十二月二十四日 「う2号」作戦 5
プロジェクト・タナトスの進捗状況並びに、Cチームの活動実績。
・ 和知輝樹を、与那国島へと向かわせました。
・ 上田美代子に、『昆虫大全』を持たせました。
・ アルフレッド・マーカスに、『奥多摩』を植え付けました。
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いつもにまして、無線から響く三田村の声が険しい。
『シーマルニーから各位。
マルゴの体が数秒間ジャックされた事態から鑑みるに、
本件、他組織からのディスターブ事案と判断する。
よって只今よりマルニーが全員の精神状態を常時モニタリングするので了承されたい。
なを、パッケージを奪っていったドローンを照会中。
現在マルヒト、マルゴ、マルサンが追跡中。
マルヨンにおいては、パッケージ奪還まで対象を引き止めよ。以上マルニー』
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『現実時間』十二月二十四日、十一時四十五分。
カランカラン。
入口の扉が開いた音だ。
非常に遠慮がちに聞こえるので、開けた人物はここに入るのにある程度の勇気が必要だったのだろう。
相手からすれば勢いで来店を決めた、誰もいないアトリエ。
準備の段階でも空間作りは骨を折る作業だった。なるべく、客対応する人間を上田美代子一人にしたかったのだ。
公共の場にありながら、個人のためだけにスペースを用意するというのは難しい。
スケジュール通り、上田がアトリエに入ってくる。
暖房の温度は適温か、BGMはうるさくないか、今一度多方面に神経を尖らせる。
何にしても……藤田が帽子を奪還して戻ってくるまで彼女をここに留めておかないといけない。
上田は、不思議そうな顔をしてゆっくり店内を見渡した。
まるで知らない国に迷い込んだようだ。
声をかけるならこのタイミングだろう。
「こんにちは」
相手を完全に受け入れる、丸みのある落ち着いたトーン、それでいて一音一句はっきり聞き取れる滑舌。
やや早口なのは、知的さを演出するためだ。
黒スーツの鮎川扮する、今日一日だけのための芸術家、矢井田総士が、上田に声をかけた。
上田からの会釈に、かすかに笑みが見える。少なくとも、彼女にとってこの空間は不快なものではないことが窺い知れた。
つかみは上々といったところだ。じゃあ、頑張れ藤田くん。
* * * * *
金沢市の空を飛ぶ、真っ白いパパーハを懸命に、藤田は追う。
「シーマルゴからマルニー!」
『マルゴどうぞ』
「追跡中! ただ……俺の足じゃ追いつけません!『ジャック』の使用申請を要求するどうぞ!」
『了解、尚現状、非常事態につき使用申請は省略してよしとするどうぞ』
「確認したいんです! 『借りられる』のは、有機物だけですよね!?」
『……黒スーツになってから、君が何度かやってきた通りだが再度説明する。有機物という認識には多少差異がある。
脳機能に異常を認められず、自我、本能、理性を持ち、自分の意志で肉体を動かせる生物である必要がある。
また、ジャックを行うには個々の生物に紐づいた……君のよく知る言葉で言うところのマイナンバーに類似した『生体コード』があるため、
こちらで生体コードを検索する時間を要する。ジャックの際は前もってオーダーされたい。どうぞ』
「それで言ったら……なんで『俺の体』はジャックされたんですか!? どうぞ!?」
「……それについてはまた後ほど説明する。パッケージの奪還を最優先とせよ。どうぞ
「……マルゴ了解!!」




