似ている敵
真っ白い部屋、真っ白い机を挟んで、黒スーツの男が二人向き合っている。
年上の方の中条が、丁寧にトランプを切る。
中条の口元、、ワイシャツの襟、スーツの上着からは、吸いたてのタバコの匂いがし、それが反対側の比較的若い男、三田村の神経を逆撫でていた。
メガネ越しの虚な目でトランプを睨む三田村に、中条が話しかける。
「じゃあいいところでストップって言えよー」
三田村の機嫌と反比例して、上機嫌の中条が軽快にトランプを切っていく様に、三田村は五感で嫌悪感を示した。
いっそ、一生何も言わないでおいてやろうかと思った。
しかしそうするとこの苦しみが一生続くことを意味する。
「ストップ」
三田村は、自分でも驚くほどの低い声で言った。
中条はカードを切る手を止めて、一番上のトランプを抜き取り三田村の前に伏せる。
どうやらそれがなんのカードであるのか、今から中条が当てるという遊びのようだ。
心底うんざりした顔で三田村が目の前に伏せてある一枚のカードをめくる。
……ジョーカーだった。
ふと、三田村が視線をトランプから目の前に向けると、中条がこちらの顔をジロジロとみている。
……三田村の表情を読み取って引いたカードを当てる、などという『てい』なのだろうが、
芝居がかった中条の表情が三田村の神経をさらに削っていく。
「なんだろうなあー。うーん。わからんなー」
そして下手な一人芝居が始まると、いよいよ我慢ならなくなった。
今自分の顔から読み取れる情報があるとすれば、怒りの一択だろう。
「三田村の顔はなんだかよくわからんなー。よくわかんねえ顔してるよなあ。
……だめだ。三択にしてくれ」
そう言って中条は三枚のカードを三田村の前に伏せた。
「それのどれかだろ」
などという言葉で中条は、三田村にカードをめくるよう促す。
自分の手元のカードをめくるというだけの仕事が、三田村には非常に億劫に感じた。
茶番に付き合いきれない。三田村は手元の三枚のカードをいっぺんにめくった。
そこには……
元々真っ白だったのだろうカードに、手書きで「バーカ」と書かれたカードが二枚。
もう一枚はジョーカーだった。
三田村は心の中で静かな殺意を覚えた。
「タネを明かすと、お前はジョーカーを『偶然引いた』んじゃない。俺が引かせたんだ。
……人間を操るなんて簡単ってことだぜ三田村。そして操られるのはもっと簡単だ。だから安心することだな。
アルフレッドに奥多摩を刷り込む? 核戦争の不合理を刷り込む? 我がチームの天才女優鮎川様にかかれば造作も無いぜ。
ただよ……」
突然の目の変わりように、三田村は一瞬怯む。
先ほどの中条とはペテン師と、殺人鬼の違いだ。
「ルールがないのは勘弁だ。外部から邪魔されるんじゃあ任務どころじゃないぞ?
なんでこっちの任務のことが筒抜けなんだ。機密情報じゃないのか」
「そのはずです。僕にもわかりません。
……ただ、思うに『敵』の思惑も我々と似通っているのではないかと」
「どうしてそう言い切れる?」
「僕がプロジェクト・タナトスを知っている『敵』だとして……一番合理的な方法は上田とアルフレッドを始末することです」
「……ほう」
「それをせずに、わざわざ回りくどい邪魔の仕方をする。……『敵』にしても、上田やアルフレッドのような人物は、死なれたら困る人物なのではないかと」
「……荒筋も結末も似通っているのに、相容れない『敵』か。……それは『敵』って言うのか?」
「さあ」
無愛想に三田村は、目の前のトランプを払い、端末をテーブルに乗せた。
いつもの三田村に戻った。
「いずれにしても、これからはそういう妨害が頻繁に出てくるってことだな。
それで、マークは今どうしてる」
キーボードで快音を奏でている三田村は、中条を見ずに答えた。
「うちの天才女優が一芝居打ってるところですよ」




