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Aチーム

 自由に飛べる羽を持つと、足のありがたみを忘れてしまう。

 どんなに合理的な生き方をしてきた者でも、そうでない者でも結局は、

「飛べるのになぜ歩くのだ」という考えに落ち着いてしまうのだ。


 ここでは地上で歩いている者を見かけることが少ない。

 

「タバコ、吸いますか?」


 どう考えても未成年にしか見えないフェイスが、黒コートからタバコを取り出し、藤田に一本勧めた。

 

「いえ……結構です」


 藤田はいまだに、羽を背負ってまでタバコを吸う中条みたいな人間が信じられなかった。

 習慣というものは、時が経とうが、背中から羽が生えようが、そうそうやめられるものではないのかもしれない。


 まるで天然記念物でも見るかのように、目の前で煙をふかす少女を見つめた。

 鮮やかな金髪。尖った鼻。気の強そうな顔はハリウッドの映画に出てきそうな子役を思わせる。


「藤田さんは、トロッコ問題をご存知ですか?」


「え? はあ……名前だけは」


「噛み砕いていうと、犠牲が避けられない状況で、より少ない犠牲を選ぶことに正義はあるのかという問題です」


「正義?」


「正義の定義は、生き物が本能で定めたルールの最大公約数です」


 フェイスという少女は、藤田をまっすぐ見つめながら煙と言葉を交互に吐き出す。

 

「藤田さんは、『プロジェクト・タナトス』について、何か聞いてますか?」


 藤田は答えなかった。


「『大きな戦いを、終結させるための手段』と聞かされてませんか?」


 藤田は、肯定も否定もしなかった。

 フェイスは、言葉を発しながらも何処か、藤田のことを値踏みしているように見ている。視線が、藤田の目から離れない。

 まるで、自分の言葉に対して藤田がどのように反応を返すかを観察しているようにも見える。


「一見、それは正義と呼べる手段です。問題は、その正義に対して払わなければならない対価なんです」


 フェイスは、携帯灰皿を取り出して、短くなったタバコを入れた。その間も藤田から視線が離れなかった。

 藤田は、フェイスが何を言いたいのか頭の中で言葉を咀嚼した時だった。

 彼女は瞬時に距離を縮め、藤田の胸元でこう、囁いたのだ。


「藤田さんがいつも見ている夢が、その対価を支払った結果だとしたら、どう思いますか?」


 反射的に藤田はフェイスから離れようとしたが、彼女は藤田の腰に手を回してさらに体を密着させてくる。

 小さい体に見合わない怪力である。


「藤田さんの『プロジェクト・タナトス』で、確かに戦いは終わります。

 ただし、沢山人が死にます。藤田さんが毎晩見ているあれ。あれが、実際に起きます」


「知りませんよ! 俺はただ、本を届けたり、帽子を届けたりしているだけで!!」


「逃げないで! ……私を見て。今は信じられないかもしれません。でも、藤田さん達がしていることの一つ一つの事が、

 その結末に続いているんです。

 あの場所がどこなのか、私は知りません。実際に何が起きるのか、私は知りません。

 私が知っているのは、藤田さんたちは戦いを終わらせるために、大勢の人間を窒息死させようとしている。……それは本当に正義ですか?」


「知りません! 離してください!!」


 藤田がフェイスを引き離そうとすると、彼女は逆に手に力を入れて藤田を抱き寄せた。

 ニンゲンのものではない、人工的な匂いがする。

 

「あなたには、自分のやっていることに正義を感じなくなる瞬間が必ず来る。

 そうなったら……私の事を思い出して。

 Aチームは、貴方を待っています。他の誰でもない、藤田さんを、待っています」


 フェイスの腕の力がさらに強くなる。プレス機か何かに挟まれていると感ずるほどである。

 わあ!! と耐えきれずに藤田がフェイスを突き放すと、彼女の体は空気のように消えた。消えていた。

 まるで最初から存在していなかったかのように。

 


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