十二月二十四日 「う2号」作戦 4
プロジェクト・タナトスの進捗状況並びに、Cチームの活動実績。
・ 和知輝樹を、与那国島へと向かわせました。
・ 上田美代子に、『昆虫大全』を持たせました。
・ アルフレッド・マーカスに、『奥多摩』を植え付けました。
* * * * *
『現実時間』十一時四十分。金沢駅近郊のアトリエスペース。
無線の声に緊張感が走る。
『マルヒトからマルゴ、無くなっている、とはどういうことか? どうぞ』
「すみません! 一度整理します!!
昨晩二十一時、搬入作業開始、同、二十四時に搬入終了。
対象に渡すパパーハもこの時確認済みの状態でした。
今朝六時に装飾作業開始、同十時には完了。パパーハはいつでも渡せる状態にありました。
……同十一時四十分。展覧会の看板をマルゴが表に出した。
同刻、最終確認中にパパーハが……所定の位置から消失しているのを、マルゴが確認……」
『盗られたってのか!?』
「わかりません!!」
わからないと言いつつも藤田は、誰かに盗まれることはまず考えられなかった。
第一、こんなに狭い個展のアトリエ……ましてまだ開場前だ。誰が盗みに入るというのか。
そして藤田は元コンビニ店長で、万引き犯を何度も相手にしている。
万引き犯らが店の物に手を出す理由は、転売目的や生活に困窮しているからというケースよりも、精神疾患を患っているケースの方が多いいということを知っているのである。
そして、開店前のアトリエに盗みに入る人間は、どちらのケースにも含まれない。
無線に、三田村が割り込む。
『マルニーからマルゴ』
「マルゴです! どうぞ!」
『アトリエに出入りした人間は、マルヨンとマルゴの二名で間違いないか、どうぞ』
「えっと……業者三名出入りしましたが、最後の業者が出たのが、今朝の九時。その後に帽子の存在は確認してます」
じゃあ勝手に帽子が逃げ出したとでもいうのかよと、無線の向こうで中条の苛ついた声が聞こえた。
藤田は、一度冷静になって考えてみた。自分が最後に、パパーハを見たのはいつだった?
十一時には、目の前の、展示テーブルの上に飾ってあったはずなのだ……。
そこから四十分。猫の子一匹、このアトリエには入っていない。
藤田はアトリエの入り口に目をやる。
窓は密封している。出入り口は、この扉以外ないとする。
この扉が、最後に開いたのはいつだ……?
最後に開けたのは……展覧会の看板を表に出した『自分』だ……?
藤田は、扉を開けて外に出る。
異音に気がついて上を見ると……
真っ白いパパーハが、空を飛んでいく。
外だが藤田は大きな声を出した。
「至急! 至急! マルヨンから各位! 状況、帽子が浮遊!!」
『浮遊!? どういうことだ!?』
「……どうやらドローンで釣られている模様! なを、帽子を外に出したのは……どうやら俺のようです。
看板を出した後の記憶が欠如してます」
少しの沈黙の後、三田村から無線が飛んできた。
『マルニーからマルヨン。それは……体を乗っ取られた、という状況が正しいか、どうぞ』
「おそらくそうだと思われる! 誰に乗っ取られたかはわかりません!!」
『マルヒトから各位。対象間も無く現着。……マルヨンは対象をなるべく引き止めろ』
『……マルヨン了解』
『それからマルゴ』
「はい!!」
『裏切りじゃないんだな?』
「そんなことしません!!」
『じゃあそれを証明しろ。帽子を奪還せよ。どうぞ』
「…… ………帽子を奪還、マルゴ了解」




