窒息
白い照明の真っ白い部屋。
真っ白い椅子に座り、白い紙媒体の資料を読む黒スーツ五人。
Cチームに、新たな任務が与えられたのである。
資料一枚目に貼ってある顔写真には、上田美代子。
五人とも、言葉はなくても、いよいよプロジェクト・タナトスの中心にいるのは上田なのだと理解した。
「また金沢か……」
チームの年長者中条が不満げに言葉を吐いた。
「不満ですか?」
三田村が聞くと、中条は「寒いからな」と肩をすくめた。
「しかも、この任務は前にやったことあるだろう。なんで同じ奴に、同じ事をしなきゃならん?」
「『本の内容』が全然違います。前回は『昆虫図鑑』今回は『植物図鑑』です」
三田村の手元に、分厚い図鑑が置いてある。今回上田に渡す物の現物である。
「わからんねえ……俺たちは一体、上田に何をさせたいのか……」
今回、Cチームの面々に与えられた任務は、『高山植物図鑑』を、例のごとく偶然を装って上田に持たせる事である。
……ここ数日間、Cチームの活躍で上田の人生はすっかり数奇な物になってしまった。
「前回の『昆虫図鑑』の時に、一緒に渡しちまえばよかったんじゃ無かったのか?」
「それじゃあ意味が無いんです。本のひとつひとつ、それから帽子。それらにいちいち、運命めいた必然性みたいなものを持たせないとダメなんです。
せっかく苦労して持たせても、捨てられたら意味が無いでしょう」
「そうは言うがなあ……」
中条がヘソを曲げて会議が進行しないのは、もうこのチームではお約束になってしまっている。
それを、堅物の三田村が諌めるまでが台本に書かれたストーリーになっていた。
「文句を言ったって仕方が無いんです。我々はやるしか無いんですから」
「わーったよ……。ちょっと『空気』吸ってきていいか」
この一言までが台本通りだ。三田村は眉間にシワを寄せて黙っている。
「へへ。悪いね。最近どうも……寝付けが悪いもんでね……新鮮な空気が恋しいもんで」
と、言い切るまでに中条は会議室を後にした。
自然と休憩時間に突入する。
普段なら山田と藤田も一度、中条が帰ってくるまで会議室を出るのだが、この時は違った。
藤田が部屋に残っていた。
「三田村さん」
藤田から三田村に話しかけるのは珍しいことで、三田村は一瞬、眉間に寄せたシワを解いた。
「その図鑑、読んでもいいですか?」
彼は三田村の手元にある図鑑が気になっているようだった。
「なんで」
「……木に興味があるんです」
少し前に、Aチームのフェイスという少女と会ってから、藤田はまた、窒息死する夢を見るようになっていた。
いつも通り、木の側で死ぬ夢だ。
初めて夢を見て以来、何かにつけてその木の事を調べているがいまだに何の木なのかわからない。
三田村は眼鏡の奥の、片目をつむり、もう片方で藤田を睨んでいた。
その視線はどことなく、藤田の本意を探ろうとしているようでもあった。
……もしかして、自分達を妨害したチームに会った事を悟られているのかもしれない。
三田村を前に、藤田は縮こまる。
「……『パッケージ』の扱いは慎重でないと駄目だ。君の手で汚されたくない」
「あ……はい」
「なぜ、『木』に興味を?」
「え?」
「通常、花や野草といった植物、もしくは木に留まる野鳥に興味を抱くのは自然な事だ。
それを『木』にピンポイントで興味を持つ者は珍しい。そして、経験上君のような人間のタイプが『木』に興味を持つことは非常に稀だ。
……何か心境の変化でもあったのか?」
三田村に睨まれて藤田は、Aチームの事が脳裏をよぎった。
まさか、引き抜きのオファーが来たなんて三田村に言えるわけがない。
ただでさえ三田村からの信頼がないと感じている藤田は、何をされるかわからないのが怖かった。
藤田はこの、三田村の妙に鋭い部分が苦手だ。
同時に、三田村に何か自分の後ろめたい部分まで見透かされているのではないかと心配になった。
三田村の視線が、藤田から離れない。
観念して、Aチームの事を思わず口走りそうになったところで……
「じゃあ、作戦会議始めるぞー」
と気だるそうに中条と山田が入ってきて、ようやく三田村の睨みから解放された。
逆を言うと、話すタイミングを完全に逃してしまった……。




