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十二月二十四日 「う2号」作戦 6

 プロジェクト・タナトスの進捗状況並びに、Cチームの活動実績。

  

 ・ 和知輝樹を、与那国島へと向かわせました。


 ・ 上田美代子に、『昆虫大全』を持たせました。


 ・ アルフレッド・マーカスに、『奥多摩』を植え付けました。


 * * * * *



『現実時間』の、コンビニ店員の体を『返し』、白い部屋に戻ってきた三田村は、端末の前で表情を固まらせてキーボードを打ち続けた。

顔の位置すら全く動かなかった。


 そこに、同じく中条が戻ってくる。


「三田村、また、チームメイトが『ジャック』されたら厄介だ。お前はそっちをフォローしてくれ。

 ドローンの追跡はまかせろ」


「…… ……助かります」


「……なあ三田村。我らCチームは和気藹々としているが……大きな組織としては一枚岩じゃないんだな?

 正直に言ってくれ」


「…… ……否定できません」


「そいつらは何を考えている?」


「知りませんが、多分同じことです。あくまで『大戦の終結』です」


「……ああ?」


「同じ結末があっても、同じシナリオとは限らないんです。

 海外戯曲の翻訳にしたって、翻訳作家の匙加減で結末に至るプロセスが異なる。

 中には、同じ海外戯曲でも登場人物が増えたり減ったりする場合まであるんです。

 要は、同じ志で、違うシナリオを望んでる人たちがいると言うことです」


「結末が同じなら一緒じゃねえか。

 ……回りくどいんだよお前の説明は」


「こうとしか言えないんです」


 無線がなる。藤田からである。


『シーマルゴからマルニー!』


「マルゴどうぞ」


『ドローンを見失う! 近場で車を運転している人間の体を『ジャック』したい! どうぞ!!』


『割り込んでごめんなさい! こちらシーマルサン。車を確保して、マルゴの側まで来たわ。乗ってちょうだい』


『マルゴ了解! 助かります!!』


 慌ただしい無線が切れる。

 こうしている間にも、マルヨンの鮎川が、なんとか上田をとどめているはずだ。


「三田村。俺は……はっきり言って、Cチームがやってきた今までの任務は、適当な雑務だと思っていた。

 ……そうじゃないんだな?」


「当たり前でしょう。なんですか今更」


「つまり、俺らを本気で妨害しようとしている黒スーツもいるってわけだな?」


「…… ……考えられますよ。黒スーツかどうかは知りませんがね」



 * * * * *


『現実時間』十一時五十五分。

 金沢近郊を運転中の車内。


「藤田くん」


「はい?」


「後部座席のものを取って」


 藤田が後部座席に目をやると、大きなライフルが置いてあった。


「なんとかドローンの真下まで運転するから、それで撃って」


「え……でもこれって……」


「大丈夫、本部から持ってきたモデルガンです。銃声もありません。

 ……まあ改造品だから、人間とかには間違っても当てないでね」


「ええ……俺、元コンビニ店員ですよー……」


「大丈夫。藤田くんなら、できるできる!!」


 なかなかの速度を出して運転しながら、山田は藤田を激励した。

 その山田の気持ちを受けて、藤田は助手席の窓を開けてライフルを構える。

 ……外から見たら犯罪だから、これはあまり時間をかけてられない。


 白いパパーハを傷つけないように……などという事はこの時は考えていられなかった。

 ただ、頭上数メートル上を滑空する黒い飛翔隊に、引き金を引いた。引いた。


 当たるわけがないが、ここでドローンが電信柱に引っかかり、動きを止める。


「あああ!!!」


 体が勝手に動いた。

 藤田は、運転中の車の助手席を開け、車から転げ出た。




* * * * *


『現実時間』十二時二十五分。金沢近郊のアトリエ。

 長いこと引き止めていたが、そろそろ限界だ。

 渡すべきパパーハもないのでは……もうどうしようもない。

 計画は失敗だ。



『シーマルヨンから各位。すみませんこれ以上は限界です。対象が出ていきます』


『……シーマルニー了解。……今回は敵にしてやられたか……』


「じゃあ、今日はありがとうございました。また……個展やるときは教えてください。いきます」


 すっかり矢井田に心を開いた上田が、アトリエから出ていくその時だった。


「ちょっと待って!!!」


 肉声で声が聞こえだ。アトリエの入り口に現れたのは、黒スーツの、膝やら、肩やらが擦りむけていて、

あちこち怪我だらけの藤田だった。

 手には、ヨレヨレで、小さな穴の空いたパパーハと言う帽子を持っている。


 上田は、只事ではない表情で黒スーツを見ている。


 黒スーツは、息を大きく切らし、肩で呼吸をしながら、

パパーハを、上田に差し出した。


「ちょっと……待って……」


「え……大丈夫ですか……?」


「これ!! この帽子!! きっとあなたに似合うから!!」


「え……? え?」


「あなたがしていることは、きっと人間の生活のためなんだと思う。

 それはすごく大変なことだと思う!

 だけど……だけどあなたの人生を蔑ろにしては絶対いけないから!! これ!

 この帽子……あなたに絶対似合うから! それ被って街を歩いてくれたら、喜ぶ人が絶対いるから!!」


「え……」


 上田は、困惑しながら、パパーハを見た。

 上田の後ろから、マルヨン扮する矢井田が上田に話しかけた。


「おや……ああ、店内のどこを探しても見つからなかったのに出てきましたか。

 上田さん、これは、ロシアのコーカサス地方にある、パパーハと言う民族の帽子です。

 穴が空いてしまっているから商品としてはちょっと。ですから、

 よろしかったら、あなたに差し上げますよ。

 もちろん、穴はこちらで補修いたします。

 この方の言っている通り、あなたにきっと似合うから」


 上田は、何よりも藤田が言った言葉が胸に刺さった。

 表情を動かせなかった。図星なのである。

 試しに、パパーハと言う帽子を被ってみる。


「うん……! とてもお似合いですよ!!」


 上田は、パパーハを被った自分を姿見で見た。

 多少、汚れているが、確かにそれは自分のものにくるべくしてきた帽子なのかもしれないと思ったら、少しだけ気に入ってしまった。


「……いくらですか?」


「いいえ。穴が空いているので商品ではないので」


「いえ! お金を払いたいんです! ……大事にしたいので……」


「……ありがとうございます」



 今回は、決して偶然を装って……とは少し言い切れないが、

 Cチームの活躍で、上田にパパーハを渡すことができた。


 しかし、対立するチームがいることが発覚する、不吉なミッションでもあった。


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