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二月一日「う3号」作戦 2

 プロジェクト・タナトスの進捗状況並びに、Cチームの活動実績。

   

 ・ 和知輝樹を、与那国島へと向かわせました。


 ・ 上田美代子に、『昆虫大全』を持たせました。


 ・ アルフレッド・マーカスに、『奥多摩』を植え付けました。


 ・ 上田美代子に、『パパーハ』を入手させました。


 ・ 神取篤の、コーカサス行きが決まりました。


 * * * * *



『シーマルニーからマルヒト。

 マルサンの芸術的演出で、上田が図鑑を手に取ることに成功。

 マルヒトの出番です。プラクティスの成果を見せてくださいよ。

 ……上田が、図鑑を手に入れたがるか、むしろ興味を無くすのか、マルヒトのひと押しにかかっています。

 心するように。以上マルニー』


「任せとけよ。マルヒト了解」



 * * * * *


『現実時間』二月一日。二十一時十分。



「お? その本が気になるのかい?」


 中条が扮する、登山家の風貌をした壮年男性が、『高山植物図鑑』を手に持っている上田に話しかけた。

 まさか図書館で他人に話しかけられると思ってなかった上田は一瞬身構えてしまった。


「お嬢さん、北アルプスって知ってるかい?」


「……流石に知ってます」


「だよな。じゃあ、和名は知ってるかい?」


「山は……興味ないんで……」


「『飛騨山脈』ってんだ。格好いいだろ。ヨーロッパにある『アルプス』と同じ名前が日本にもあるのはなんでかというと、

 その標高の高さだ。三千メートル級の峰が続いてるんだよ。

『馬が飛んで越える』ほどの高い山。名前に偽りなしだろ。嬢ちゃんは山に興味なくっても、そこで育つ植物だったら興味あるんじゃないか?

 夏でも雪が溶けずに、強風と紫外線に常に晒される。嬢ちゃんだったら、そんなところで生きられるかい?」


「……極限環境微生物……じゃないと生きられない環境ですか」


「そう。よく知ってるな。面白いよなー。わざわざ、こんな環境で生きる植物ってどんなんだと思う?

 こう……根が太くて葉が小さくて、地味な色の不恰好なのを想像しがちだけどな。

 ほら、例えば……これとか」


 壮年男性は、ページを開くと、そこには、ピンク色のタコさんウィンナーのような花を咲かせる木が出てきた。


「な?可愛いだろ。

 こいつはコマクサ。

 わずかな雪解けの水を逃さず吸収するために、根を石の割れ目に伸ばすんだ」


 男性が次に開いたページには、鮮やかな紫色の、まるで熱帯魚のような花びらが現れた。


「これは、イワギキョウ。

 夏のわずかな時間、一斉にこいつが岩場に咲き誇るんだ。どうしてこんな鮮やかな紫だと思う?」


「虫を、呼ぶためですか?」


「賢いね。その通りだ。だから、こんなに鮮やかで、いい匂いがするんだよ。

 どうだ。『高山植物』のイメージが変わってきただろそしてこっちは……」


「すいませんお客さん……」


 壮年男性の熱弁がヒートアップしてきた頃に、警備員が声をかけてきた。

 どうやら少々、声が大きすぎたようだ。


「周りのお客様のご迷惑になりますので、静かにお願いします」


「あ……どうもすんません……な。高山植物、面白いだろ……興味持ってくれよ」


 壮年男性はその場を去っていく。


 * * * * *


「……マルヒトからマルニー」


『マルニーです。モニターしてましたよ。何やってんすか!!』


「そんなこと言ったってよお……でもなかなかの演説だったろ」


『どうでしょうねえ……若干……しつこいオジサン感出ちゃってたと思いますが……まあもう終わったことなので信じるしかないです』


「辛いねえ……なあ、その上田の次の休みっていつなんだ?」


『二月四日。……しあさってですね』


「三日後か……。まあ、三日じゃあ忘れられねえくらいには図鑑の事を植え付けただろ」



 * * * * *


『現実時間』二月四日。十三時。金沢市の古書店。


 上田を待ち受けるのは、店員の体を借りた鮎川。そして、連絡係として藤田が店内にいる。

 本当は、元コンビニ店員のキャリアから藤田が古書店の店員をやる予定だったのだが、三日前の図書館での中条の一押しが効いているか、不安が残ると言うことで、

 最悪の場合は鮎川が最後の一押しで『高山図鑑』を宣伝する作戦だっ


 ……任務とはいえ、また上田と会話ができるかもしれないと、少し期待していた藤田は若干不貞腐れ、

上田の行動を監視している。


 三日前と同じ、黒いコートに赤いマフラー。そして、白いパパーハ。山田が言ったように、メーテルみたいだ。

 パパーハを大事にしてくれてよかった。

 なんだか藤田は、自分がプレゼントしたような気持ちになっていた。

 ……この瞬間藤田は、それも全て『オペレーション・タナトス』のためであることを忘れていた。


 上田が、古書店のある通りに現れた。


「マルゴから各位。ターゲット間も無く現着。どうぞ」


 返信が誰からも帰ってこないが、鮎川が準備を怠ることなど考えられない。


 それにしても、ここにきてようやく『木』に関するパッケージが、上田に届けられる。

 そして上田は、応用微生物の化学者だ。

 ……木で何かをするのだろうか?

 

 ふと、藤田の中で嫌な想像が働いた。

 このところ頻繁に見る、窒息死する夢だ。

それもこの間の、フェイスという少女が言っていた言葉と共に……


『戦いを終わらせるために、大勢の人間を窒息死させる。……それは本当に正義ですか?』


 木は、二酸化炭素を取り込んで酸素を放出することなど、小学生の理科で習うことだ。

 ……例えば、上田が、微生物の遺伝子をいじり、酸素を吸って二酸化炭素を出す木を生み出したら……?


 夢で見た『あの木』が、調べても出てこないのは、まだ地球上に存在しない木なのだとしたら?


 考えすぎだ。

 藤田は頭を抱えて、邪念を振り払った。


 そうこうしているうちに上田を見失った。



 思わず辺りを見回す。 

 どこに消えた!? 黒いコートに、目立つ帽子! どこに消えた!?


 

 * * * * *


「至急! 至急! マルヨンから各位!!」


 無線に、いつもに増した緊張感が走る。


『至急、至急マルヨンどうぞ』


「対象が……引き返していきます! すでに大通りを離れて駅に向かっている模様!」


 すると中条が無線に割り込んできた。


『マルヒトだ! マルゴ! 対象の様子はいつもと比べてどうだ!?』


「ええと……」


『いつもに比べてどうだ! お前ずっと見てきたんだろ!?』


「……歩く速度が、いつもより速いです!」


『確かか!?』


「はい!!」


『マルニー! 対象がジャックされてる!! 大元が何者か探れ! それからマルゴ!』


「は、はい!!」


「……お前が、なんとかして対象にパッケージを届けろ! 以上マルヒト!」

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