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九月二日、『わ号』作戦、二

プロジェクト・タナトスの進捗状況並びに、Cチームの活動実績。

 

 ※ 実績はまだありません。




* * * * *


 『現実時間』九月二日。沖縄、新国際ホテル。

 

 エレベータの扉は重々しく開く。

 一階、ロビー階に、目立つ二人の黒スーツが降りて、そのまま外に出ようとする。

 フロントの男性と、中条の目が合う。

 男性は、無表情に、そして形式的に軽くお辞儀をして中条をただ見送った。

 

 中条と藤田がロビーの外に出ると、和知が空港に向かうであろうバスの追跡任務を請け負っている山田から無線が入った。

  

『シーマルサンからマルヒト』


「マルサンどうぞ」


『該当車両の特定完了。追跡開始』


「該当車両の特定完了了解。

 …… ……やれやれ。どうなるかと思ったが、どうにか順調だな。

 一息つこう。タバコ、吸うか?」


「え……吸いませんよ。……てか中条さん吸うんですか……?」


「なんで」


「ええと、まず、目立ちませんか?」


「お前なあ……」


 中条はスーツの内ポケットからjokerを取り出した。


「『人間』深呼吸は必要だろ。空気くらい吸わせてくれよ」


「いやいや『人間』って……」


 藤田を気にすることなく、中条はタバコに火をつけて口に咥えた。


「うまー!! ……なあ藤田。人間ってさ、うまい時に『うまー!』って絶対言うよな」


「『人間』……」


「いやあ、なんで沖縄で吸うタバコってこんなに美味いんだろうな。

 空気がうまいところで吸うタバコって、やっぱ違うよな。

 これはあれだ。スキー場の雪山でのむコカコーラに近いものがあるな。俺スキーしないけど。ははは」


「ねえ中条さん。ワザとですか!?」


「何が」


「『人間』らしくしてることっすよ! タバコの味なんて、本当はわかってないんじゃないですか!?」


 藤田に言われると、中条は煙を深く吸い込み、吐いた。

 青空に黒が溶けていく。


「野暮なこと言うんじゃないよ。それと俺は主任だ。中条さんじゃない」


「すいません。ナマ言い過ぎました」


 中条は、火のついたタバコを途中で消して、携帯灰皿に入れた。


「なんだろうが、自由に吸わせてくれないか。タバコくらい。

 これにすがって生きてる人間だっているんだからさあ。

 ……さて、次はマルサンが追跡してるバスが到着してからだ。お前さんの出番だぞ」


「……はい」


 

 * * * * *


『シーマルサンからマルヒト。該当バス、間も無く現着どうぞ』


「マルヒト了解。おら。いくぞマルゴ」


「は、はい」


 十一時、二十五分。ホテル前。

 

 那覇空港行きのバスが停車する。

 バスの運転手が、ホテル客の重い荷物をバスの内部に入れるために外に出た瞬間、

ピンク色のTシャツとハーフパンツ、島サンダル姿に着替えた藤田が声をかけた。


「あーすんません! このバス、真志喜の方まで行きますか!?」


 いきなり大声である。

 運転手は面倒臭そうに……


「いきませんね。ホテルのシャトルバスなので」


 運転手が話を終えようとすると藤田扮する馬鹿な観光客はさらに声を大きくして……


「パラセイリングしたいんすよ!! 沖縄!! 初めてで!! 真志喜でしたよねあれ!?」


 藤田は、前までコンビニの店長をやっていたのだそうだ。

 どういう客に絡まれたら厄介かを知っていたのだろう。なかなか渋い演技だ。


「いやあ……」


「スマホも電源切れちゃって!! ほとんど! ノリで来ちゃいましたから! 沖縄! 初めてなんで!!」


 そうこうして……運転手と、周りの人間の注目を藤田が釘付けにしている間に……

 山田がバス後部のタイヤに細工をした。


 結局バスの運転手が藤田を振り切るまでに一分を要した。

 

 

 * * * * *


 思った通りバスは道の脇に急停車したのを、山田が運転する白い乗用車から見ている。

 話題は、藤田が演じた観光客で持ちきりだ。


「なかなかやるじゃないか」


「はあ……あんなんでよかったすかね……」


「上出来だよ。見ていてイラッとしたものな」


 中条と、運転中の山田はけたけた笑い出した

 藤田は口を窄ませて……


「不法侵入に、器物破損。業務妨害……。やってること犯罪じゃないですか……」


「なあに人間みてえなこと言ってるんだよ」


「えええ……」


「……さて。あとは仕上げだ。那覇空港で和知を待ち伏せるぞ」


「は、はい。しかし、どうやって和知を与那国島に誘導するんですか?」


 藤田に聞かれると、中条はポケットからサンゴのかけらを取り出した。


「手荷物検査で時間をかけて、さらに海のことを意識させる。我ながらいいアイデアだね」


「……海に行こうとしなかったら?」


「三田村が何か考えてくれるさ」


「…… ……和知にまで犯罪者に仕立て上げるってことっすよね。

 ……まだ俺、自分が何させられてるのかわからないっす……」


「人間には、それぞれに与えられた役割があるってことだよ。

 ……難しく考えるな」


 

 この後、急停止したバスからタクシーに乗り換えて和知は、混雑した那覇空港にて中条とぶつかり、

その瞬間にサンゴのかけらをポケットに入れられ、無事に羽田空港行きから行き先を変える事になる。

 ……このようにして和知の数日間は、自分の意志やその場の運勢といった類のものではなく、

謎めいた組織ぐるみの暗躍によって決められていた事になる。


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