黒スーツと葛藤
言い訳一、別に黒スーツが人間と関わることを禁じる法律やルールなんてない。
言い訳二、中条さんだって、横田基地のアメリカ人と任務以外で会っている。
言い訳三、自発的に持った関わりじゃない。望まれてそうしただけだ。
言い訳四、上田美代子はプロジェクト・タナトスにおいて重要な役割を担っていると想像でき、
二月四日の金沢での任務で上田が『ジャック』された前例から鑑みるに、上田の身辺に危険が及ぶ可能性もある。
よって、自分が警護的に側にいることは任務の一環であるとも言える……
黒スーツとなった後でも、都合のいい言い訳は探せば沢山出てくるものだ。
藤田。
特に期待されたわけでも、問題を背負っていたわけでもないありふれた高校生活を送り、
高校を卒業してからは専門学校に二年間通った。そこでも、過度な期待をされることもなければ、グレるほど悪い扱いを受けたわけではなかった。
決して薔薇色とは言い切れないが、真っ黒でもない。そんな専門学生を出てからは、アルバイト先のコンビニエンスストアの社員になり、気がつけば店長になっていた。
早すぎる人生のスピードに流されるがままに、あれ、おかしいぞ? と気がついた時にはすでに手遅れだった。
中途半端な青春、中途半端な仕事、中途半端な人生を自覚した時、藤田はすでに責任のある立場になっており、
昨日まで無かったはずの『現実』という名の高い高い壁に四方を囲われていたのだ。
それまでの明るく呑気な学生生活は、就職を機に一変してしまった。
明るく呑気な学生生活しか送ってこなかったので、恋愛も友情も、将来に対する熱意や危機感みたいなものも全て、
『明るく呑気な』で片付いてしまう物だった。
恋人もいたこともあるが、子供の恋愛しかしたことのない藤田はすぐに飽きたり、飽きられたりした。
本気で誰かを好きになったこともあったが、その人といざ恋に落ちることが怖くて自分の方から逃げていた。
そんな藤田が、人間をやめて黒スーツになった藤田が、今こうして、深夜に上田と会っている。
黒スーツ的な脳味噌で考えれば、純粋に上田の護衛である。
上田は一度外部から『ジャック』されている。その外部が、プロジェクト・タナトスを妨害することが目的の『敵』だった場合、一番合理的な手段は上田を消してしまうことだ。
もう一つの脳味噌の考え方を説明するには、二月四日まで時間を巻き戻す必要がある。
『現実時間』二月四日、金沢市、喫茶店。
上田が、アメリカンのカップを両手で包みながら恥ずかしそうに藤田を見ている。
「友達……俺と、ですか?」
「はい、佐藤さんと、頻繁にお会いする仲になりたいです」
佐藤とは、藤田が適当につけたその場凌ぎのコードネームだ。
「頻繁……」
明るく呑気な人生しか送ってこなかった藤田にしてみたら、初めて女性から言われる言葉だった。
「例えば、……平日の夜とか、お忙しいですか?」
「はあ。平日の夜はちょっと……いいえ嘘です! 時間、作れます!」
上田の側にいないといけない気持ちと、真逆に働く気持ちに挟まれて、勝手にもがいている藤田……いや佐藤の姿は滑稽そのものだった。
そんな佐藤の姿を見て上田は思わず笑う。
……こんなにそばで見ていながら初めてみる笑顔である。
「仕事終わりに、たまに行く映画館があるんです」
「はいもちろん! シネマ・トップスですよね!?」
「……佐藤さんもご存知だったんですか?」
「あ! いや……なんとなくそんな気がしたというか……」
「ふふ。一緒に映画を見ませんか? もちろん、お仕事でお疲れだったら無理にとは……」
「いいえ! い、行きます! いつ行きますか!?」
もはや、やけくそである。
こうして、藤田は……いや佐藤は、上田と夜予定を合わせて映画を見て、その後お茶をする仲になった。
* * * * *
藤田を除いたCチームの四人は、白の部屋に集まっていた。
彼が、上田と個人的に会う流れになったことについては各々で腹に、違うものを持っていた。
例えば三田村なんかはすぐにでも罰則を与えて、物理的に上田と黒スーツを隔離するべきだという考えだし、
中条と山田は、やはり上田自身がジャックされた今回の事件が衝撃的だった。だから護衛役として藤田が最適とも考えていた。
お互いがお互いの考えていることがわかるために、強く言うことも出来なかった。
そうでなくても新たな任務が降りてきており、新しい頭でものを考えなくてはならなかったのだ。
いつもにまして顔が険しく、声に覇気のない三田村が重たい口を開く。
「……我々の次の任務は、横田基地。アルフレッドマーカスがターゲットです」
「次はなんだ。マークのやつに埋蔵金でも掘り当てさせるのか?」
「……なんで埋蔵金なんですか?」
「だって奥多摩に別荘買わせないといけないだろうが」
「違います。残念ながらね」
三田村が言葉と共にため息を漏らした。
「なんだよ。勿体ぶらねえでさっさと言ってくれねえと、話が始まんねえぞ」
「そうですね……。今回は、ものを渡す……とかそう言うのではなく、もっと概念的な事が任務ですから……」
「だから、勿体ぶんなっつってんだろうが!」
ヤニの切れ始めている中条の語気が強くなった。早く一服したいのだろう。
そして、三田村は口を開き、困難への扉が開かれた。
「……今回のCチームの任務は、アルフレッド・マーカスに『核兵器』に対する嫌悪感を抱かせる事です」
クロス




