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二月三十日「あ2号」作戦

プロジェクト・タナトスの進捗状況並びに、Cチームの活動実績。

  

・ 和知輝樹を、与那国島へと向かわせました。


・ 上田美代子に、『昆虫大全』を持たせました。


・ アルフレッド・マーカスに、『奥多摩』を植え付けました。


・ 上田美代子に、『パパーハ』を入手させました。


・ 神取篤の、コーカサス行きが決まりました。


・ 上田美代子に、『高山植物図鑑』を持たせました。



 * * * * *


『現実時間』二月三十日。横田基地内。


「……避難誘導マップ……でありますか?」


 基地内のオフィスにて、アルフレッド・マーカスとその上官が向き合っている。


「そうだ。……もちろん基地内で利用するものだぞ? 

 というのもだな。君も南海トラフぐらい聞いたことはあるだろう」


「地震大国ジャパンの、百年間隔に地震が起きると言われているプレートですか」


「その通りだ。ここ数年のうちにマグニチュード8クラスの大地震がやってくる確率は80%なのだそうだ。 

 ここ西トウキョウにも多大な被害が予想される。

 それでここのところ住民もだいぶナーバスになっていてな。

 我々もいざ有事となったら、自衛隊と連携して物資の運搬が任務になることも十二分にありうる」


「はあ。しかし、過去のマップがあるのでは……」


「では、マーカス二等兵。トウキョウを中心に大地震がやってきたとする。

 ここ西トウキョウで住民がパニックに陥っている時に、どこに避難させる?」


「well……」


「時間切れだ。災害時に重要なのは正確さと速さだ。

 メモを探して、メモを読んで避難場所に誘導するのでは時間がかかりすぎる。

 今の君では救えなかった命があるだろうな」


「は、はあ……」


「だから、隊員たち全員、横田baseにいる間は、西東京の避難所くらい暗記してもらうことにすると。こういうわけだ」


「了解いたしました!」


「午後までに避難所と、近隣の病院施設をまとめた資料を作っておくように。以上だ。下がってよし」


「失礼致します!!」


 マークがオフィスから出ていく。

 眉間に皺を寄せ、腕を組んでいた上官の、顔つきが変わっていき、無表情になる……。


「……マルヨンからマルニー。……マークに『避難所マップ』を作成させることに成功」



 * * * * *


 白の部屋では、三田村が端末の前で鮎川からの無線を受けたところだ。


「『避難所マップ』を作成させることに成功、了解。さすがだマルヨン」


 今回、Cチームの任務すなわち……『アルフレッド・マーカスに核戦争の不合理を痛感させる』にあたり、

採用した策は奥多摩の時と同じで、とにかく数を打って刷り込むことにしたのである。

「何かを渡す」「どこどこに行かせる」Cチームが今までやってきた他の任務とは違い、価値観を変えたり、概念を植え付けると言った任務は、小さい事象をしつこく積み上げるのが一番だという結論に至った。


 三田村が端末で、今後のスケジュールの整理をしていると白い部屋の白い扉が開いた。

 コツン、コツンと革靴の音が三田村の耳元に近づいてくる。

 三田村は端末の手を止めた……。


 足音が、中条、藤田、山田、鮎川、そのどれもと違うものだった。

 三田村は顔を上げ、端末を閉じる。


 黒スーツを着た、笑顔の見覚えのない壮年男性が近づいてくる。

 年齢は、中条よりも上だろうか。

 服装などは、他に何百億といる黒スーツと変わらないが……それでもこの男が着ると違って見えた。なんといえば良いか……高級感が漂っていた。

 よく櫛の通った頭髪は、いわゆる日本人の白髪と違い、美しい灰色で、目の色はブルー。

 髭は丁寧に剃られており、いかにも英国紳士然とした男だった。


 ……もちろん、誰だかわからないが、男は親しげに三田村に近づいてくる。

 体からは人工的な香りがするが、もちろん体臭などではなく、かといって三田村が不快感を覚えるようなタバコの匂いでは無かった。

 真っ直ぐ三田村を見る青い目が宿すものは、敵意でも好意でもなかった。

 

「……どちら様ですか?」


 三田村が問うと、男は立ち止まり親しげに話しかけてきた。


「仕事は順調かね」


 もちろん、答えられるわけがない。三田村は警戒心を高めた。


「ああ、すまないね。突然お邪魔しちゃって。

 君とだったら、理性的な話ができると思ったんだ。つまりー……我々の目指している未来についてね」


「なんのことです?」


 三田村が目で威嚇すると、相手は尚、朗らかな表情になる。


「そう身構えないでくれたまえよ。君たちのことはよく知っている。

 君も……本当は私が誰か知っているのではないか?」



 男に言われて、三田村はこの男が、Cチームに妨害を加えている人間であると確信した。


「……何しにきた」


「いや、すまなかった。君に対してこんな言い方をするべきじゃ無かったな。

 まずは自己紹介をしよう。私はAチームのハンニバルだ。君たちのことは同業者として尊敬しているよ。

 粘り強いよね」


 ハンニバルという男は、Cチームに対して『敵』ではなく『同業者』という言葉を用いた。

 おそらく、この男なりに三田村の警戒心を解きたいのか、油断を誘っているのかもしれない。


 当然、この男は今回のCチームの任務を知っていると思っていい。


「誤解を生んだのはこちらかもしれないが……さっきも言った通り理性的な話をしにきたんだ。君と」


「ならば、我々のことは放っておいていただけませんか?」


「君が我々に対し、嫌悪感を抱いたり邪魔者扱いすることは実に、仕方がないことだ。

 しかしCチームに任務があるように、Aチームにも任務があるのだよ」


「任務。嫌がらせじみたディスターブが任務ですか」


「ん? なんだって? ……ああ。Disturbと言ったのか。日本英語は難しくて聞き取れないんだ。

 君が今言ったDisturb、君らの言葉で言うと『妨害』とか『邪魔』か。

 ……そう言えばいいじゃないか。なぜ異国の言葉をわざわざ使うんだ? 君の国は時々、わからないところがあって面白いよ」


「理性的な話がしたいなら茶化さないでいただきたい」


「ああ、申し訳ない。その通りだな。

 時々、よく回る自分の口が嫌になるよ。『妨害』それこそが誤解なんだ。

 我々の目的は、君たちのプロジェクトを妨害することじゃない。むしろ、目的は一緒なんだよ」


「……よくもそんな嘘を」


「我々は君を知っているが、君は我々を知らない。これは不公平だな?

 だから我々の話をするがー……

 どうして我々が今まで君たちの……流れに沿わない行動しかしてこなかったかというと……

 それ以外はみんな、君たちが『やってくれたから』なんだよ」


 ふん。と三田村はハンニバルの言葉を切り捨てた。

 

「数ヶ月前、我々は確かにドローンを使って、君たちが上田美代子に届けるはずのものを奪う形になった。

 ……あの時はまだ、君たちの目的を知らなかったからだ。

 しかし後から考えると、それもなかなか悪くない手だと思った。

 誰かに本を届ける、帽子を届ける。我々はこんな任務ばかりだ。つまり……

 性質的に非常にわかりづらい。君たちだって、どうしてこんなことをやっているのかわからなくなることあるだろう?」


 三田村は答えなかった。


「どうして、上田美代子にロシアの帽子を届ける? どうして図鑑を届ける? 答えるならばそれは『上からそういう任務がきたから』だ。

 本当はその先に、もっと大きな本質を伴う目的があるはずなのに目先の任務にしか意識がいかない」


「仕方がないだろう! 繊細で複雑なプロジェクトだ! 我々は黙って手と足になればいいんだ!!」


「…… ……今の発言は、『我々』を、少なくとも敵ではないと認めてくれたと思っていいのかな? ミスター三田村」


「…… ……」


「君たちも本当は、気に病んでいたはずだ。我々が君らをDisturbするんじゃないかと。

 我々だって君らの邪魔は本望じゃないんだよ。だから、すり合わせをしにきたんだ。今後、こういうことがないようにな」






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