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 三田村。

 黒スーツになる前は若くしてベンチャー企業のCEOを務めていた。

 営業むきな性格とは言えなかったが、システム構築の技術に優れていたために事務的な仕事は自然に、全て彼の担当になっていた。

 野心的なタイプでもなく、かといって日和見主義なところもない灰色な社会人だったが、

優秀すぎる能力と、短気で神経質な部分が禍して敵は多かった。


 三田村は何より、他人に背後に立たれることを激しく嫌った。

 自分の後で何かが動いている感覚が我慢ならなかった。

 そして後にいる人間が何を見ているのかが気になって仕方がなかった。

 社内でも、勤務中事務所を部下がうろうろしているだけで機嫌が悪くなり、しまいにはヒステリーを起こす始末だった。

 それだけではない。三田村は早口な傾向があり、勤務外の日常会話でも彼の言葉が聞き取れず「え?」だとか「は?」だとかの言葉で聞き返したら、

その人間とは二度と口を開くことがなかったり、休憩時間中に話しかけただけで機嫌が悪くなったりなど、

彼にしかわからない彼の中のルールがあった。そのルールに引っかかったという理由だけで解雇された部下、自主的に会社を辞めた部下は少なくない。

 


 人間の顔と向き合うよりも、端末の画面を眺めている時間の方が圧倒的に多かった。

 人間は裏切り、嘘をつく。

 しかし画面内の言葉や記号、数字だけは決して三田村を裏切らなかった。

    


 そんな彼は、黒スーツとなった今でも端末の前にいる。

 相変わらず信じられるのは、画面の向こうの情報だけである。



「三田村」


 中条が話しかけてきた。やに臭いところを見るとすでに一本吸ってきたのだろう。


「『邪魔者』の目星はついたかい」


 中条が言っているのは、金沢での、『う2号作戦』で、任務を妨害してきた人物、もしくは組織のことを指している。

 

「……パパーハの奪取で使用されたドローンの解析終わりました。『実在する人間』が所持していました」


「何者だ」


「ありふれた人間です。上田美代子とも、石川県とも、ロシアの民族ともなんの関係もない、ただのドローン所有者です。

 ……ですから逆に、わかることもあるのですが……」


「要するに我々と似たような人種から『ジャック』を受けたということだろうな。そしてそいつらは、Cチームのことも、プロジェクト・タナトスのことも知っている」


「……いま、上に問い合わせてます。ですが特定は期待しない方がいいかもですよ」


「どういうことだ?」


「中条さん。……いま、『我々と似たような人種』って言いましたよね? でも、そのような人種が一体、何人いると思っているんです?

 地球人口の数億倍です。……わかってるでしょ」


「…… ……まあな。

 でもなんでだろうなあ、そんな天文学的数字の奴らが一体、何をやってるかなんて考えたこともなかったよ」


「…… ……案外、第三次世界大戦なんてものを起こすのも、我々のような人間が扇動しているのかもしれませんね」


「それだけじゃねえよ。今までで起きてしまったこと……年号が変わった直後の感染症も、広島と長崎に碌でもない物を落としたのだって、

 トロイア戦争だって……

 ……もっと言うとどっかのつまらん奴らのつまらん喧嘩だって……俺たちのせいなのかもしれないな」


「やめてくださいよ『俺たち』だなんで。地球人口の数億倍は『俺たち』なんて言葉でいっしょくたにできませんよ」


 中条は、ため息をついて三田村の隣に座った。


「……このプロジェクトに参加する前のことだったよ。ある建物の窓を割る……っていう任務があったんだ。

 二階にある窓で、立派なステンドグラスだったよ。

 何もわかってなかった俺は、その建物にいる神父の体をジャックして、窓に石を投げて割った。

 後で分かったんだが、その窓が原因で宗教戦争が起きて、『俺たち』の数が増えたよ。数百人な。

 ……そいつらが今何をしてるのかなんて、考えたこともなかった」


 白い部屋に、白い沈黙が流れた。


 

「今は『俺たち』のことより、タナトスの事を考えませんか。

 上から新しい任務がきました。……問い合わせの答えはまだです」


 三田村は、端末に映る男の顔を中条に見せた。

 中条は老眼鏡をかける。


「誰だこいつは?」


「神取篤。大学教授で、森林生態学の権威です」


「こいつが、世界大戦を止めてくれるのかね……」


 中条はメガネを外して、瞼を擦った。


「…… ……それはわかりませんがね、

 どうやら、ようやく点と点がつながり始めているようですよ?」


「なんだいそりゃ。こいつがアルフレッドの親友とかそういう意味か?」


「いいえ……この神取篤を、ロシアのコーカサス地方に向かわせるのが今回の任務だそうです」


「コーカサス? …… ……上田にくれてやったパパーハの産地か!

 どうやら……コーカサス地方に何か……対戦を止めうる何かがあるっていう事かもしれんな」


 さっきから中条は、老眼鏡をつけたり外したりしている。いっそのことずっとメガネにすれば良さそうな物だが、それは本人のプライドが許さないのだった。


「……なあ、ところで三田村」


「はい?」


「Cチームの『C』ってさ、なんのCか考えたこと、あったか?」


「ありませんよ。興味もありません。我々の前に疑問はない。任務しかありませんから」


「あーそうだよ。そうなんだけどよ……。AチームとBチームもいると仮定した時……

 お前そいつらをみたことあるか?」


「……」


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