人のペアルックは、目にくる。


 しかも二人が恥ずかしげもなくそれをやっているのが、尚更許せなかった。おそらく日本人じゃないのだろう。

 二人とも、弁当を食っている。箱の色からしてどうせ崎陽軒のシューマイ弁当だ。

  

 ズタボロな一日の、ズタボロな気分の夜。俺の場所を奪ったのは食事中のバカップル。

 国昭の中で怒りが込み上げた。

 

 ベンチは三人がけだ。

 これが普通のカップルだったら……例えば、クソガキとかだったら、大人の余裕でベンチは譲ってくれてやるのだ。

 しかしこの二人に、自分の憩いの場が汚されるのが我慢ならない国昭は、半ば威圧的に……


 ……神取篤と、上田美代子の隣に座った。


 目の前では、外国人が釣りをしている。全然釣れてないようで、イライラが目に見える。


 アイツに小さい声で野次でも飛ばそうか。そうすれば、少しはこちらのイライラが解消できるかもしれない。



 * * * * *


「……篤さん?」


 美代子が話しかけてきて、中条がジャックしている神取は我に返った。

 正直中条は、久方ぶりに若い女の子と色っぽい会話ができて心が躍っていた。


 予想していなかった事態だ。

 隣に座っているのは柳楽国昭。そういえば家がこの辺りだった……。

 

 別に『神取自体』は、柳楽とは無関係のはずである。

『中の人物』の方は柳楽に対して相当後ろめたい経験があるので、距離を詰められるとついつい萎縮してしまう。


「あ……いや、別に。ははは。少し寒いね」


 すでに冷や汗をかいている神取。

 そこに……『藤田』宛に無線が飛んでくる。


『状況完了。マルヒトはジャックしたままその場で待機せよ』


 そうだ……この後の任務は、「弁当をひっくり返すこと」だ……。

 まさか、柳楽国昭に向かって弁当をこぼせとか、そう言う任務じゃないよな!? 


「聞いてねえよ……」


 神取が、今まで出したことがない声で呟いてしまった。


「何がです?」


 上田が顔を覗き込んでくる。


「あ、いや、違うの、なんでもないのーははは」


 そこにまた、無線が流れ込んでくる。


『……シーマルニーからAチーム。こちらはいつでも次の状況に行けるが。開始してよろしいか、どうぞ』


『……こちらAチームのハンニバルだ。こちらもいつでも状況を開始できる。いつでもどうぞ』


『……シーマルニー了解』


 おいおい、いつでもどうぞって……やめてくれよ。

 神取の心拍数が上がっていく。

 そして、彼にとって望ましくない言葉が聞こえてきた。


『シーマルニーからシーマルヒト。状況を開始せよ。

 弁当を、柳楽国昭に自然にこぼせ。どうぞ』


 はっきりと、言い切った。


 まじかー! と神取は目を大きく閉じた。

 ええいこうなればヤケクソだ。神取は、大きく息を吸い、抱えている食べかけの弁当を……




 * * * * *


 ことが起きるまでに少しだけ、『間』があった。


 わずか数秒の間が、その場にいた人間たちには永遠に感じたことだろう。

 まして、ジャックが解けたばかりの神取には、自分が今、何をしでかしたのか飲み込めないでいた。

 ……だから、謝ることもなかった。


 国昭は、神取を睨み付け……


「てめえ今のわざとだろこの野郎!!」


 取っ組み合いの喧嘩が始まった。

 国昭が立ち上がって神取を椅子から剥がして地面に押さえつけ、馬乗りになっている。

 いまだに状況の読めない神取は、されるがままである。

 上田は、どうしたらいいのかオロオロしている。


「やめて!!」


 上田が精一杯声を上げる。


 そして、国昭が神取の顔面に拳を打ち下ろそうとした瞬間である……。


 国昭の後ろに回り込んだ体格のいい男が、腕を掴んで関節を極めたのである。


 おそらく近くで釣りをしていた外国人だ。

 痛みのあまり国昭が立ち上がると、国昭の後の男が……


「ニゲテ! イッテ!!」


 と指示を出す。

 何から何までわからない神取は、上田と共に公園の外まで走っていった。



 * * * * *


「上田さん本当にごめん……俺は……何をやってたんだ……」


「いいえ。大丈夫ですか?」


「いやあ……助けてくれた彼のおかげだよ。後でお礼を言わないと……あ」


 神取は、自分の頭を触った


「パパーハ……ベンチに置いてきてしまった……」


「後で取りに行けばいいじゃないですか」


「そうだね。……ちょっと、膝を汚してしまった。トイレに行ってくる……待っててくれる?」


「はい」


 上田は、今日一日、神取の情緒がおかしいなあと思いながら過ごしていた。きっと仕事で疲れているのだろう。


 そして、なんとなく先ほど助けてくれた外国人は無事だろうかと視線を泳がせると……


 目の端に、見覚えのある黒スーツが見えた気がした。


「え?」


 相手と、数秒目が合う。


「佐藤さん?」


 すると相手は走り去って行った。


「佐藤さん!!」


 

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